イラン・イスラエル間の12日間戦争;より多くの戦費を払ったのはどちらか?
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イラン時間2025年6月13日午前3時15分頃、多数回の爆発によりテヘランに激震が走りました。
(last modified 2025-12-29T06:27:26+00:00 )
12月 29, 2025 14:32 Asia/Tokyo
  • イスラエルの侵略に対するイランのミサイル攻撃
    イスラエルの侵略に対するイランのミサイル攻撃

イラン時間2025年6月13日午前3時15分頃、多数回の爆発によりテヘランに激震が走りました。

もっとも、これらの攻撃はイランの核・ミサイル計画に対する複雑な作戦開始のきっかけに過ぎませんでした。シオニスト占領政権イスラエル空軍は、自爆無人機と対戦車兵器を装備した内部破壊工作員と連携し、まずイラン北西部の防衛網の一部を叩いて首都への進路を開き、その後現地時間の同日午前6時半頃、200機以上の戦闘機を投入して5波連続でイラン全土にまたがる数十の標的を攻撃しました。イスラエルの空襲はその後12日間続き、1500回の出撃能力を数えました。これらの攻撃は、「ライジング・ライオン」と呼ばれる広範な作戦計画の枠組みの中で想起されています。一方、イランはこの脅迫に対し、史上最大規模かつ最も集中的な弾道ミサイル攻撃を仕掛けました。この短期間で毎日数十発の飛翔体と合計500発以上の弾道ミサイルを発射したことは、イスラエル側のこれまでの推定を覆すものとなっています。

多くの人々の視点では、イラン・イスラエル間の直接衝突は不可避とされていました。特に2023年10月7日の事件、即ちパレスチナ側の対イスラエル攻撃「アクサーの嵐」勃発以降、イランとイスラエルは幾度となく対立の瀬戸際に立たされています。こうした傾向は、イランによる「真の約束1」(2024年4月13日)と「真の約束2」(2024年10月1日)と名付けられた2度のミサイル・無人機作戦によりその片鱗を見せていましたが、この対立は去る6月の12日間戦争でクライマックスを迎え、終結しました。

イスラエル占領地に向けたイランのミサイル攻撃

この作戦の前兆は、イスラエル側がイラン中部イスファハーンと首都テヘランにおいて、イランのS-300防衛システムの第4ミサイルシステムの構成部分の一部を狙い2度にわたり攻撃したことに遡ります。この作戦開始のわずか数か月前には、「真の約束2」作戦を受けてイラク国境付近の2つの早期警戒レーダー基地が標的となり、イランのレーダーの長距離監視能力が低下した格好となりました。この間、イスラエル空軍はイランの早期警戒網の動きを急激に活発化させ、日常的に予測可能なパターンを作り出すことで、その感度を低下させたのです。

この作戦が開始されたのは、IRGCイラン・イスラム革命防衛隊ミサイル部隊の一部及び、同国政府軍・IRGC合同防空部隊が年次演習の実施に割り当てられた直後のことでした。システムショックの教義に基づくこの複雑な作戦は、組織集団心理の崩壊および、指揮統制ネットワークのかく乱を目的に、突発的かつ的確な打撃を与えることが狙いでした。さらに「ライジング・ライオン」作戦の枠組みの中で、複数の補助的な作戦が計画されていました。「流血の結婚式作戦」では、殉教したホセイン・サラーミー総司令官、モハンマド・バーゲリー合同参謀本部議長、アミール・ハージーザーデ航空部隊司令官、ゴラームアリー・ラシード・ハータモルアンビヤー中央基地司令官らを含むIRGC幹部を標的とした暗殺が実行され、また「ナルニア国作戦」と呼ばれる別の作戦では、イランの核開発計画に関与する複数の科学者とその家族が攻撃されています。

この戦闘において、イスラエルが追求していた主要な目的は、次の3つでした。まず第1段階として、早期警戒レーダー、空軍基地、地対空ミサイルシステムの破壊により、イランの防空網の非効率性を露呈させ、次の段階への道筋をつけることに焦点が置かれました。続く第2段階の目的は、米国の直接介入の下、「ミッドナイト・ハンマー作戦」の枠組みの中で、テヘラン南部フォルドゥ、イラン中部ナタンズおよびイスファハーンにある核研究センター、未完成のハンダーブ原子炉といった施設を標的に攻撃し、イランの核開発計画に甚大な打撃を与えることでした。同時に、弾道ミサイル製造施設と貯蔵・格納庫の破壊により、イランのミサイル能力を弱体化させることも課題とされました。「真の約束作戦」でミサイル攻撃に対する自らの脆弱性を見せつけられたシオニスト政権にとって、この問題は極めて重要な優先事項でした。しかし、これらの集中的な攻撃でさえも、イランの反撃を阻止することはできなかったのです。

イスラエル軍による攻撃の第1波から3時間も経たないうちに、IRGC航空宇宙の無人機部隊は去る6月13日午前6時頃に反撃の第1波を開始しました。この中では、数十機の長距離自爆無人機がイスラエル占領地の標的に向かっています。

同日現地時間午後9時30分頃には、イランイスラム革命最高指導者ハーメネイー師の最初の演説と時を同じくして、イランによる最初のミサイル攻撃が行われました。もっともこれは、あくまでもイラン・イスラエル間12日間の戦争における22波のミサイル攻撃の序章に過ぎませんでした。今回のミサイル攻撃は、イランのこれまでの作戦とは異なり、より広範囲の標的を狙ったものでした。ちなみに、過去における2回のミサイル作戦でイランが狙ったのは軍事目標、具体的にはイスラエル空軍基地のみでした。

イスラエル占領地に対するイランのミサイル攻撃

しかし、イスラエル側からの攻撃はイランの軍事施設だけでなく、核施設、政府庁舎、病院、住宅、市街地など広範囲に及び、紛争の境界を拡大した形となりました。首都テヘランにあるモスタファー・ホメイニー病院への攻撃で深刻な被害を受けた医療センターには、ハキーム小児病院、ファーティマ小児産婦人科病院、シャヒード・モタッハリー火傷専門病院、ラッバーフィーネジャード病院などがあり、加えて西部ケルマーンシャー州のファーラービー病院なども被害を受けています。一方、救急車9台と救急ステーション6か所が被害を受けたほか、妊婦と新生児のケアを行っていた南西部フーゼスターン州ホヴェイゼ郡の救急センターとケルマーンシャー保健センターが完全に破壊されました。これらの攻撃では医師6人、看護師4人、赤新月社職員4人が殉教しています。

民間人、特に集合住宅や民家への攻撃は、軍司令官や科学者、そしてその家族らの殉教をまねいたのみならず、多数の民間人も標的となりました。イラン保健医療教育省の統計によれば、これらの攻撃により約700人の民間人が死亡・殉教し、5000人以上が負傷しています。これらの殉教者の中には、少なくとも49人の女性と13人の子供が含まれていました。また、この戦争の最中にシオニスト政権は、政治家ら(大統領と国会議長を含む)が出席するイラン国家安全保障最高評議会の秘密会議の爆破をも画策していたのです。

このため、イランは防衛計画において軍事・治安拠点に加え、政府機関やインフラ施設(一部は都市部に位置するもの)を攻撃対象としました。イランはミサイルの正確な発射数を発表していませんが、イスラエルの公用語・ヘブライ語の情報筋によれば、500発以上の弾道ミサイルが発射されたとされています。これは574発から631発の範囲で、1日平均では40発から52発の発射に相当する計算になります。

イランによるミサイル攻撃の開始に伴い、イスラエル軍検閲局(政権軍情報機関アマンの傘下)は、ニュースの検閲、情報統制、そして公式・非公式メディアにおけるイランのミサイル攻撃とその影響に関する画像の掲載制限という決定的な措置に出ました。しかし、ごく限定的な掲載画像や情報から、イランの狙った標的は軍事・安全保障、経済・インフラ、そして居住地という3つの側面から分析できます。以下では、その最も重要な標的を個別に検証していきます。

イスラエル占領地に対するイランのミサイル攻撃に関する統計

第1部:軍事安全保障上の標的

テルアビブ市内ハキリヤ・ラビン・キャンプ(HaKirya Camp Rabin) 、キリヤ合同庁舎

イランによるミサイル攻撃の第1波に関する複数の報道によれば、イスラエル占領地の主要都市テルアビブ中心部の一地点が標的とされたということです。この場所はラビン・キャンプ(旧称キャンプ・マトカル128)で、5つの主要部門で構成されています。その5つの部門とは、軍参謀本部およびイスラエル戦争省が入っている参謀タワー、参謀本部の管理棟と通信センターのマルガニト・タワー、空軍司令部を含む軍の事務所が入っているカナリー・タワー、国防省と首相官邸が使用するシモン・ペレス・ハウスとして知られるビルディング22、そして緊急時に参謀本部が使用するシオニスト・ピットまたは要塞として知られる地下最高司令部です。攻撃当日の夜に公開された画像によれば、これの区域の少なくとも一箇所が標的とされており、攻撃時に発表された報道では、イスラエル戦争省が標的とされたことも報じられています。

テルアビブ市内にあるハキリヤ・ラビン・キャンプ

キルヤト・エクロン – レホヴォトにあるテルノフ空軍基地

テルノフ空軍基地(別名第8空軍基地)には、第106飛行隊と第133飛行隊(F-15C/D戦闘機)、第114飛行隊と第118飛行隊(CH-53K/Dヘリコプター)、第210飛行隊(エイタン偵察・戦闘無人機)、第5601飛行隊(飛行試験センター)、第555部隊(空中電子戦センター)、第669部隊(捜索救難部隊)、第888部隊(特殊部隊)が駐留しています。イスラエル軍が公開した映像によれば、この基地に駐留する戦闘機は、同軍による「悔恨の日々」作戦及び「ライジング・ライオン」作戦における空爆に参加しています。

2025年7月12日にテルノフ基地から受信された衛星画像は、12日間戦争中にイランのミサイル攻撃により、同基地中心部の少なくとも4つの建物が損傷または破壊されたことを示しています。これらの画像を詳しく分析すると、基地内の専用住宅区域もイランの「真実の約束2」ミサイル攻撃の標的となり、この地域の少なくとも8つの建物が破壊され、現在再建中であることが示されています。

テルノフ空軍基地

上の衛星画像は、テルノフ空軍基地の攻撃対象地域を示しています。赤い地域は12日間戦争中に、オレンジ色の地域は「真の約束作戦2」中に攻撃対象となった区域です。

テルアビブ北部ヘルツリーヤのグリロット・キャンプ 

テルアビブ北部のグリロット・キャンプは、ヘルツリーヤのグリロット交差点に位置し、面積約2平方キロメートルのイスラエル軍情報機関アマン第8200部隊の主要基地となっています。この複合施設には、キャンプ・ヘルツォグ(軍事情報局の学校がある)、キャンプ・ダヤン(陸軍士官学校がある)、そしてアヤロン高速の東、グリロット交差点に位置する情報遺産センターと情報戦没者慰霊碑が含まれます。高速の西側、グリロット・キャンプの向かい側には、イスラエル諜報機関モサドの建物があります。これまでい公開されている、6月17日のイランによるテルアビブ北部へのミサイル攻撃の映像からは、少なくとも1発のミサイルがグリロット・キャンプの格納庫に着弾したことが確認されました。イスラエル政権は軍事検閲を実施してこの事件に関するニュースの公表を阻止しようとしましたが、攻撃現場から公開された初期画像にはシオニスト政権の軍事情報局の紋章が描かれた標識が写っており、標的地域がイスラエル諜報機関アマンだったことが確認されています。

テルアビブ北部ヘルツリーヤのグリロット・キャンプ

テルアビブ南部レフヴォトのワイツマン科学研究所

ワイツマン研究所は研究志向のセンターとして、数学、物理学、化学、生物学、生化学など、様々な分野で活動しています。研究活動に加え、研究所は軍事技術企業に関連する複数の科学プロジェクトにも参加しています。これらのプロジェクトには、デュアルテクノロジー(センサー、画像システム、リモートセンシングなどの製造を含む)や、エルビット社、イスラエル航空宇宙機構、ワイツマン研究所が共同で開発している衛星ULTRASATの構築プロジェクトなどがあります。イスラエルによるイラン空爆開始から2日後の6月15日には、イランがイスラエル占領地中部をミサイル攻撃し、ワイツマン研究所が標的となったというニュースが報じられています。

ワイツマン研究所

翌朝公開された画像と報道によれば、ワイツマン研究所構内の2棟の建物が破壊され、研究室にも被害が及びました。ワイツマン科学研究所構内の衛星画像からは、イランの弾道ミサイルがウルマンビル(生物学棟)と新化学棟(2021年から建設中)を含む2棟の建物を直撃したことが判明しています。

イランのミサイル破壊による廃墟と残骸

さらに、爆発による被害はアイザック・ウルフソンビル、ウルフソンビル、ロキ施設、モスコヴィッツビルを含む少なくとも4棟の建物にも確認されました。これらの施設は、イスラエル政権によるイラン防衛研究イノベーション機構(Sapand)への攻撃への報復として標的となった可能性が高いと見られます。これまでの報道によれば、イランによるワイツマン研究所へのミサイル攻撃により、同研究所の建物2棟が破壊されたほか、住宅棟52棟と実験棟60棟を含む112棟のワイツマン研究所関連の建物が被害を受けました。これらの被災した建物のうち5棟は再建が必要となり、研究室52棟とサービス室6棟が破壊されています。ワイツマン研究所はこうした被害により、その業務の5分の1から4分の1が停止し、物的損害は約4億5000万ドルから6億ドルに上りました。

ワイツマン研究所

上の衛星画像で赤で示された部分が、イランの弾道ミサイル2発の直接の標的となったワイツマン研究所構内の2棟の建物を示しています。さらに、オレンジ色で示された近隣の建物の各階は、ミサイルによる爆風の被害を受けました。

第2部:経済インフラの標的

ハイファ製油所

去る6月14日のイスラエルによるテヘラン北部シャフラーン石油貯蔵所への攻撃を受けて、イランは6月16日に報復措置として、イスラエル占領地北部ハイファにある製油所をミサイル攻撃しました。かつて、肥料と特殊化学事業を行うイスラエル拠点の企業ICLグループが所有していたこの製油所は、2022年9月にバザン石油化学グループに移管されています。2024年のデータによれば、バザングループはイスラエル政権の輸送ニーズに必要なディーゼル燃料の65%、消費されるガソリンの59%、政権の航空機が使用する灯油の52%を供給しています。イランの攻撃後、ハイファ製油所の少なくとも3か所が攻撃されており、公表されたニュースによれば、この攻撃により同製油所の従業員3人が死亡し、操業再開は去る10月まで延期されていました。イスラエル公用語・ヘブライの情報筋は、この攻撃により1億5000万ドルから2億ドルの損害が発生し、そのうち補償基金からの前払い金として提供されたのはわずか4800万ドルであると発表しています。

占領地北部にあるハイファ製油所

テルアビブ近郊ラマトガン地区のツインタワー

ラマト・ガン・ツインタワーは、テルアビブ近郊のダイヤモンド取引所地区にある複数の商業ビルの一つで、商業目的で使用されていると報告されています。去る6月19日のイランによるミサイル攻撃では、ラマト・ガンのダイヤモンド取引所地区、特にラマト・ガン・ツインタワー付近の地域がイランのミサイル攻撃を受けました。複数の報道によれば、イランの攻撃によりこのタワーの少なくとも1棟の建物が破壊され、同ツインタワーを含む近隣の建物も爆風の被害を受けています。

テルアビブ近郊ラマト・ガン地区のツインタワー

第3部:住宅地

12日間戦争中にイランの弾道ミサイルが命中したイスラエル占領地内の地域を調査したところ、住宅地にも着弾痕が確認されました。これらの地域が標的とされた最も重要な理由の一つは、イランが旧式の弾道ミサイルを使用していたことにあります。これは、イラン西部基地(イランの次世代固体燃料ミサイルを配備していることで有名)が運用不能になったことで生じた制約によるもので、イランはミサイル攻撃において旧式の液体燃料ミサイルに大きく依存するようになりました。

イランの液体燃料ミサイルは主にミサイル・シャハーブのシリーズをベースに開発され、この戦争ではガドル及びエマード・バージョンが幅広く使用されました。しかし、ハイバル・シェキャン及びファッターフ・シリーズの固体燃料弾道ミサイルよりも誤差円が大きいことに加え、GPS/GNSS衛星誘導に基づく誘導システムを使用しているため、電子戦の影響と終末段階(RV/MaRV弾頭の大気圏再突入)での航法システムの混乱により、より大きな誤差に直面すると見られます。

イランの弾道ミサイルが住宅地に着弾した原因の1つに、これらミサイルの固有の誤差に加え、キブツ(集産主義的共同体)、都市部、人口密集地付近にイスラエル軍・治安部隊が配備されていたことが指摘されています。その例として、テルアビブ中心部ハキーリヤ地区にあるラビン・キャンプ地区に配備された政権軍の対弾道ミサイル防空砲が挙げられます。6月13日夜にテルアビブへのイランによるミサイル攻撃の第1波(少なくとも1発の命中が確認)の公開画像によれば、住宅地の多いテルアビブ中心部に防空砲が配備されていたことが明確に確認できます。

バト・ヤム地区の高層ビル

テルアビブ近郊バト・ヤムの11階建て高層ビル

現地時間6月15日夜には、テルアビブを含む占領地中心部は、イランのミサイル攻撃を受けた区域の一つとなりました。この時にはイランの弾道ミサイルがテルアビブ南部近郊のバト・ヤム地区に着弾し、11階建ての高層ビルと4階建ての建物に直撃し、これにより少なくとも7人が死亡しました。標的となった区域を7月12日に撮影した衛星画像には、これらの建物の被害状況が写っています。

バト・ヤム地区の高層ビル

ハイファ南部ネヴェ・ヤム(テルアビブ近郊)

6月14日夜、イランによるミサイル攻撃の標的となった地域の1つは、占領地北部ハイファの南部に位置するリション・レズィオン(Rishon LeZion)地区内ネヴェ・ヤムの住宅街でした。人口25万人を超えるリション・レズィオンは、2023年まではイスラエル占領地内で5番目に人口の多い都市とされていました。しかし、イランが6月14日に同地区をミサイル攻撃した際に公開された画像および、7月12日に受信した衛星画像の分析によると、ネヴェ・ヤム地区の2棟の建物がイランの弾道ミサイルの直撃により完全に破壊され、現在は解体されているtことが分かります。また、各種の報道で公開された映像は同地区の少なくとも11棟の建物がイランの弾道ミサイルの爆風によって破壊され、様々な程度の損傷を受けたことを示しています。

ネヴェ・ヤム

この戦争の最も際立ったポイント一つは、イランによる予想外の弾道ミサイルの組み合わせです。イラン側から発射されたミサイルのほとんどは液体燃料ミサイル、及び旧世代の「ガドル」及び「エマード」でした。「シャハーブ3」をベースとした2009年版の「ガドル」シリーズはシンプルな着脱式弾頭を搭載しており、着脱式誘導型爆弾の「エマード」は2015年に公開されたものです。また2024年には、別の改良型バージョンが供給されました。これらのシステムは、「ハージ・ガーセム」や「ハイバル・シェキャン」といった最新世代のシステムに比べて大型で、精度が低い上に速度が遅く、誤爆率も高く、また敵に容易に迎撃されやすいものでした。

これらの一連の問題点が生じたのは、イランの近代的なミサイル備蓄が主に同国西部、南西部、北西部の基地に集中している状況下でのことです。過去の経験に基づき、シオニスト政権イスラエルはイラン北西部の西アーゼルバーイジャーン、西部ロレスターン及びケルマーンシャー、南西部フーゼスターンといった国境地帯の州にあるミサイル基地を繰り返し攻撃しました。これらの州には近代的な備蓄基地が10カ所以上存在します。イスラエル軍機による絶え間ない巡回により、発射装置の特定・攻撃、さらにはトンネルや補給路への入口の破壊を狙った試みが可能となりました。地下部分はほぼ無傷のままであったものの、入口が破壊されたため、地下部分は閉鎖されたままとなっています。

実際、イスラエル側のミサイル攻撃の主力は4日目以降、中部イスファハーン州、首都テヘラン州、南部ファールス州、北西部カズヴィーン州の中部および北部など、主に旧式の長距離ミサイルが装備された基地に移っていったのです。固体燃料中距離弾道ミサイル「ハイバル・シェキャン2」や固体燃料戦術誘導弾道ミサイル「ハージ・ガーセム」といった最新鋭ミサイルは、ごく限られた数のみがごく稀に使用されのみでした。これは、防御網の飽和を狙った液体燃料弾道ミサイルの同時発射に加えて、特定の標的に対する先進的な固体燃料ミサイルの限定的な発射を伴うものでした。

イランがその能力を存分に発揮する機会がなかった中、イスラエルの弾道ミサイル防衛網は前例のないほど強化されていました。戦闘中、米国とイスラエルは情報、指揮、作戦、統合ミサイル防衛の分野で広範に協力していました。同時に、イランの激しい攻撃に対してイスラエルの迎撃ミサイルの備蓄が減少するにつれ、米国防衛システムに対するイスラエルの依存度が高まったのです。推定によれば、米国はイスラエル防衛のために230発以上の弾道ミサイル迎撃ミサイルを発射しています。この時期のイスラエル政権の多層防衛シールドには、弾道ミサイル迎撃を目的とする艦船発射型弾道弾迎撃ミサイル・スタンダード3、弾道弾迎撃ミサイル・アロー3、THAAD終末高高度防衛ミサイル、そしてアロー2とスタンダード6の内空迎撃ミサイルが含まれていました。

米国が限られた弾道迎撃ミサイルの使用に多額の費用を費やしたことは、対イスラエル支援における米国のミサイル防衛システムの重要性を如実に示すものです。高度ではあるものの限定的なイスラエル防衛システムへの支援は、イラン・イスラエル戦争における重要な要素として認識されており、シオニスト政権の迎撃能力は短期間でほぼ倍増しました。推定によれば、シオニスト政権は最大100発の弾道ミサイル・アローを同時発射する能力を有しており、テルアビブ南方パルマヒム、占領地南東部エイン・タマル、テル・シャハル、南部エイラートの4か所に設置された移動式発射台とコンクリート・シェルターは、再装填を必要とせずにこの能力を発揮します。

米国はイスラエル政権を支援するため、2つのTHAADシステムを配備しました。第1基は2024年10月末までに南部キルヤト・ガト南方に、2基目は2025年4月にネゲブ砂漠内のネバティム空軍基地付近に配備されています。それぞれのTHAADシステムは6基の発射装置を備え、48発の迎撃ミサイルを搭載し、最大9基まで拡張可能です。米国際情報サイト、WSJウォール・ストリート・ジャーナルによれば、12日間の戦闘で150発以上のTHAADミサイルと約80発のスタンダード3ミサイルが発射されており、これはTHAADシステム3基分のフル稼働に相当すると見なされています。

一方でイランが発射した約574発の弾道ミサイルのうち、イスラエル政権は257発の迎撃を試みたと主張しており、そのうち201発は完全に成功、20発は半分成功、36発は失敗とされています。もっとも、ここで留意すべき点は、こうした主張の一方で、イランのミサイルが占領地に着弾する映像は厳しく検閲されていたことです。

近い将来、イランにとって大きなチャンスが訪れる可能性があります。これらのチャンスとは、軍事戦術の見直し、ミサイル能力に関連する産業基盤の再構築、既存システムの機敏性向上、そして新世代兵器の運用サイクルへの導入といった形で定義できます。しかし、これらの能力が最大限の効果を発揮するには、防衛ネットワークと防衛力の再構築が必要となります。一方、イスラエルの弾道ミサイル防衛能力の再構築と回復は、費用と時間を要するプロセスであり、このことは中期的にはイランに有利な形で抑止力のバランスを変える可能性があります。

イランの極超音速ミサイル「ファッターフ」

イランイスラム革命最高指導者ハーメネイー師の代理で元最高国家安全保障会議議長だったアリー・シャムハーニー少将や、元IRGC空軍司令官だったモハンマド・バーゲル・ガーリーバーフ国会議長を含むイラン高官の公式声明によれば、イランは2024年4月以前にはイスラエルとの直接の戦闘経験はありませんでした。したがって、「真の約束1」作戦は、イランがイスラエルの防衛システムと直接対峙した初の作戦経験とみなされています。イラン軍最高司令部は、この作戦の結果を「技術的には価値があったものの、作戦効果の点では満足のいくものではない」と見ています。

この作戦では、150機以上の無人機と100発の弾道ミサイルが、占領地内奥の標的に向けて同時に発射されました。しかし、これらのシステムの飛行特性には大きな差があり(無人機の飛行時間は9~10時間、巡航ミサイルは約2.5時間であるのに対し、弾道ミサイルはわずか12~20分)、攻撃波間の正確な時間調整は困難を極めました。この経験は、その後の作戦、すなわち「真実の約束2」および「真実の約束3」の2つの作戦の企画に直接反映され、その後の段階においてIRGCミサイル司令部は、より高い戦術的独立性と発射の連続的なタイミングにより、シオニスト政権の防衛システムへの命中率と侵入率を向上させることに成功したのです。

どうやら、イランの戦略資産の相当部分は意図的に未使用のままにされていたものと考えられます。セジール、ホッラムシャフル3、ホッラムシャフル4といった長距離弾道ミサイル、そして巡航型無人機シャーヘド238、そしてアブ・マハディやパーヴェといった地対地巡航ミサイルは、依然として温存・保有されていました。占領地内奥を狙う上で射程距離制限がないことから、この決定は、紛争の今後の段階における抑止力と能力維持を考慮したものと言えます。イランの最新弾道ミサイル技術の中でも、ホラムシャフル・ミサイル・シリーズの特徴として、最新の航法サブシステム、高度な飛行制御システム、そして多層ミサイル防衛システムを突破するための最適化された設計が挙げられます。最近の12日間戦争でこれらのミサイルが使用されなかったことは、将来の紛争に備えた戦略能力の備蓄・温存の表れと捉えることができます。

今回の戦争では、固体燃料や爆発物の製造に関連する多くの施設、そしてイランのミサイル計画に関連するインフラの一部が、シオニスト政権の空爆の標的となりました。しかし重要な問題は、これらの攻撃が果たしてイランの弾道ミサイル製造チェーンをかく乱させられたのか否か、という点です。独立系の分析機関やメディアによって公開された証拠映像は、イランのミサイル製造プロセスの一部が、2019年2月に公開された同国南西部デズフールの弾道ミサイル組立ライン施設を含む、地下の堅牢な施設で行われていることを示しています。

そのため、イスラエルの現在の能力では、イランのミサイル製造チェーンを完全に解体することは事実上不可能です。ミサイル生産ラインを地下に移す動向は、今後さらに加速していく可能性が高いと思われます。地下施設での燃料や爆薬の生産は非常に困難ではありますが、中期的にはイランにとって利益となると考えられます。

生産中断が発生した場合、イランの既存の兵器備蓄は複数回の紛争に対応できると推定されています。特に、ハイファ製油所の破壊に関与した可能性のある固体燃料の極超音速・準極超音速ミサイル「ハイバル・シェキャン」及び「ファッターフ」は、弾道ミサイル防衛の観点から非常に大きな脅威となると考えられています。これらの備蓄の大部分はイラン西部の基地に無傷のまま温存されており、現在はイラン中部の数か所に拡散して配備されていると推定されています。

イランとは対照的に、同様の紛争におけるイスラエルの防衛費は膨大に膨れ上がり、ほぼ賄いきれないと推定されています。イスラエルのミサイル備蓄の正確な統計は機密扱いではあるものの、アメリカ当局はイスラエルの軍備状況を危機的なものと表現しています。2024年10月15日付の英フィナンシャル・タイムズ紙の報道によれば、イスラエル政権は迎撃ミサイル不足という深刻なリスクに直面しています。ダナ・ストロール元米国防次官補(西アジア問題担当)の見解でも、イスラエル政権の弾薬問題は極めて深刻とされています。イスラエル主力航空機メーカーであるIAIイスラエル・エアロスペース・インダストリーズのCEOも「迎撃ミサイルの生産ラインが3交代制でフル稼働しているものの、消費された在庫の一部しか補充できない」と表明しました。

加えて、米国の状況もそれほど芳しいものではありません。2025年までにロッキード・マーティン社が製造した迎撃ミサイルTALONは約900発にとどまり、うち192発はUAEアラブ首長国連邦に、50発はサウジアラビアに納入されています。米国が保有する残りの658発のうち、約25発が演習に使用され、約150発が最近の戦争で発射されました。これは、米国の運用在庫が500発未満にまで激減し、実質的に米国の運用ミサイル8発のうち4分の1が占領地域向け専用であることを意味しています。米国が今年受領する新たな迎撃ミサイルはわずか12発で、2026年にはさらに少ない37発のみに留まっています。年間生産能力が100発のフル稼働でも、備蓄の補充には18ヶ月以上かかり、サウジの360発のミサイルなど、海外からの注文の納入に支障をきたす可能性が指摘されています。

ここで留意すべきことは、米海軍のイージスシステムも、この戦闘で約80発の「スタンダード3」ミサイルを発射したことです。2024年までに米海軍に納入されたのは、これらのミサイルのうち約398発のみでした。2023年から2025年1月までに、イエメンのイスラム抵抗組織アンサーロッラーの無人機や巡航ミサイル、弾道ミサイルに対抗するために400発以上のミサイルが使用されましたが、この数字には、SM-2ミサイル120発、SM-6ミサイル約80発、SM-3ミサイル20発、およびレイセオン社が開発した多数の艦対空ミサイルESSMが含まれます。「真の約束2」作戦での12発のミサイルと「真の約束3」作戦での使用された80発のミサイルを含めると、これまでに「スタンダード3」ミサイルの総備蓄の約23%が使用された計算になります。これらのミサイルの射程距離は700~900キロで、大陸間核弾道ミサイルに対する米国の数少ない防衛手段の1つです。

以上のことを踏まえると、将来のいかなる紛争においても、米国がイスラエル占領地に対する有効な防衛の傘を維持できなければ、シオニスト政権が被る損害は倍増し、壊滅的なものになると言えるでしょう。

 

 


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