3月 15, 2016 19:45 Asia/Tokyo

前回までの番組では、イラン音楽にはラディーフという基本となるメロディ、あるいは曲が存在し、それが体系ごとに分けられている、このラディーフはミールザー・アブドッラーなど、19世紀から20世紀頃の音楽家に伝承されたものが基準とされ、音楽家はそれを習得することが前提となる。

そしてこのラディーフには特定の順序があり、基本的にその順序に従って音楽の演奏が行われる、とお話しました。

 

今回からは、実際にイランの旋法体系の詳細について、ひとつづつ紹介することにいたしましょう。マーフールという体系です。

マーフールは、基本的にはメジャー調ともいうべき、明るい雰囲気を持つ体系です。この体系の音階は、ドの音を基準としたとき、全てナチュラルのドレミファソラシドという音階を持ちます。それぞれの音の間隔は、全音、全音、半音、全音、全音、半音となり、まさにこれはドレミファソラシドの並び順となります。とはいえ、節々で暗転するように劇的に転調します。

前回の番組で岩崎さんがコメントしていたように、ダルアーマドというグーシェ、つまり曲は、これからマーフールを演奏するという宣言するような役割を持っており、そのため、マーフールの基本的な音階とキャラクターを提示します。このダルアーマドの中に、いわばマーフールとしてのアイデンティティが凝縮しているといえます。曲の中心となる音がドの場合、ダルアーマドはのフレーズは、ソラシドと、ドレミファの4つの音を含む2つのコードで構成されています。この4つの音のまとまりは、音楽用語でテトラコルドと呼ばれます。

ダルアーマドの次に、ダード、というグーシェに移ります。ここで、強調され、基準となる音はダルアーマドのドからレに移りますが、最終的にはまたドに戻ります。この音が下降し、戻っていく動作を、ペルシャ語でフォルードといいます。

テヘラン大学、そしてハーバード大学のホルモズ・ファルハート元教授によりますと、マーフールという旋法体系では、この元の音階に戻るフォルードが大変重要なフレーズとなっているということです。これは、マーフールが音階の変化の多いダストガーであることから伺えます。

その第1のともいえる、劇的な変化は、この番組の2回目で実演した、デルキャシュという曲に現れます。ここで、曲で強調される基準となる音は、それまでドだったにもかかわらず、ソに上がります。また、音階も、ラが4分の1下がり、シが半音となります。このフレーズを構成するソ、ラ微分音、シ半音、ドという4つの音列は、シュール旋法を構成するテトラコルドのタイプです。この音階の曲が入ることで、それまで明るい印象をもつマーフールから、暗転するような場面を迎えます。デルキャシュという名前は、日本語で「傷心」を意味します。

それでも、最終的にはまたフレーズが下降するフォルードを経て、元の音階に戻ります。