視点
米の抱える国内分裂と失望ー脅威にさらされる米式民主主義
-
連邦議事堂への襲撃
バイデン米大統領がある演説において、国内での不和・分裂や失望感を収束させる必要性を強調するとともに、連邦議事堂への襲撃をはじめとした国内での最近の出来事に触れ、「我々は日々、我々の民主主義が一切保証されたものではなく、そのために戦わねばならないことを思い知らされている。投票権がありその票がきちんと計上されることは、神聖な事だと言える」と語りました。
バイデン大統領が、アメリカ社会における不和・分裂や亀裂の拡大を認めていることは事実上、特に昨年１１月の大統領選後、トランプ前大統領がバイデン氏の勝利という結果の承認を拒否して以降の、奥深い危機を物語っています。
トランプ氏とその選挙陣営による抗議をはじめ、州裁判所、挙句の果てには最高裁判所への上訴の繰り返しなど、米大統領選後の一連の出来事は、アメリカ式民主主義の正当性やゆるぎなさに疑問を投げかけています。
トランプ氏の立場表明、およびバイデン氏大統領就任の法的手続き阻止に向けたトランプ支持派に対する扇動は、最終的に2021年1月6日の米国議会への攻撃につながりました。この攻撃は実のところ、米国の共和党と民主党の間の支配権をめぐる亀裂とその拡大、ひいてはその影響のアメリカ社会への浸透、そしてトランプ氏の支持派と反対派への二分裂を象徴していました。同時に、この出来事は、世界におけるアメリカの地位や名声の崩壊と、第三世界の民主主義への凋落を引き起こしています。
リチャード・N・ハース米外交問題評議会会長.は、「ポストアメリカ時代に始点があるとすれば、それは間違いなくトランプ氏の支持者が議会を攻撃した日だと言える。米国が我こそは世界最大の自由民主主義体制だと主張していたとしても、そのイメージは今年1月6日の議事堂攻撃の後で崩壊した」と語りました。
実際、トランプ支持者の議会への攻撃の様子を公開した画像や動画クリップは、民主主義が存在せず、内輪の政治紛争に巻き込まれている国の政治的出来事を彷彿とさせるものです。イランの政治評論家ラフマーン・ガフラマーンプール氏は次のように語っています。
「アメリカの自由民主主義につけられた深い傷、そして議事堂襲撃事件は、アメリカの政治学者フランシス・フクヤマ氏が2010年に語った言葉を思い起こさせる。彼はこの時点で、アメリカの自由民主主義が衰退の兆しを見せていると公言していた」
民主主義の基盤の1つは、統治者の選出に果たす市民の役割であり、それは民主主義システムの支柱の1つとしての選挙プロセスを通じて実現されます。しかし、トランプ氏は、いわゆる米国の政治体制を保護する責務を負う現職の大統領でありながら、それを腐敗しているものだとして、米国の投票制度に疑問を呈しました。そして大規模な選挙不正が行われたと強調しながら自らの支持者に呼びかけ、騒乱を起こし議会を攻撃するよう促すことにより、その中で事実上、合法的なバイデン氏の大統領選出プロセスのかく乱を目的に、クーデターまがいの行動に出たのです。
半年前の米議事堂襲撃事件は、非民主主義国で起こっている出来事に類似しています。このように、アメリカの民主主義の基盤は崩壊し、世界におけるアメリカの名声はもはや失墜しているのです。これは、米国の凋落のもう1つの象徴と見なすことができます。この事件は、ポストアメリカ時代の始まり、特に民主主義の分野におけるアメリカ式のモデルと価値観が過去のものになったことを示しています。これを確認するためには、この点に関する新しい世論調査に言及する必要があります。7月4日米独立記念日の直前に発表された最新の世論調査によれば、トランプ支持派が2020年の米国大統領選挙の正当性に疑問を提示するために議事堂を襲撃したわずか数か月後、アメリカ人全体の3分の2、つまり67％が、アメリカの民主主義が脅威にさらされている、との見解を示しています。特にトランプ支持派は87％がこの脅威の存在を信じており、バイデン氏に投票した有権者の60％も、トランプ支持派と類似した見解を持っています。米民主党派から見れば1月6日の議事堂襲撃事件が、他方で、共和党派から見れば2020年11月の大統領選挙での不正疑惑が、米国の民主主義を脅かしたのです。
しかし、こうした見解の相違はあるものの、重要なポイントは、一般的にアメリカ人の間では、同国の民主主義が危機に瀕していると考えられているということです。このように、米国は現在、新型コロナウイルスの流行によって引き起こされた政治、社会、経済、保健衛生上の危機に加えて、その存在と合法性の危機に直面していると言えるのです。
ラジオ日本語のユーチューブなどのソーシャルメディアもご覧ください。
https://twitter.com/parstodayj
