WBC、米の独善主義で始まった野球「世界一」大会
野球の世界一を決める大会「ワールド・ベースボール・クラシック」は日本が準々決勝進出を決め、野球ファンを中心に盛り上がりを見せています。2006年の初回大会から今回で5回目となり、すっかり定着した感のあるWBCですが、そもそもアメリカの強引な決定により始まったことを覚えている人は、どれくらいいるでしょうか?
WBCの開催は2005年5月、米メジャーリーグ機構(MLB)が翌年3月の開催を唐突に発表したことで始まりました。MLBは日本にも参加を要請しましたが、日本野球機構(NPB)はその一方性やMLBに偏重した利益構造を理由に回答を保留。また、プロ野球選手会も、WBC開催時期がプロ野球開幕直前であることから、選手会総会で不参加を決議しました。
しかし、これに対しMLBは公然と圧力をかけ、日本の不参加によりWBCが興行的に不成功に終わった場合は金銭的補償を要求すると半ば脅しをかけました。これをうけ、当時の選手会会長だった古田敦也氏は、やむを得ず参加を決めました。
こうして2006年3月、WBC第1回大会が開幕しました。ふたを開けてみれば、日本のテレビの試合中継は毎回高視聴率を獲得し、結果としても日本が初代王者の地位を獲得し、世論は大きく盛り上がったかに見えました。
しかし、その陰で、大会運営上の米の独善主義も指摘されました。
まず、大会の審判団が全員MLBから選出されたことです。国際大会を標榜するにもかかわらず、審判団が参加各国から公平に選出されず、すべて米国審判員となったことから、公平性に大きな疑問が突き付けられました。
また、参加する16カ国も事前の予選ではなく、すべてMLBによる招待で決められました。ルールの策定もMLB、本戦予選リーグの組み合わせもすべてMLBの一手で決められました。(2013年の第3回大会から予選導入)
2009年の第2回大会当時、キューバのカストロ元議長は、「米国は(第1回WBCおよび北京五輪準優勝の)キューバと対戦しなくて済むよう、キューバを日本と韓国と同組にし、つぶし合いをさせた」と指摘しています。
そもそも、大会の主催がMLBであることが公平性を欠く最大の要因となっています。サッカーW杯が、FIFA・国際サッカー連盟ではなく特定の国のサッカー協会により開催されると想像すれば、そのおかしさがわかります。
MLBが主催しているということは、大会収益のほとんどもMLBの懐に入るということです。各国での放映権料をはじめ、観戦チケット代、グッズ代など、利益の大半がMLBに配分される構造になっています。
元をたどれば、WBCが開催される前から、野球の世界一を決める国際大会は開催されていました。2013年まで存在したIBAF・国際野球連盟によるワールドカップです。国際組織の主催による名実ともに公正なこの大会は1938年に始まり、WBCよりもはるかに長い歴史を有していました。
しかし、MLBはIBAFに加盟していなかったため、1998年大会からプロ選手の参加が解禁されて以降も、米の有力選手が参加することはなく、大会の知名度は低いままでした。
IBAFは2011年、野球が五輪競技から除外されたことでIOC・国際オリンピック委員会からの補助金収入を失い、存続の危機に陥ります。
IBAFはMLBに支援を要請しましたが、MLBは支援の条件として、IBAF主催のW杯を廃止し、WBCを野球世界一を決める唯一の国際大会として認定するよう要求しました。
IBAFはこれを受け入れ、W杯は2011年を最後に廃止されました。
日本人にとって国民的スポーツとも言える野球。その世界大会への出場は、本来であればこれ以上ない栄誉であるはずですが、その舞台は米国の独善主義によって用意されています。