視点
他国を踏み台にする米の外交戦略
アメリカの外交政策における戦略の1つは、特に反米国家をはじめとした他の諸国を踏み台・捨て石にすることです。
1990年代初頭の旧ソビエト連邦の崩壊後、アメリカは世界秩序の唯一の覇権国となりましたが、同国の一極的かつ一方的なやり方や秩序は、特に2010年台に衰退し始め、国際体制は多極化の方向に向かい始めました。アメリカ主導の一極的で一方的な体制に異議を唱えてきた国としては中国、ロシア、EU、そしてイランなどの新興大国が挙げられます。
アメリカは一極主義体制の衰退に抗うべく、あの手この手を使ってさまざまな戦略に訴えてきました。そうした戦略には手段としての制裁とドルの行使、アメリカから見て反抗的と思われる勢力に対する連合の結成、特にそうした国々を国家間戦争や国内危機に巻き込むことです。
これらの戦略は、単体で、または複数組み合わせて相手国に行使されます。アメリカによる圧政的な政策の犠牲となった主な国はイラン、ロシア、シリア、イエメン、ウクライナの各国です。
イランは、アメリカによる制裁やドルの手段的な利用、そしてシリアやイエメンでの紛争を目の当たりにしてきました。シリアでも2011年以降、米国とその同盟国の支援を受け各国から集まった複数のテロ組織が内戦を始めました。そして2015年には、サウジアラビアを中軸とし西アジア地域での抵抗勢力の強大化を阻止すべく米国の支援を受けた戦争が勃発しました。
アメリカの最も重要な世界的ライバルであるロシアは、2022年2月からウクライナ戦争に関与しています。西側諸国のコントロールにより勃発し、長期化・疲弊の道を歩んでいるこの戦争の主な目的は、ロシアの世界的地位を弱め、国際体制におけるアメリカの位置づけを有利にすることにあります。そしてこの戦争の最大の犠牲者は他でもなく、アメリカの対ロシア外交政策の道具に成り下がったウクライナ国民なのです。
これに関連して、シリアのアサド大統領は今月25日夜、ロシアのラブレンチエフ・シリア問題担当大統領特使及びその随行代表団と会談した際、米国が他国を踏み台・捨て石にしていることを批判し、「アメリカと西側諸国は世界的な政治・経済危機を引き起こし、それにより世界全体が情勢不安のダッチロールに巻き込まれた。これらの国々の思惑は国際レベルでのロシアの地位を破壊することであり、この点で彼らはウクライナを道具として利用したことになる」と語っています。
他国を踏み台にするというアメリカの国家戦略が引き起こしたのは、数十万人の死傷、それらの諸国内外の数百万人の避難民の発生、数十万の家屋の破壊、数百万人が住処を失ったことに加え、対象国が数千億ドルの経済的損害を被るという惨憺たる結果でした。
これらの国の国民は、自らのライバル国の台頭や一方的な一極主義体制の終焉を押しとどめようとするアメリカの政策の犠牲者となったのです。
そして、この出来事におけるもう一つの苦々しい点は、こうした危機を生み出した当のアメリカが、これらの国々における人権と民間人の擁護を主張し、国連安保理を利用していることなのです。