視点
紅海の主との間で繰り広げられる戦い
紅海地域では現在、イエメンに対して史上最大の軍隊が列をなして向かっていくという、今世紀最大の海戦が勃発しています。
シーア派組織アンサーロッラーの指導者であるセイエド・アブドゥルマリク・バドレッディン・アルフーシ氏率いるイエメン国軍は、米国およびNATO北大西洋条約機構の軍と、今世紀最大の海戦に突入しました。
地理的にみると、この戦いの主な戦場は「紅海」です。
紅海は、世界で最も重要な航路の一つであり、ヨーロッパとアジアを結ぶ最速かつ最短のルートとなっています。2023 年には1日平均59 隻、年間計2万1,344隻の船舶が紅海と地中海を結ぶスエズ運河を通過し、世界貿易の実に12%を占めています。
このような中でイエメンは、シオニスト政権イスラエル軍による大量虐殺を受け、同政権の軍を海上封鎖することを決定しました。
イエメンが攻撃対象としているのは、以下の条件に当てはまる船舶です:
1.船籍がシオニスト政権イスラエルにある
2.イスラエル企業が使用している
3.イスラエル企業が所有している
世界最大手の海運会社の一部は、このような状況を受けて、紅海からアフリカ大陸先端の喜望峰へという非常に遠回りな航路への変更を行うことを余儀なくされました。このルート変更により、移動時間は最大 2週間、移動距離にして3~6,000海里 (5,556~1万1,112 km) も増える可能性があります。
イエメンが今回のような措置を取ったのは、イスラエル経済が海上輸送に依存しているという、確かな論拠に基づいてのことです。実際、イスラエル政権が利用する主要貿易港は、ハイファ、アシュドッド、エイラートといった占領地各地にあり、同政権の対外貿易全体のうち実に98%は、海路によるものとなっています。
英国の海上警備会社アンブリー・アナリティクスのデータ分析によれば、紅海南部ではこれまでに40隻以上の船舶がイエメン軍の標的となったことが明らかになっています。
船舶の動静を自動で識別するシステムは、船舶自動識別装置(AIS:Automatic Identification System)と呼ばれています。船舶は、AISを使用して自らの航行・位置情報や識別情報を送信していますが、今回イエメン軍の措置が取られてより、紅海とアデン湾を隔てるバブ・エル・マンデブ海峡において船舶の間でAISを通じ送信されたメッセージの中で最も多かったのは、「イスラエルとは無関係」という文言でした。
アンサーロッラーの指導者アル・フーシ氏は今月22日、「イスラエル政権占領地の海域においてこれまで48隻の船舶が作戦の対象となり、計183発以上のミサイルや無人機で攻撃された」と発表しました。イエメンの攻撃対象となったこれらの船舶には、対イスラエル後方支援目的で先月11日からイエメン側の標的への攻撃を開始した米英の軍艦も含まれています。
この一方、EUは今月19日、紅海でEU海軍部隊 「アスピデス(ASPIDES)」作戦を開始したと発表しました。艦隊を構成するのはフランス、ドイツ、イタリア、ベルギーで、派遣先はバブ・エル・マンデブ海峡、ペルシャ湾およびその湾口に当たるホルモズ海峡、紅海、アデン湾、アラビア海、オマーン海になるということです。
CENTCOM米中央軍の副司令官も、現在の紅海での状況は同国が第二次世界大戦後最大となる海戦となっている事実を認めています。
イエメン軍はこれらの攻撃において、アメリカ軍に対し初めて新兵器を使用しました。元米国防総省およびCIA米中央情報局の職員だったマイク・マルロイ(Michael Patrick Mulroy)氏はこれに関連して、「海上および海中の無人艦艇は、無人機や対艦ミサイルよりも探知・撃墜が困難である」と述べています。
アメリカ空母打撃群アイゼンハワーの司令官であるマーク・ミゲス少将も、「イエメンの無人機・Shahpadは、紅海における最も恐ろしい脅威である」との見解を示しました。アイゼンハワーにはF/A-18など60機以上の戦闘機が配備され、数隻の軍艦も随行していますが、ミゲス少将はさらに、「最も恐ろしいシナリオの1つは、爆弾を搭載し超高速で飛行する無人航空機に遭遇することだ」とも語っています。
西アジア地域を専門家とするアナリストの1人、セイエドレザー・サドル・アル・ホセイニー氏も、「あらゆる(米英軍の)海洋理論は、バブ・エル・マンデブと紅海において崩れ去った 。彼らは、8年間にわたって一大(軍事)連合を相手に戦争を続けてきた抵抗組織が集まった際、今やアメリカの艦船とも対峙できる能力を持っていることに、完全に驚愕している」との見解を示しました。