家庭における父親の不在が子どもの躾に及ぼす影響
前回は、家庭における父親の不在が、子どもの行動面に及ぼす影響についてお話し、両親が離婚した家庭の子どもには、親と死別した子どもよりも行動面での問題が多く見られることについて説明しました。
残念ながら、片親のみの家庭は、子どもの躾や教育といった別の問題にも遭遇しています。今夜は、家庭における父親の不在が子どもの躾にもたらす影響とともに、子どもの保護監督者としての母親が、どのような問題に直面しているのかについて考えることにいたしましょう。
父親が、離婚或いは死亡したり、また責任感の欠如から家庭を放棄したなどの理由により家庭に存在しない場合、母親が1人で子どもの保護監督の責務を負うことになります。こうした場合、母親は子どもの躾に当たって数多くの問題に直面することが多くなっています。配偶者のいない母親の多くは、家庭の保護監督者として子どもの教育に時間を割くことが困難な状態にあります。それは、長時間にわたって自宅外で就労しなければならないため、子どもと一緒に過ごす時間がそれほどないからです。
例えば、配偶者を失って間もない母親は、生活をともにし支えあうパートナーの不在を悲しむ暇もなく、父親としての役割も果たさなければならなくなります。このことにより、彼女たちが家庭経済のニーズを確保すると同時に、子どもたちを励まして元気を取り戻させるには数年かかる可能性があります。また、離婚により家庭の保護監督の役割を負担することになった母親たちも、それまでの共同生活において受けた痛手により、子どもの躾に当たって大きな問題を抱えていることが多くなっています。
社会学の専門家によれば、両親が揃っている家庭は子どもにとって最高の生活形態と見なされています。このことからすると、片親のみの家庭は両親が揃っている家庭に比べて、子どもの躾に適した状態にはないということになります。
多数の調査の結果によれば、正式な結婚による両親が形成する伝統的な家庭のモデルこそが、最も長続きし、社会の安定や存続に最も適したモデルであることが判明しています。スウェーデンで実施されたある調査は、このことを明確に裏付けるものです。この調査では、2つのグループがサンプルとして提示され、片親のみと暮らす6万5000人以上の子どもと、実の両親と暮らす100万人の子どもの集団に対し、10年間にわたり調査が行われました。この調査の結果、対象となった2つのグループの子どもたちの数に違いがあったにもかかわらず、両親の揃っている家庭の子どもよりも、片親のみの子どものグループのほうが行動面での問題が多いことが明らかになっています。また、精神疾患や自殺、自殺未遂、他人への迷惑となる行動や麻薬などの服用といった問題行動も、片親のみの子どものグループに多く見られた、とされています。
片親のみと暮らす子どもの多くは、両親の揃った子どもに比べて、正式な結婚の有無にかかわらず、13歳から19歳までの間に子どもをもうける傾向にあります。片親のみの家庭に育った女子の場合、この数字は2倍に増えます。アメリカの社会学者マクラナハンとバンパスが1988年に発表した報告によれば、片親、特に母親のみと暮らす女子の多くは、結婚や出産の年齢が低い一方で、離婚や再婚、婚外子をもうけるなどの可能性が高くなっている、ということです。
アメリカの社会学者マクラナハン、そしてサンダファーは1994年、ある学術的な研究において、学齢期にある子どもたちを片親のみと暮らす子どもと、両親が揃っている子どもの2つのグループに分けて調査を行いました。その結果、彼らは両親の揃っている家庭の子どものほうが、そうでない不安定な家庭の子どもよりも話し合いへの参加や意見の表明において優れているという結論を得ています。また、この調査からは、子どもの面倒を十分に見られないといった親の監督不行き届きにより、子どもの学業不振や中途退学、さらには職場からの解雇といったケースが増加することが明らかになっています。
この数年、離婚によるシングルマザーあるいは未婚出産によるシングルマザーと暮らす子供をはじめとした、片親のみの子どもに対する調査が実施されました。その結果、こうした現象によって形成された母子家庭などが長期間にわたって子どもに影響を及ぼすことが分かっています。片親のみと暮らす子どもは、両親のいる子どもに比べて精神疾患にかかる確率が2倍も高くなっています。また、自殺や社会的な問題行動に走る確率についても、普通の子どもの2倍の危険にさらされています。こうした家庭の子どもたちのグループは普通、麻薬中毒や精神面での様々な障害に陥っています。
児童心理学者のコープランドは、次のように述べています。「シングルマザー、特に未婚の母は、自分とその家族を経済的に支援する後ろ盾がないことから、自宅外の就労に没頭することが多くなっている。このため、彼らは自分の子どもの面倒を十分に見られないのである」
言うまでもなく、子どもの行動を十分に監督できない家庭は、子どもと適切な関係を持つことができず、倫理面での正しい価値観や行動様式を子どもに教える上で問題に直面しています。このため、そうした家庭の子どもたちは教育上の選択を誤り、人生を歩んでいく上で問題に遭遇することが多くなっています。
専門家の見解では、子どもの正しい教育は健全で適切、そして安らぎのある環境作りなくしては実現しないとされています。家庭内でトラブルや両親の対立が絶えず、特に夫婦間をはじめとした家族の間に親密な関係がなく、そしてその結果家庭内の安らぎがなくなれば、子どもを正しく教育することはできなくなります。イスラムでは、子どもが将来にわたり気高い人格を身につけるか否かは、両親の保護監督による正しい教育の如何にかかっているとされ、人間の一生のそれぞれの段階について独自の規範が定められています。