冬至の儀式ヤルダー、イラン文化のかけがえのない遺産
今年の冬至は、12月22日で、本格的な冬の始まりとされています。
古代のイラン人と深く結びついているヤルダーの儀式
冬至は本格的な冬の始まりとされ、今年は12月22日がその日にあたります。イランでは、この前夜をシャベ・ヤルダー(冬至前夜の意)言います。この日は、1年中で最も夜が長く、イランの文化や風俗習慣ではヤルダーの夜と呼ばれ、特別な位置づけにあります。ヤルダーの夜に行う儀式は、古代のイランの一大イベントであり、これを執り行うことは現代のイラン人が、自らの先祖が行っていた儀式や文化と深いつながりを持っていることを示すものです。今から7000年前に、現代のイラン人の先祖は、太陽を利用した日数計算の方法を獲得し、冬の始まりの日が1年で最も夜の長い冬至の日に当たることを割り出しました。自然の中に暮らしていた人々は、太陽や月、星の動きを観察し、昼と夜の長さや四季の移り変わりという自然の変化を感じることで、自分たちの日々の活動を調節し、この自然現象を最大限に活用していたのです。
このため、イランの人々は自然現象が自分たちに命を与えてくれることを賞賛し、それらを神の存在の具現と見なしていました。彼らは、その中でも光によって地球と地上の全ての存在物に暖かい息吹を吹き込む太陽を、他の何よりも賞賛したのです。人々は、物理的な光の最大の源、即ち太陽を見つめ、深く考え、その光の絶大な影響を認識することで、精神的な光の最大の源、即ち神を認識していました。この時に、人々の心に神の慈愛が宿り、彼らは平和と友好、慈しみ、兄弟愛の源である神のこの性質を、自分たちの中に育むことに努力したのです。
家庭的なイベントとしてのヤルダーの儀式
ヤルダーの夜は、チェッレーの夜とも呼ばれ、この夜の儀式はイランの春の新年の儀式ノウルーズ以外に唯一、イランの人々の間に存続してきた儀式であり、古代からの宗教信仰と共に、この時期にイランの人々は農作業や収穫の時期を終えて、休息の時期に入ります。集落に住む人々が大都市に移り住んだことで、イラン人の過去を思い起こさせるこの儀式は、大都市に住むイラン人の間にも広まり、そのまま存続しています。これまで長年にわたり、イランの各家庭ではヤルダーの儀式が行われており、イスラムの聖典コーランのもとでの、チェッレーとも呼ばれる冬至の夜は、家庭的な儀式における情愛面での深い絆、イランの詩人ハーフェズの詩の朗誦、スイカや乾燥ナッツ類を食べる習慣により、1年で最も長く喜びに溢れた、記憶に残る日となっているのです。
イランの各家庭では普通、冬至の夜を年長者と共に、和気藹々とした雰囲気の中で過ごすよう努めます。この日には、色々な宗教を持つイラン人の家庭の大半がろうそくの火や電気の光のもとで、楽しく過ごし、ソフレと呼ばれる食事用の敷物を広げて、この日のための独自の食べ物を並べます。イランの多くの地域では、この独自の食べ物はシャベ・チャレと呼ばれており、7種類の果物と7種類の乾燥ナッツ類が含まれることが多くなっています。もっとも、時には7種類を超えることもあり、小麦の粒、麻の実、ひよこまめ、アーモンド、ハシバミ、スイカの種、かぼちゃの種、ひまわりの種、ピスタチオ、胡桃などの乾燥ナッツ類に添えて、ホソバグミ、干しブドウ、乾燥したイチジクや桑の実、干しあんずなどが使われます。さらに、これに加えて各種の伝統的なお菓子や、現代的なお菓子、普通の果物も加えられることが多くなっています。
冬至の夜の数日前からは、果物や乾燥ナッツ類を販売する商店や市場などで、ヤルダーの儀式を心待ちにしながら、この日のための買い物をする人々の姿が見られます。普通、こうした買い物はヤルダーの儀式の間際まで続き、当日ぎりぎりになっても、勤め帰りに大急ぎでヤルダーの儀式のために果物などを買い求め、家路を急ぐ人々の姿が目に付きます。冬至の日に食べる果物としては、スイカ、ざくろ、ブドウのほか、リンゴやマクワウリ、胡瓜、そして場合によってはマルメロが並べられることもあります。冬至の夜のためのこれらの果物の中でも、特に重要なのがスイカです。多くの人々の間では、冬至の夜にスイカを食べると、冬の間寒さから守られ、元気に過ごせると考えられています。また、研究者たちは、この日の夜にスイカやざくろを食べることは、それ自体に意味が込められており、赤くて丸い形の果物であるスイカやざくろは、冬の寒い夜における情愛の温もりのシンボルであると考えています。
ヤルダーの夜には、特別なご馳走が作られることはなく、その日の夕食は各家庭の経済状況や食習慣によります。この日、一部の家庭では夕食を食べた後に、夜明かしのために年長の親戚の家に行くこともあります。ここ数百年間においては、イランの大詩人ハーフェズの詩集を使った占いに興じたり、祖父母の昔話や思い出話に聞き入ることも、ヤルダーの夜にイラン人の家族の心をより和ませる要素となっています。
もう1つのヤルダーの習慣『シャブ・チェッレイー』
多くのイラン人の家庭に広まっている、ヤルダーの夜のもう1つの習慣として、結婚してまもない夫婦に特別な贈り物をする、シャブ・チェッレイーという風習があります。普通、婚約の式を済ませたばかりで、まだ正式に同居を始めていない若い夫婦がいる家庭では、花婿の母親が特別の趣向により飾りつけをした、ヤルダーの夜独自の食べ物一式に添えて、真新しい衣服、或いは布地や貴金属といった贈り物を用意し、花嫁に贈ります。この儀式は逆に、花嫁の母親の側からも行われますが、この儀式は一部の地域では冬至を過ぎた日の一夜に行われています。
この風習は、イランの各地域で実に多様な形式により行われています。イラン北西部のアーザルバーイジャーン地方の人々はこの日の夜、その家に嫁いでくる嫁或いは、新婚の花嫁のためにスイカに添えて、赤いショールを飾りつけとして巻いた贈り物をします。これは、この地方の人々の間では、赤いショールが幸運や喜びをもたらし、花嫁としての幸運が長く続くことにつながると考えられていることによります。また、イラン北部の人々は、大きな魚を添えた飾り物と共に、ヤルダーの夜に使うもの一式を花嫁に贈ります。さらに、イラン南部シーラーズでも、客を招待する側が食事用の敷物ソフレに、春の新年ノウルーズに似た、7つの縁起物をならべます。そうした縁起物とは、鏡、1、2輪のバラの花、色とりどりの美しいろうそく、お香の1種であるヘンルーダ、そしてこの日のための特別なお菓子や果物、挽き胡麻で作った、ハルワーやランギナークと呼ばれるお菓子、練り胡麻、ナツメヤシ、そしてイチジクなどです。
イラン文化圏に広く浸透しているヤルダーの習慣
ヤルダーの儀式は、イランの古式ゆかしい文化にルーツを発する習慣であり、それは、天文学や四季の移り変わり、日々のめぐりやそれらにまつわる事柄など、イラン人が挙げた学問的な業績を基盤としたものです。太古の昔から、ヤルダーの夜は1年のうちで最も夜が長い日として知られていました。しかし、ヤルダーはそうした概念を超えて、春の新年ノウルーズと共に、現在のイランの地理的な国境を越えて、複数の国にまたがるイラン文化という舞台に存在しており、これはイランの文化が中央アジアや西アジアという範囲を超えた広い範囲に影響を及ぼしていることを物語っています。ヤルダーの儀式は、種別の上では慣行儀礼や寄り合い、そして無形文化財とされています。この現象は、1つの社会的な集まりごととして、特別な形で家族単位、また民族単位で行われ、実際に友情、慈しみ、和解を伴う習慣となっています。この点からも、この儀式は大切にされるべきものであり、世界の諸国民にこれをアピールし、この儀式に秘められた世界的な価値観を維持し、次の世代に伝えるために、人類共通の遺産としてのこの古来の儀式への理解を促し、ひいては世界的な規準で登録する必要性が出てくるのです。