チャハールガー旋法(2)【音声】
前回の番組では、チャハールガー旋法が、イラン暦の新年ノウルーズや結婚式などの、お祝いで使われることが多いとお伝えしました。
また、日本人セタール奏者の慶九さんこと、林原慶子さんのインタビューから、朝に演奏されることが多く、また音階の点でインドの旋法ラーガ・バイラヴという旋法に非常に似ている、ということが指摘されました。
また、構造の点から、チャハールガー旋法という音楽が、ドをトニック、つまり音階の基準となる音とした場合、基本的な部分ではド、4分の1音低いレ、ミ、ファ、ソ、4分の1音低いラ、シ、ドとなる、そして以前紹介したマーフール旋法のように劇的に雰囲気が変わることはないものの、展開によって音階が変化するとお伝えし、ムーイェという曲では、音階が変化するとお伝えしました。
ムーイェという曲の次に重要な展開を迎えるのは、ヘサールという曲です。ヘサールは、「城砦」や、そこから転じて、とらわれることを意味します。このヘサールで、フレーズの中心はソに移行します。音階の点からはそれまでナチュラルだったミが半音下がってフラットに、ファが半音上がってシャープとなります。このため、フレーズを構成する音階は、ミフラット、ファシャープ、ソ、4分の1音低いラ、シ、ドとなります。この音階の変化により、そしてヘサールという名前から、切迫した何かを感じさせる雰囲気となります。
このヘサールでも、最終的にフレーズが低い音に移動しながら、音階が元のチャハールガー旋法の音階に戻ります。マーフール旋法の部分でもお話しましたが、これは、フォルードというフレーズに当たります。
その後、モハーレフという曲に移行することもあります。このモハーレフとは、ペルシャ語で、「反対」を意味しますが、これはこれまで低い音から高い音に上昇する傾向にあったフレーズが、このモハーレフでは、一部は上昇するものの、全体的に、高いところから低いところに、ちょうど逆流するような形式をとります。フレーズの中心となる音は4分の1音低いラの微分音です。
そしてその流れが、マグルーブというフレーズで、もとの低い音から高い音への流れに戻ります。マグルーブというのは、ペルシャ語で「逆に返された」という意味です。このモハーレフからマグルーブの流れは、後に見ていくセガー旋法でも見られます。全体的に、曲調の展開などの点から、チャハールガー旋法とセガー旋法は多くの共通性が見られます。
また、マグルーブの中で、バステ・ネガールという曲が演奏されることがあります。このバステ・ネガールは各旋法体系に存在しますが、これについて、巨匠ホセイン・アリーザーデ氏は次のように語っています。
「このバステ・ネガールは各旋法体系の中で、規定のリズムとメロディを持ちながら繰り返し演奏される曲である」
そして、マンスーリーというチャハールガー最後の曲では、曲の中心となる基準音は、序曲のダルアーマドよりも1オクターブ高い音となります。それでは、マンスーリーをヴォーカル用の規範曲からお届けします。この中では、13世紀の詩人サアディーの「姿を見せよ、神秘主義者の心は耐えられぬ、覆いを取り去らなければ、狂気に陥る。サアディーよ、もし愛すことがなければ、哀れなことだ、生涯を無駄にする」という神秘主義的な詩が詠まれています。
元ハーバード大学教授のホルモズ・ファルハート氏によりますと、マンスーリーの演奏後、1オクターブ低い基準音への移動が強調される即興演奏が行われるということです。このように、マーフール旋法でも見たような形で、チャハールガー旋法でも、全体的に、高い音に移動しながら、元の音にもどる、という展開が、イラン古典音楽の全体に見られます。
このように、イラン古典音楽の重要な旋法、チャハールガー旋法をみてきましたが、この旋法は現在のイランだけに残っている旋法ではなく、現在のアゼルバイジャン共和国にも残っています。また、イラン西部・コルデスターンの弦楽器タンブールによる音楽でも、微分音が存在しないながらも、微分音を半音に置き換えてチャハールガー旋法を演奏するケースもあります。この手法は、現代的なポップスにおいても、一部見られます。