7月 02, 2017 15:22 Asia/Tokyo
  • 怒りを抑えること

イスラムの聖典コーラン第3章、アール・イムラーン章、「イムラーン家」第134節では、敬虔で禁欲的な人々の卓越した性質の1つとして、怒りを抑えることを挙げています。今回は、このテーマについてお話することにいたしましょう。

おそらく、皆様もこれまでに、興奮したり感情が高まる瞬間を何度も経験されていることと思います。そうした瞬間は、喜びにあふれていたり、或いは悲しみに打ちひしがれた時だったかもしれません。人間は誰でも、日常生活において色々なことが起こり、色々な知らせを耳にし、考え、行動します。これらは全て、感情や興奮を伴います。外の世界に対するこうした感情や私たちの考え方は、私たちのその後の行動様式の形成に影響を及ぼす情報を与えます。うれしいときには、何か良いことが起こっており、逆に落ち込んでいる場合には、良くない出来事があったと考えられます。

興奮を初めとする一連の感情は、内面における経験であり、自分の内外で起こる出来事に対して感じもので、それは喜怒哀楽や懸念、恐怖感などです。様々な感情の強さの度合いや、その人のその後の行動における影響も、実に人それぞれです。

怒りや悲しみ、緊張といった強い感情が正しい形で処理されない場合、こうした感情は心身の健康に悪影響を及ぼし、好ましくない結果を引き起こす可能性があります。このため、こういった感情に対処する能力は、生きていくための重要な技術の1つであり、それにより私たちは自分や他人の強い感情を識別する力をつけるとともに、強い感情が行動にどう影響するかを知り、様々な強い感情に対し適切に反応できるようになります。

プラスの感情は、人間にエネルギーを与える一方で、マイナスの感情はマイナスのエネルギーをもたらします。ですから、考え方の習慣を変え、プラスの感情を起こすようにする必要があります。プラス思考を持つ人々は、好ましい感情を経験しており、このことは物事を論理的に考える力をもたらします。一方で物事を悪く考える人は、問題解決の道を閉ざしてしまい、それがさらに好ましくない感情を引き起こします。これについて、シーア派初代イマーム・アリーは次のように述べています。

”自らの考え方に気をつけるがよい。それは自分の言葉になって出てくるものであるから。また、自分の言葉に気をつけるがよい。それは自分の行動となって現れる。さらに、自分の習慣に気をつけることである。なぜなら、それはひいては自分の人格となるからだ。そして、自分の人格に気をつけること。それは自分の運命となる”

 

私たちに降りかかってくる問題は、時には周りの環境が原因であり、時には私たち自身に原因があります。重要なことは、精神的に落ち着けるよう考え方を変えることです。このことから、人生において起こる出来事は、それに対応できるよう制御することが可能であるということを知っておく必要があります。イランの心理学者ナーゼミー博士は、次のように述べています。

「生きるための技術の1つは、マイナスの感情や怒りを制御し、悪い性格にならないようにすることである。悲しみなどの興奮を抑制できない、或いはそれをどのように表に出すべきかを知らない人は、時の経過とともに、人生がその問題の影響を受け、悲嘆にくれうつ病に陥った人間になってしまう。常に不快感を抱えている人は、悪い感情を抱いており、自分の人生に起こる出来事をマイナス的に捉えるようになる」

 

人間の行動に影響を及ぼす重要な感情の1つは、怒りです。怒りは、好ましくない感情を引き起こすことから、マイナスの感情とされています。しかし、怒りは同時に人間に欠かせない感情や行動の1つとも言われており、正しく抑制されれば、社会関係や生活の維持に非常に有益な役割を果たすことが可能です。つまり、怒りはある意味で管理者とも言えるのです。

怒りの感情は、正しく抑制されない場合には、個人的、社会的に数多くの問題を生み出す可能性があります。このため、怒りを表すには適切な管理と抑制が必要であり、これが実行されれば行動の改善に有益な効果を発揮します。ですから、心理学者や精神科医の間では、古くから怒りの感情を正しく抑制することが注目されてきました、イスラムの聖典コーランは人類を導くことを目的とし、行動上の問題を修正するために下されたとされており、怒りやその正しい抑制方法に注目しています。

 

 

怒りは、最も危険な状態の1つであり、それが放置された場合には抑制が効かなくなります。一生をかけて償うことを余儀なくされる犯罪や、誤った決定は、怒ったときに発生します。

コーラン第3章、アール・イムラーン章、「イムラーン家」第134節は、敬虔な人々の優れた性質の1つとして、怒りを抑制することを挙げています。

怒りが口に出た場合、当然のこととして人間は分別や理解力、理性を失います。このため、理性や精神面での健康を維持するために、怒りを抑制することが強く奨励されています。

残念ながら、怒りや憤りは抑制するのが難しい感情の1つです。これについて、ギリシャの哲学者アリストテレスは次のように述べています。

「怒ることはたやすい。だが、誰かに対して正しい形で、節度をわきまえ、適切な場合に、また正当な理由で怒ることはたやすいことではない」

しかし、怒りを抑制することは可能です。怒りを抑制する技術は、精神的な進歩を遂げ、信仰心を強化する上でこの上ない効果があります。このため、イスラムの預言者ムハンマドは、これについて次のように述べています。

”本当に強い者とは、戦闘において強い者ではなく、怒りを覚えた際に自らを律する者である”

預言者ムハンマドの見解では、怒りのエネルギーも持っていながら、それを抑制する人は、神により安らぎと信仰心で満たされると言われています。

コーランは人類に対し、他人の過ちに対して寛大になるよう求めており、第42章、シュウラー章「相談」第37節では、大きな罪や卑劣な行いを避け、怒っても赦す人々には、神からのより素晴らしい報奨がもらえるとしています。