NATO事務総長が欧州防衛の対米依存を主張する理由とは?
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NATO北大西洋条約機構のマルク・ルッテ事務総長(オランダ出身)
NATO北大西洋条約機構のマルク・ルッテ事務総長が、ヨーロッパの防衛が米国に依存すべきことに固執しています。
【ParsToday国際】ルッテ事務総長は「NATO加盟国は依然として米国を頼りにできると共に、欧州の防衛システムは米国の防衛から独立すべきではない」と語りました。ルッテ氏は今月26日、DPAドイツ通信とのインタビューで、「欧州は安全保障にもっと資金を投入しなければならないが、だがそれは米国の傍らで、ということである」とした上で、「自分は、米国がNATOを全面的に支持しているものと確信している。その点に疑いの余地はない」と述べています。
ルッテ事務総長は、欧州が単独で自らの防衛に責任を持つべきだとするトランプ米大統領の考えを否定しました。ルッテ氏は「米国は去る10月、ルーマニアの空軍基地への駐留予定だった軍を含め、NATO域内東部に駐留する部隊の数を入れ替えなしで削減する計画を通告してきたが、欧州に対する約束事を引き続き遵守する」と主張しています。しかし、この動きは、欧州における米軍駐留の削減に向けた最初の具体的な一歩と見られています。ルッテ氏がこの発言を提起したのは、欧州同盟国が米国の決定を待っている中でのことです。米国は欧州からインド太平洋地域への人員資源シフトを進めると見込まれています。米国はまた、2025年3月にウクライナへの軍事支援を停止しており、欧州諸国がその不足分を補うことを余儀なくされています。
こうした中、今月発表された米国の新国家安全保障戦略文書は、欧州諸国に対し自国の防衛費負担を明確に求めています。このことに加え、米国の対NATO関与縮小に関する憶測も飛び交っており、緑の大陸と言われる欧州にとっては、独立した欧州防衛システムの確立を加速させることはもはや不可欠となっているのです。
ドナルド・トランプ米大統領は欧州同盟国に対し、「防衛の負担を分担」し、ヨーロッパ大陸の安全保障に「主要な責任」を負うよう繰り返し呼びかけてきました。2025年6月にオランダ・ハーグで開催されたNATO首脳会議では、この軍事組織の同盟国は軍事費をGDP国内総生産の3.5%に、その他の国防関連支出を1.5%に引き上げることを約束しています。しかしながら、現在までに4%を超えているのはポーランドとリトアニアのみで、NATOの推定では加盟国の半数以上が2%台に留まっていると見られています。NATOは1949年の設立以来、欧米諸国の協力の上に築かれ、米国は自らの軍事力、先進技術、そして巨額の軍事予算を背景に、常にこの西側諸国の軍事同盟の中核を担ってきました。
ルッテNATO事務総長は最近、欧州が防衛分野で米国から完全に独立すべきではないという立場をとっていますが、これは以下に列挙するいくつかの理由に基づいていると考えられます。
第1に、アメリカの軍事力はヨーロッパ諸国全体の軍事力をはるかに上回っていることが指摘されます。NATO加盟国のGDPの約75%はEU域外にあり、その大部分はアメリカが占めています。この経済的・軍事的優位性により、ヨーロッパはロシアや世界的なテロリズムといった脅威に対抗するために、アメリカの支援に依存しているのが現状です。
第2の点として、NATOの戦略構造は米国の存在を基盤としています。アメリカは軍事装備と技術の最大の供給国であるのみならず、ヨーロッパだけでは代替不可能な広範な情報・兵站ネットワークを有しています。NATO事務総長は、ヨーロッパの安全保障は米国と別途にではなく、米国と共に確保されるべきだと考えています。
3番目の要因として挙げられるのは、アメリカが欧州に国防費増額迫ってきていることです。米国は欧州諸国に対し、国防費への貢献拡大を期待しているものの、主導的な役割負担は依然として米国が担っています。そのため、欧州は自国の軍事予算を増額しても、事実上は米国に依存していることになります。
こうした依存の結果は多面的なものになります。ルッテNATO事務総長をはじめとした、欧州の安全保障面での対米依存を主張する人々は、米国が少なくとも理論上はNATOの枠組みの中で集団防衛という約束を引き続き遵守することで、欧州の安全保障が保証されると主張しています。こうした人々は、このことにより欧州諸国は経済発展や社会福祉といった他の分野に資源を配分できるようになり、ロシアなどのライバル国の影響力拡大も阻止できると主張しています。
以上の事柄をまとめると、ルッテNATO事務総長が防衛面でのヨーロッパの対米依存を主張するのは、軍事力と経済力という現実に根ざしたものです。ルッテ事務総長の見解では、ヨーロッパは米国なしでは世界の脅威に完全に耐えられないとされています。しかしながら、こうした依存は、ヨーロッパの戦略的独立性を制限し、アメリカの外交政策の変化に翻弄されやすくなる可能性を孕んでいます。したがって、ヨーロッパの安全保障の将来は今後とも、NATOに対するアメリカの約束順守の程度および、集団防衛に対するヨーロッパの貢献の拡大幅に左右されることになると考えられます。
しかし一方で、このような依存はヨーロッパの戦略的独立性に限界を生み出しています。多くのヨーロッパの政治家は、米国への過度の依存によりヨーロッパがアメリカの政変の影響をもろに受けかねないと考えています。その一例として、近年のトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策の採用が挙げられます。これは、米国が事実上、同盟国の利益よりも自国の優先事項を優先していることを示しており、こうした懸念から、一部のヨーロッパの指導者は独立したヨーロッパ軍の創設を求めていますが、ルッテNATO事務総長はそうした構想は不要と考えているのです。

