米上院がトランプ大統領に対ベネズエラ攻撃の許可を与えた理由とは?
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米最新鋭原子力空母ジェラルド・R・フォード
アメリカ上院が、議会承認なしでの対ベネズエラ攻撃を禁止する決議案を賛成51票、反対0票で否決しました。この議決により、ドナルド・トランプ米大統領は議会の監視なしに南米ベネズエラへの軍事的圧力を強化できることになります。
【ParsToday国際】議会承認なしの攻撃禁止法案は、民主党のティム・ケイン上院議員とアダム・シフ上院議員、共和党のランド・ポール上院議員の3名によって提出されたものです。これらの議員は、トランプ大統領が麻薬密売対策を口実に、議会の承認なしに軍事紛争へと突き進む可能性があると警告していました。しかし、上院で多数派を占める共和党は反対を表明し、トランプ大統領に軍事紛争への許可を与えてしまった形となっています。
この決議が否決された一方で、カリブ海地域にアメリカの船舶、無人機、戦闘機、偵察機が配備され、長距離爆撃機が飛行していることから、ベネズエラに対する限定的な攻撃、さらには地上作戦が行われる可能性への懸念が高まっています。
ベネズエラに対するアメリカの敵対行為は決して突発的なものではなく、長年にわたる中南米の独立諸国との対立の一部です。ベネズエラは、特にかつてのウゴ・チャベス政権時代、そしてその後継者であるニコラス・マドゥロ現政権の発足以降、反覇権主義国家の象徴として、地域および世界におけるアメリカの政策に反対してきました。アメリカはベネズエラを中南米での歴史的な影響力に対する脅威とみなし、同国に対し常に敵対的な政策をとってきました。
トランプ大統領の就任に伴い、この攻撃的な政策にさらに拍車がかかっています。トランプ氏は長らく経済面での圧力行使と反マドゥロ派への支援についてのみ語ってきたものの、ベネズエラに対する軍事的選択肢も検討していると繰り返し警告してきました。しかし、最近の情勢変化は、トランプ政権が口頭での脅迫の段階を終え、実践的な軍事力誇示の段階に入ったことを物語っています。カリブ海への米軍配備は決して単なる象徴的行為ではなく、ベネズエラ領における作戦遂行準備があることの表明でもあります。
アメリカ政府はこの大規模な軍配備の新たな口実として麻薬密輸対策を挙げていますが、多くのアナリストはこれを、軍事力誇示を正当化するための政治的な隠れ蓑に過ぎないと指摘しています。CIA米中央情報局部隊がベネズエラでの活動を正式に承認されているという事実は、アメリカがこの地域の海と空を支配することだけでなく、ベネズエラ領内での秘密裏の作戦実施も視野に入れていることを物語っています。
このような状況下で、米上院議員らは反対票を投じることにより、ベネズエラに対し新たなメッセージを送ったことになります。それは、トランプ大統領がこの地域における軍事的圧力を強める用意があり、議員による制限はないというメッセージです。米国司法省当局者でさえも、軍が議会の承認なしに密輸業者に対する殺傷的作戦を継続できると発表しており、即ち米国は事実上「宣戦布告なき戦争」を行使していることになります。
この決議の拒否は単なる国内政治上の決定ではなく、戦略的なシグナルでもあります。米軍は現在、カリブ海で戦闘態勢を整えており、ジェラルド・フォードのような大型空母のカリブ海への派遣は、アメリカが戦争シナリオを真剣に検討していることを裏付けるものです。
しかし現実には、米国政府は二つの危機に直面しています。一つはマドゥロ・ベネズエラ現政権を内部から打倒できなかったこと、もう一つは最大限の圧力政策の信頼性が損なわれていることです。トランプ大統領は、依然としてより強力な手段を行使できることを示す必要があるため、麻薬密売問題は経済制裁を軍事力に転換するための格好の口実となっているのです。
トランプ氏はまた国内政治においては、軍事力行使がいかに限定的なものであっても、米国内でプロパガンダ的効果をもたらしうることを認識しており、過去にも選挙や政治目的で軍事的措置を利用してきた経歴があります。
しかし、国際社会では、米国が戦術的行動から戦略的な紛争突入・関与へと移行するのではないかという懸念が高まっており、上院による法的制限の否決によりそうしたシナリオの可能性が高まっています。議会がそれを阻止できない場合、ホワイトハウスが唯一の主要な意思決定者となります。
このような状況下で、ベネズエラに対する米国の敵対行為は「経済的圧力」と「軍事的圧力」が組み合わさる段階に入っています。海上封鎖、CIAの諜報活動、カリブ海への大規模な軍配備は、いずれもアメリカの目標が、当面は旧来的な戦争に突入せずにマドゥロ政権を終焉に持ち込むことを示しています。しかし、上院の採決により、トランプ大統領は必要に応じて次のステップに進むことが可能となり、この地域の将来は不透明で緊迫化しています。
実際のところ、アメリカは現在、経済的圧力、軍事封鎖、そして諜報活動という3つの手段を同時に行使しています。これらの手段は通常、敵対勢力を疲弊させ、軍事介入に向けた世論を醸成するために用いられますが、米国の視点からすれば、マドゥロ政権が内部崩壊しない限り、外圧によって屈服させる必要があります。
今回米上院は反対票を投じたことで、トランプ大統領の計画に深刻な障害が存在しないことを事実上示したものと思われます。そのため、近い将来、緊張が高まる可能性が非常に高まっているのです。

