米国はベネズエラ沖での船舶攻撃により戦争犯罪を起こしたのか?
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ピート・ヘグセス米国防長官
米紙ワシントンポストが、「ヘグセス国防長官は南米ベネズエラ船舶への攻撃で 『乗員を1人も生かすな』と命令した」と報じました。これが事実であれば、米国は戦争犯罪の瀬戸際に立たされ、カリブ海で新たな危機を引き起こす可能性があります。
ワシントンポスト紙は先月28日、ピート・ヘグセス国防長官がカリブ海における去る9月2日の作戦中にJSOC統合特殊作戦軍に対し「乗員を1人も生かすな」と口頭で命令したと報じました。
最初のミサイル攻撃でスピードボートに乗っていた11人のうち9人が死亡した後、生き残った2人は残骸にしがみついていました。ヘグセス長官の直接指示によると思われる2回目の攻撃では、この2人も死亡しました。この事件は「サザン・スピア(南方のやり)」作戦の一環であり、2025年8月に開始されたこの作戦ではこれまでに20隻以上のボートが襲撃され、少なくとも83人が死亡しています。
トランプ政権はこの作戦を「外国のテロ組織トレン・デ・アラグアに対する正当な国境防衛」と称しています。米国政府はこの組織をコカイン密売と不法移民の首謀者と見なしていますが、現実はこうしたレッテルよりもはるかに複雑なものです。
これらの船に積まれていた麻薬に関する公的な証拠は、一切明らかにされていません。また、殺害された者の多くは地元の漁師や小規模な密売人であり、麻薬カルテルの幹部ではありませんでした。最も重要なのは、差し迫った脅威にならない非武装の生存者を殺害することは、ジュネーブ条約のみならず、米国国内法(戦争権限法および軍隊規則)でも禁じられていることです。
ワシントンポストの報道が正しければ、アメリカのこの行為は「違法」であると共に、「戦争犯罪の可能性」の範疇に入ることになります。
トランプ大統領は即座にヘグセス長官を「100%」正しいと認め、「ピット(ヘグセス氏)がそう言わなかったら問題は終わりだ」と語りました。ヘグセス長官は報告書を「フェイクニュース」だとし、「すべての作戦は軍と民間の弁護士の承認を得て実施された」と主張しました。しかし、同国防長官による個人的な否定は、公式調査の代替にはなりません。この命令に関する映像、音声、文書は公開されておらず、国防総省も沈黙を決め込んでいます。
これに関しては米野党・民主党員はもちろん、一部の共和党員でさえも即時調査を求めています。上院議員13名はヘグセス氏と米国司法長官に書簡を送り、すべての文書、許可証、そして諜報報告書の提出を要求しました。バージニア州選出のティム・ケイン上院議員は「もし事実なら、この申し立ては戦争犯罪に相当する」と述べています。さらには、米フォックス・ニュースの保守系コメンテーター、アンディ・マッカーシー氏でさえも「麻薬密輸は連邦犯罪であり、戦争ではない。生存者を無人機で処刑することはできない」としています。
一方、ベネズエラは今回の攻撃を「宣戦布告」と見なし、カリブ海沿岸で大規模な軍事演習を開始しました。ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領はアメリカに対し、「南米にもう一つのガザを造りたいのか?」と問いかけています。
この緊張が生じた一方で、最近の世論調査でベネズエラを「重大な脅威」と考える米国市民はわずか13%にとどまっています。結局のところ、この事件はアメリカにとって2つの根本的な疑問を提起した形となっています。そのうちの1つは、「麻薬戦争が戦争法の放棄を正当化する根拠となるのか」というもので、もう1つの疑問は「政府は議会の承認なしに国際水域で大量殺戮を実行できるのか」というものです。
アメリカの歴史は、監視と透明性のない軍事力の行使がベトナム・ソンミ村事件のようなスキャンダル、あるいは2003年のイラク戦争のような長期戦の始まりに帰結することを物語っています。アメリカは今、まさにこの一線を越える瀬戸際に立たされているのです。ワシントン・ポスト紙の主張が真実ならば、米国防総省は公式の戦争においてさえ非難されるべき犯罪を引き起こしたことになるのです。
一方、もしそれが虚偽であれば、信頼性あるメディアは信頼を失ったことになります。いずれにせよ、真実を明らかにする唯一の方法は、独立した議会調査もしくは、公平な委員会による調査です。その日まで「乗員を1人も生かすな」という文言は、一軍事命令にとどまらず、米国の現代の世代が答えるべき倫理的・法的問題として残ることになるのです。

