ヨーロッパの主権はアメリカの政策の犠牲になるのか?
https://parstoday.ir/ja/news/world-i131136-ヨーロッパの主権はアメリカの政策の犠牲になるのか
カヤ・カラスEU外務・安全保障政策上級代表が、「前EU当局者の渡米制限という米国の行動は受け入れられず、これは欧州の主権に対する挑戦である」と語りました。
(last modified 2025-12-27T12:36:44+00:00 )
12月 27, 2025 17:45 Asia/Tokyo
  • カヤ・カラス(カッラス)EU外務・安全保障政策上級代表(エストニア出身
    カヤ・カラス(カッラス)EU外務・安全保障政策上級代表(エストニア出身

カヤ・カラスEU外務・安全保障政策上級代表が、「前EU当局者の渡米制限という米国の行動は受け入れられず、これは欧州の主権に対する挑戦である」と語りました。

【ParsToday国際】カラス上級代表は「X」への投稿で、先般の米国による新たな決定に対する欧州委員会の抗議内容を再投稿し、「欧州市民と前当局者に渡米制限を課すという米国の決定は容認できず、これは我々の主権への挑戦だ」と書き込んでいます。さらに「欧州は、表現の自由、公正なデジタルルール、そして自らの空間を調整する権利といった自らの価値観を今後も固守していく」とコメントしました。

米国務省は先週、元EU委員兼欧州委員会元技術規制当局者でもあるティエリー・ブルトン氏を含む5人のビザ発給を拒否しました。これは「米国のSNSプラットフォーム運営者に反対意見の抑圧を迫ろうとした(米国の見方の検閲・抑圧を米プラットフォームに強いる組織的な活動を主導してきた)」行為を理由としており、欧州諸国の怒りを買った形となっています。この動きは、欧州当局者にとって屈辱的と受け止められました。米国政府はブルトン氏を、SNS企業に偽情報の拡散防止などを義務づけるEUの「デジタルサービス法(DSA)」の「立案者」だと見なしています。ブルトン氏は米国政府の措置に対し批判的な口調で反応し、米国は「魔女狩りに熱を挙げている」とコメントしました。

欧州委員会は「X」内の公式ページで、表現の自由は「欧州における基本的人権であり、民主主義世界全体で米国と共有されている価値である」と強調するとともに、ティエリー・ブルトン前欧州委員を含む5人の欧州関係者に対して渡航制限を課すという米国の決定を強く非難する」と表明しています。

EU当局は「EUの価値観に沿ってデジタル市場を規制することはEUの主権上の権利である」とし、EUの規則は「公平かつ差別なく」適用されると付け加えました。また欧州委員会は、米国の事実無根の行動からEUの「規制上の自治」を守るために必要であれば「迅速かつ断固とした」対応を取ると警告しています。

ブルトン氏は、ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が率いる第1次欧州委員会で域内市場担当委員を務め、DSAデジタルサービス法の起草に重要な役割を果たしました。この法律は、テクノロジー企業やSNS企業に対し、自社のプラットフォーム上で公開されるコンテンツに対する責任を負わせ、企業の年間世界売上高の最大6%に相当する罰金を科すことを規定しています。デジタル規制は長年にわたり米国とEUの間で緊張の焦点となり、双方は「EU圏内で事業を展開する企業にとって単なる市場規準ルールであるべき規制を政治化している」として互いに相手を非難してきました。

今月初旬、米ホワイトハウスが新国家安全保障戦略文書を発表して物議をかもし、ヨーロッパは抜本的に方針転換しなければ「文明崩壊」の瀬戸際に立たされる、と警告したことで、緊張はさらに高まりました。この文書の中で、トランプ米現政権はヨーロッパが「違法かつ過剰な規制と検閲」の重圧に押しつぶされそうになっていると主張しています。米国政府、特にドナルド・トランプ大統領自身は、極右の個人や団体がヨーロッパのSNS上で人種差別的な思想の拡散をより厳しく制限されているという事実を繰り返し批判してきました。

こうしたアプローチは、独ミュンヘン安全保障会議におけるJ.D.ヴァンス米副大統領の演説に基づいています。ヴァンス副大統領は、EUにとって最大の脅威は外部ではなく「EU自身の内部法」であると主張しており、欧州委員らを「委員」と呼び、「外国の干渉」は検閲の口実だと主張しました。しかし、EU側はこれらの主張を否定しています。欧州の政治家の多くは、トランプ氏のアプローチを説明する際に「多くの欧州諸国に言論の自由がないとトランプ氏が言うのは、極右団体や人種差別主義者に彼ほどには場を与えていないという意味だ」と述べています。

第2次世界大戦後、そして冷戦後の時代においては、欧米関係は安全保障、経済、政治面での協力関係を基盤としていましたが、近年では制裁、デジタル技術、エネルギー政策などをめぐる対立が、欧州がアメリカからどの程度独立・自立しているか、という深刻な疑問を提起しています。先般において米国が欧州当局者5人に制裁を課した後、カラスEU上級代表が米国を批判したことは、こうした懸念を如実に物語っています。カラス代表は、欧州は「自由の真髄」として認識されるべきであり、米国の批判はEUではなくロシアなどの国に向けられるべきだと強調しました。カラス氏の批判は、独立したアイデンティティの再構築に向けたEUの努力の表れと捉えることができます。米国はこれまで通り欧州最大の同盟国であり続けると思われるものの、米国からの圧力行使と制裁政策の続行は、欧州が大西洋を隔てたアメリカとの関係の見直しにつながる可能性があります。

こうした状況の原因は、以下に挙げるいくつかの側面から考察することができます;

第1に、NATO北大西洋条約機構を通じたヨーロッパの安全保障上の対米依存は、アメリカがヨーロッパの多くの戦略的決定において決定的な役割を果たすこと、そして同時にヨーロッパ諸国に自国の要求を呑むよう迫ることにつながっています。第2の点として、ヨーロッパ諸国、さらには個人に対するアメリカの経済分野での圧力行使と一方的な制裁は、EUの外交政策の独立性に疑問を投げかけています。第3に、ITとデジタル空間の分野において、ヨーロッパは「DSAデジタルサービス法」などの厳格な法律によってアメリカ企業を抑制しようとしているものの、これらの措置に対するアメリカの反応は、同国が容易に影響力を失うつもりがないことを裏付けています。

このような成り行きがもたらす影響も、また重大なものです。ヨーロッパが自国の利益とアメリカからの圧力のバランスを取れなければ、政治・経済的主権を損なうリスクがあり、これはヨーロッパ諸国間の溝の拡大につながりかねません。一部の国、特に東欧諸国は引き続き米国との同盟関係を強調する一方で、他の国はより強い独立性を求めると思われます。こうした緊張は、ヨーロッパが中国などの大国への接近や、ロシアとの関係再構築を試みるような事態をもまねく可能性があります。ここで重要な問題は、ヨーロッパがアメリカの傘の下での安全保障の必要性と、政治・経済的独立性を維持する必要性のバランスを取れるか否か、ということなのです。

 

 


ラジオ日本語のソーシャルメディアもご覧ください。

Instagram Twitter