視点
【検証・イスラエル支持者のデマ】その3「イスラエルには自浄能力がある」
SNS上でイスラエル支持者が拡散する言説を検証する企画の3回目。今回は、不都合な事実をも利用してイスラエルの強みであるかのように主張を展開する、イスラエル支持者独特の話法を取り上げます。
【デマ内容】
・イスラエルには言論の自由がある
・イスラエルには自浄能力がある
【デマを流した者】
・谷内意咲(キリストの幕屋系列の出版社「株式会社ミルトス」代表取締役)
・雀(Xユーザー)
・ベハール美里(陶芸家・Xユーザー)
・田中マコト(漫画家・Xユーザー)
・Φιλíα⊿(Xユーザー)
イスラエル軍兵士によるガザでの蛮行は、そのうちの多くがSNS上で拡散し、世界中に知れ渡っています。中には、軍が「処分」を発表したケースもありますが、イスラエル支持者はそれを引き合いに、イスラエルには「規律」や「民主制」があるなどと嘯いています。
カルト団体「キリストの幕屋」系列の出版社「ミルトス」の代表を務める谷内意咲(いさく)氏(@Taniuchi139)は、2日のXへの投稿で、アラブ系イスラエル兵がユニセフ運営の学校をハマスが軍事拠点にしていたと訴える動画を取り上げ、「こんな活動ができるのも、言論の自由が担保されるイスラエル国籍を持っているからこそ」と綴りました。
谷内氏としてはユダヤ系以外のルーツを持つ兵士が活動の場を与えられていることを強調したかったのでしょうが、政権の方針と同じ内容を語ることは「言論の自由」が保証されている証明にはなりません。
もっとも、明確な政権への異論も存在します。イスラエル擁護のXユーザーのひとりである雀氏(@gwmkRGGrJ5UGXsf)は昨年12月29日の投稿で、ハアレツ紙が社説でガザ停戦を訴えたことを取り上げ、「イスラエルは言論の自由が確保された国 ハアレツのように自国の利益を無視した記事を連発するメディアでさえ言論弾圧を受けることがない」と記しました。
確かにハアレツ紙はイスラエル紙の間では左派に属し、昨年10月7日以降の戦争でもネタニヤフ政権を批判してきました。しかし、この一件だけをもって「イスラエルには言論の自由がある」などと言い張ることはできません。
例えば、戦争開始後、多くの正統派ユダヤ教徒がイスラエル軍のガザ攻撃に反対し、デモを行いましたが、警察は彼らを激しく暴行した上で排除しています。その映像はSNS上で広く拡散しました。
「イスラエルは過ちを認めることができる」というのもイスラエル支持派が好んで使うデマです。漫画家で、上記のミルトスからイスラエルのエルアル航空を題材にしたプロパガンダ・コミックを出版している田中マコト氏(@tanamakomakoto)は、昨年12月19日に「イスラエルは(中略)間違った時に割と『ごめんなさい』するじゃない?」と投稿。これにベハール美里氏(@sibubu_nakamoto)は「誤射や兵士が個人的にしでかしたこともきちんと発表し、対策をとる それがイスラエルのやり方」とリプライしています。
イスラエル兵や警察による暴力事件や侮辱行為のいくつかについて、当局は「処分」を発表してきました。10月にはヨルダン川西岸ラマッラ近郊の村を襲ったイスラエル兵5人が、地元のパレスチナ人3人を裸にして、ナイフで切りつけたり、放尿をしたりしました。先月だけでも、ヨルダン川西岸の東エルサレムでトルコの記者がイスラエル警察に暴行されたほか、同じく西岸のジェニンにあるモスクでイスラエル兵がユダヤ教の儀式「ハヌカ」を行い、批判を浴びました。いずれも当局は「処分」を発表しています。
「処分」してもなおも繰り返される蛮行。これが日本を含む諸外国であれば、批判はとてもすぐに止むとは思えませんが、「きちんと発表し、対策をとる」と異様なまでの寛容さを見せるのがイスラエル支持者の倫理観です。
年明け以降も、ガザ侵攻部隊のイスラエル兵が攻撃の様子を茶化した動画が複数拡散しています。記者への暴行・殺害、モスクなどへの侮辱行為については10月7日以前から繰り返し発生しています。昨年、アルジャジーラ記者のシリーン・アブ・アクレ氏がヨルダン川西岸でイスラエル兵に射殺された事件は記憶に新しいところです。こうした事例をもってしても、イスラエル支持者の頭の中では「対策をとっている」ことになっているようです。
谷内意咲氏は先月16日の投稿で、先の東エルサレムでの事件で警官が「処分」されたことについて「イスラエルの司法が機能している証左。(中略)ハマスの不法行為も本来はPAが罰すべきだが機能していない」と問題をすり替えました。
また、Φιλíα⊿氏(@GruessGott2018)も先月29日の投稿で、10月のヨルダン川西岸のイスラエル兵5人による犯罪について「言語道断のことと思うが、一応きちんと処分がなされるだけ、テロリストの犯罪者が英雄視されてなんの処分も受けないハマスに比べると、格段の自浄能力があるとは思う」と記しました。
当たり前のことですが、処分しても問題が繰り返される状態を「機能している」「自浄能力がある」とは言いません。
今もなお、イスラエル兵による侮辱行為を映した動画が拡散しています。
次から次へと醜態が出てくるのは、軍や警察だけの問題ではないからです。イスラエル軍がガザ地区への攻撃を開始した当初、水や電気を遮断されたガザ市民を揶揄する動画がシオニスト市民から大量に投稿され、世界的な非難を浴びました。
つまりイスラエルは社会そのものがヘイトに汚染されており、だからこそ数件の行為を「処分」しただけでは改善しようがないのです。イスラエル支持が絶対優先の目にはこうしたヘイト社会の実態は映らず、当局受け売りの「処分」「対策」を持ち上げて、自らの「正しさ」を確かめ合っているのです。