米政界におけるモサドの浸透:なぜエプスタイン・リストは公開されなかったか?
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かつてのトランプ氏(左)とジェフリー・エプスタイン氏(右)
米億万長者ジェフリー・エプスタイン氏に絡む事件は、単なる性的スキャンダルにとどまらず、アメリカにおける情報操作、構造的腐敗、権力闘争の象徴となっています。
【ParsTodayイラン】エプスタイン氏は、米政界における腐敗、悪用、脅迫、駆け引き、さらには安全保障分野にまで浸透していた人物です。米大統領やイギリスの王族、ニューヨークの金融エリートとの複雑な関係から、刑務所での不審な死、そしてイスラエル諜報機関・モサドまで、彼をめぐる関係は西側諸国の複雑で絡み合った権力構造の鏡といえます。
謎に包まれた生涯と異様な出世
エプスタイン氏は1980年代に大学の学位を取得することなく、数学教師として働き始め、すぐにウォール街に進出しました。ニューヨーク・タイムズによると、彼は異例の速さで経済・政治エリートの中で頭角を現しました。彼のマンハッタンにある豪邸は長らく同地区で最大の邸宅であり、ヴァージン諸島に所有する島や「ロリータ・エクスプレス」と呼ばれるプライベートジェットといった資産、クリントン前大統領、トランプ大統領、イギリスのアンドリュー王子、そしてアメリカの投資家レオン・ブラックなど各界の著名人と関係を結びました。
アメリカ市民や専門家の間では、エプスタイン氏がどのように、どのような支援を受けてこれほどの地位と権力を得たのかという疑問が浮かんでいます。
性的虐待の告発と組織的恐喝のパターン
2000年代初頭、エプスタイン氏は未成年少女らへの性的虐待に斡旋した疑いで告発されました。しかし2008年、フロリダ州検察との司法取引が成立し、エプスタイン氏はわずか13カ月の禁固刑のみとなり、彼の顧客や共犯者のリストは明かされませんでした。この取引は後に「世紀の取引」として知られ、米司法制度の二重基準の象徴と言われるようになります。
2019年の再逮捕後、FBIはエプスタイン氏の所有物から数万点の書類や写真、証拠を押収し、権力者を恐喝し隠し撮りする複雑なネットワークが明らかになりました。被害者の一人であるバージニア・ジェフリー氏は、政治家や経済人との性的関係を強要され、それが撮影されていたと証言しています。

FBIの捜査と刑務所での死:自殺か意図的な殺害か
2019年8月、エプスタイン氏はニューヨークの刑務所内で死亡しました。公式には自殺とされていますが、独立した報告や法医学的な情報、首の骨折や監視カメラの故障などから、計画的殺害の可能性が指摘されています。
ワシントン・ポスト紙は、「エプスタイン氏が死亡した時、監視カメラは停止しており、看守たちは休憩中だった」と報じています。
アメリカの世論はエプスタイン氏の死を、彼の顧客リストが公開されるのを阻止するために、何者かが偽装したものと見なしています。そのリストは未だに公開されておらず、存在についても否定や肯定が繰り返されています。
ボンディ司法長官とトランプ政権:消えたリスト
トランプ氏は2024年の大統領選挙期間中に、自身が当選すればエプスタイン事件の真相を明らかにすると約束しました。司法長官に就任したボンディ氏も1月の政権発足後には、「エプスタイン氏の顧客リストを所持しており、調査後に公開する」と述べていました。
しかし、2月になるとボンディ氏はCBSニュースのインタビューで、「リストを持っているなどとは言っていない。そのようなリストは存在しない」と発言を覆しました。
このことは、トランプ政権が本当に事件の真相を明らかにする意志を持っているのか、疑問を投げかけることになりました。
トランプ氏も最近の閣議で、エプスタイン事件に関した質問をする記者に対し回答を避け、世論やマスコミにこの問題を「忘れるよう」呼びかけました。
FBIの結論と陰謀論の対立
FBIは今週、エプスタイン氏の性的暴行への関与、権力者を恐喝した証拠や顧客リストの存在を認め、また刑務所内で自殺した証拠はないと結論づける報告書を出しました。しかし、この報告書は、ヴァンス副大統領やパテルFBI長官らが共有する陰謀論とは正反対のものでした。
このことは、多くのトランプ支持者の怒りを招いており、2026年の中間選挙や2028年の大統領選挙で共和党に逆風をもたらす可能性があると警告されています。
トランプ氏の元顧問であるスティーブ・バノン氏は、「問題は単なる児童性的虐待のネットワークではなく、誰が我々を支配しているかということだ。これが失われれば、MAGA運動の10%を失い、2026年には議会で40議席を失い、さらには大統領職も失うだろう」と述べ、トランプ政権がポピュリズム支持層を失望させたと指摘しました。

モサド関与の可能性
トランプ氏がエプスタイン事件の隠蔽を試みる中、米司会者でトランプ支持者のタッカー・カールソン氏はインタビューで、「エプスタイン氏がどうやって巨万の富を稼いだのか誰も知らない。しかし彼は安全保障機関が行うようなハニー・トラップを仕掛け、情報を記録し、恐喝を行っていた。決定的な証拠はないが、これは(イスラエル諜報機関の)モサドのプロジェクトだった可能性が高い」と述べました。
カールソン氏はまた、ホワイトハウス、国務省、議会議員の多くがエプスタイン氏と関係を持っていたと指摘し、エプスタイン事件は存在しないという陰謀論を一笑に付しました。
国際政治学者のジョン・ミアシャイマー氏も最近のインタビューで、「イスラエルはホワイトハウスの絶対的な支持を得るためにあらゆる手法を使っており、エプスタイン氏はアメリカの意思決定機関をコントロールする道具だった可能性がある」と述べています。
また、元CIA職員で諜報専門家のリ・マクガヴァン氏も、エプスタイン氏とモサドによる恐喝作戦の存在を認め、「エプスタイン氏は確かにモサドの持ち駒の一つであり、イスラエルがこの作戦で最も利益を得た」と語りました。

組織的構造:エプスタイン氏は単独ではなかった
証拠によると、エプスタイン氏はギリン・マックスウェル氏などの共犯者を含む犯罪組織を運営していました。マックスウェル氏は現在、刑務所に収監されており、人身売買と性的虐待への関与で裁判を受けています。しかしながら、エプスタイン氏の顧客や資金提供者はいまだに正式な捜査を受けていません。
イスラエルの潜在的な役割とアメリカ政治への浸透
トランプ政権による隠蔽の試みが続く中、イスラエル紙「ハアレツ」は、エプスタイン氏がニューヨークのシオニストネットワークに深く関与していたことを繰り返し指摘しています。専門家の一部は、彼のイスラエル諜報機関との協力が、中東政策、特に武器売却やイスラエルへの資金援助の操作を目的としていた可能性を示唆しています。
隠蔽の構造的理由
エプスタイン事件は単なる性的または刑事事件ではなく、多数の現役あるいは元高官が関与しているため、安全保障と政治の問題にもなっています。メディアや裁判記録に非公式に登場する名前の中には、かつての大統領、司法長官、CIA長官、軍高官、議会の有力議員などが含まれています。
エプスタイン氏の顧客リストの全面公開は、アメリカの安全保障や司法への信頼を大きく揺るがすだけでなく、イスラエルのような戦略的同盟国の関与が明らかになれば、大きな法的・外交的問題を引き起こすでしょう。ジャーナリストのレイモンド・バチャー氏は、「モサドがアメリカ政府の一部と共謀して恐喝を行っていたことが証明されれば、アメリカの統治の正当性は永久に疑われることになる」と述べています。

正義を求め続ける被害者たち
エプスタイン氏の不審な死から数年が経過しましたが、多くの被害者は今も司法による正義を求め続けています。告発者の一人であるバージニア・ジェフリー氏は法廷で、「私たちは単なる性的暴行を目撃したのではなく、構造的腐敗、情報の共謀、そして世界的権力間の取引によって被害者が黙らされているのを見てきた」と証言しました。
ジェフリー氏は何度も、エプスタインと接触のあった全ての人物のリストの公開を求めています。
事件は生き続ける
多くの裁判資料は依然として機密扱いですが、専門家たちはエプスタイン事件がアメリカにおける権力の堕落と濫用の象徴となったと考えています。そして、この事件が単なる道徳的・経済的腐敗だけでなく、外国勢力の浸透、安全保障の崩壊、そしてアメリカの政治構造の脆弱性を暴露していると見ています。
トランプ政権の沈黙、ボンディ司法長官のリスト公開発言の撤回、そして政府機関の説明責任回避は、アメリカ政治の底知れない恐怖を示しています。つまり統治機構がどのように多層的な腐敗、浸透、心理作戦の罠に陥っているかが明らかになることへの恐れです。
タッカー・カールソン氏がインタビューで述べたように、エプスタイン事件は、アメリカで真の権力を握る者たちには司法の手は及ばないことを示しています。これは単なるスキャンダルではなく、米国の病的構造の象徴なのです。