視点:レバノン元首相暗殺事件 ヒズボッラー反対派の大敗に終わった特別法廷の判決
国際法廷「レバノン特別法廷」が、11年間に渡る審理の結果、故ラフィーク・ハリリ元レバノン首相の暗殺にシリアやレバノンのシーア派組織ヒズボッラーが関与していたことを否定する判決を下しました。
ラフィーク・ハリリ元首相は2005年2月14日、同国の首都ベイルートで他の21人と共に暗殺されました。
レバノン国内外にいるヒズボッラーの反対勢力は、このテロ事件にシリアとヒズボッラーが関与したと主張していましたが、両者は揃って再三にわたり、この犯罪への関与を否定してきました。
2005年に発生したハリリ元首相暗殺事件を裁くべく、国連は初めて2009年にオランダ・ハーグに国際法廷を設置しました。そして昨日18日火曜、11年間におよぶ審理の末、事件への判決が下されました。
この国際法廷はハリリ元首相暗殺前の電話での聞き取り、この事件に関する297人の証人への聞き取り、そして2600ページに渡る立件書類作成を経て、審理を行いました。これは、審理・捜査開始当初から判決までに包括的な措置が講じられたことを示しています。今回の判決は、2つの側面で重要性を帯びています。
第1の重要なポイントは、当初に出された数々の事実無根の主張や疑惑にもかかわらず、裁判所が11年間の審理・捜査を行った結果、ヒズボッラーの無実・正当性が証明されたことです。レバノン国際法廷は、ヒズボッラーがこのテロ事件に関与したことを否定すると共に、組織のメンバー4名を無罪としました。さらに、同国際法廷のデイヴィッド・レイ裁判団長は、「ヒズボッラーのナスロッラー事務局長及び暗殺された故ラフィーク・ハリリ氏は良好な関係にあった」との裁断を下しています。このことは、レバノン国際法廷が詳細事項にも焦点を当てていることを示すものです。
そして、第2のポイントは、判決文においてシリアがこの事件に関して罪に問われないと宣告されたことです。こうした中、レバノン国内や地域に存在する西側寄りの勢力は、ハリリ元首相暗殺に関してシリアに甚大な圧力をかけ、その結果シリアは、レバノンからシリア軍およそ1万4000人を引き揚げることになりました。今回の判決に注目し、シリア下院のアフメド・アルキャズブリ議員は、 「レバノンの政治家は、シリアに濡れ衣を着せたことに対し、シリア政府と国民に謝罪すべきだ」と述べました。
しかし、今回の判決には、はっきりさせるべき2つの曖昧な点があります。
1点目は、レバノン国際法廷のレイ裁判団長が、ハリリ元首相の暗殺を政治的なテロ作戦と断定した一方で、10年間もレバノン首相職にあったハリリ氏の暗殺により、レバノンはもとより西アジア地域において政治目的を追求していたのは一体どの人物、どの組織集団だったのか、あるいは外国の因子だったのか、という疑問を指摘できます。故ハリリ氏は1992~98年、そして2000~04年までレバノン首相を歴任していました。
2点目は、レバノン国際法廷が今回の事件の審理に当たって、単にヒズボッラーのメンバーに対する被疑事実のみを捜査し、今回の事件へのシオニスト政権イスラエルの関与の可能性を捜査せよとしたヒズボッラーの要求を取り上げなかったことです。ヒズボッラーは、今回の事件に関して同組織にかけられた疑惑を否認すると共に、テロ事件にイスラエルが関与したことを裏付ける根拠を示しています。しかし、これらの根拠が国際法廷で捜査されることはありませんでした。
最後に、ハリリ元首相暗殺へのヒズボッラーの関与が否定されたにも関わらず、抵抗勢力の反対派は依然としてヒズボッラーメンバーのサリム・アイヤシュ(Salim Ayyash)を被告だとして、ヒズボッラーに対する攻撃の手を緩めていないことを指摘すべきでしょう。
一方で、国際法廷裁判団長が発表した判決文では、「審理されたやり取りの内容から、このテロの舞台裏に潜んでいた集団が発見された」としています。このようにこうした攻撃の手が止まない目的は、レバノンの現状を利用してヒズボッラーを抜きにした政権を発足させることにあるのです。
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