8月 07, 2016 15:01 Asia/Tokyo

ナヴァー旋法というイラン古典の音楽体系についてお話します。

ナヴァー旋法は、ラーストパンジガー旋法と同じように、これまであまり演奏されることのなかった体系です。また、多くの音楽家にとっても、どちらかというとなじみのない旋法となっています。アリーナギー・ワズィーリー、ルーホッラー・ハーレギーなどの往年の音楽の巨匠の中には、ナヴァー旋法が、後にお話しするシュール旋法から派生したものだとする音楽家もいます。

とはいえ、非常にメロディアスな曲を内包する、魅力ある体系であることには間違いありません。

その音階は、ソをフレーズの基本の音とするとき、レ、4分の1音低いミの微分音、ファ、ソ、ラ、シフラット、ドとなります。各音の間隔は、4分の3、4分の3、1との4音によるひとまとまりと、1、2分の1、1のひとまとまりとなります。

ナヴァー旋法の序曲のダルアーマドは、いくつかのパターンがありますが、以前の岩崎さんのインタビューで、各旋法のキャラクターを如実に表すとされたように、ナヴァー旋法でも例外なくそのキャラクターが色濃く現れています。

その後のバヤーテ・ラージェは、バヤーテ・エスファハーン旋法の同じ名前の曲と共通するメロディの構造を有しています。以前もお話したように、イラン音楽の規範フレーズの集合体には、別の旋法でも、同じ名前をもつ曲やフレーズが存在しますが、多くの場合、何かしらの共通性を持っています。その一方で、マーフール旋法で説明したナグメのように、ほとんど何の共通点もないものも存在します。

また、ナホフトという曲では、フレーズの基準となり、強調される音が序曲のダルアーマドから変わります。つまり、ソが序曲のダルアーマドで強調される音だとすると、ナホフトではそれがレに移動します。この音は、後の展開で低くなっていく傾向があります。元ハーバード大学教授、ホルモズ・ファルハート氏によると、このナホフトでそれまで占めていたナヴァー旋法の形式を手放しはじめるとしています。

そして、ホセインという曲以降は、ナヴァー旋法としてのキャラクターを失い、後に説明する別の音楽体系、シュール旋法とほぼ同じようなメロディを弾くことになります。

このように、ナヴァー旋法では、そのシステム自体がシュール旋法との共通性という大きな要素を持っており、シュール旋法の派生系として見られることも不自然ではありませんが、それでも、そのメロディアスな旋律は、決してシュール旋法と同一視できるものでもありません。なお、ナヴァー旋法による作品は、巨匠ホセイン・アリーザーデが盛んに作っています。