薬用植物、ダマスクローズ
イランは、園芸植物や観葉植物、薬用植物など、植物の多様性の点で、世界でも豊かな国のひとつとなっています。 今回は、イランの薬用植物である、ダマスクローズとクミンについてお話しましょう。
世界的な統計は、ここ数十年の薬用植物の取り引きの拡大とその消費量の増加を示しています。WHO世界保健機関の調査によれば、世界の確かな医薬品集に載っている医薬品の少なくとも25%が、植物からできていることが明らかになっています。また、世界の医薬品産業において、120種類以上の植物が利用されており、WHOによって必要不可欠な医薬品として紹介されている250種類以上の医薬品が、植物性のものとなっています。
合成薬品の大部分が天然の原料を使用しています。概して、人間が使用する医薬品の3分の1が、植物を原料にした医薬品だと言うことができます。世界薬用植物の消費に関する統計は、世界の人口6億人のうち、80%が、薬用植物を使用していることを示しています。
薬用植物の消費を人々が歓迎していること、合成薬品の数が増加していることは、天然の原料を利用した薬品への支持が形作られていることを物語っています。薬用植物を使った茶や、シャンプーやクリームなどの化粧品への植物の利用は、この種の植物の経済的な価値を、これまで以上に明らかにしています。
市場の需要は、加工のレベルや医薬品としての価値と共に、一つの植物の経済的な魅力をはかる指標となっています。現在、薬用植物の生産や輸出は、農業経済において最も利益の望める部門のひとつとなっています。WHOが、化学物質の代わりに天然の資源を利用しようとしているため、世界各国は、産業レベルの薬用植物の栽培と大量生産に投資を行っています。
イランは、さまざまな種類の植物分布の点で、世界でも豊かな国の一つです。イランには、およそ8000種類の植物が存在し、そのうちおよそ2000種類が、薬用面での効果を有しています。イランは、寄稿の多様性により、薬用植物の栽培や生産にとって、類まれなる地域のひとつとなっています。
イランの領土の14万ヘクタールが、薬用植物の栽培地となっています。この種の植物のひとつは、クミンとなっています。クミンは、香辛料としても、また薬用植物としても、昔から使用されてきました。クミンの原産地は明らかになっていません。一部の人々は、それを地中海南部としており、またエジプトやナイル川沿岸とする人々もいます。しかし、クミンの栽培面積の広さとその古さにより、多くの人が、その原産地をイランと考えています。
クミンは、セリ科の植物です。セリ科の植物は、栄養価が高く、医学的な効果も含んでいます。クミンは、医学的な観点から、痛みや炎症を和らげ、殺菌効果があります。この薬用植物は、感覚を麻痺させたり、消化を助けたり、胃を強化したりする働きがあります。
クミンは、経済的な価値が高く、世界の限られた地域でのみ、栽培、生産されています。イランは、世界におけるクミンの主な生産地のひとつです。世界の生産量のおよそ40%がイランで生産されています。イランのクミンは、自生のものと栽培されているものとがあります。ホラーサーン、ケルマーン、セムナーン、東アーザルバイジャーンが、イランにおける主な生産地です。
イランのクミンは良質であり、国際市場では、他の国のクミンよりも5%から10%値段が高くなっています。イランのクミンの特徴の一つは、純度が高いことです。イランのクミンは、アジアやヨーロッパのさまざまな国に輸出されています。毎年、イランで生産されたクミンの一部が、ペルシャ湾岸諸国、日本、シンガポール、ドイツ、フランス、オランダ、ハンガリー、ベルギー、イギリス、ウクライナ、ロシアに輸出されています。
ダマスクローズも、イランの薬用植物のひとつです。この花は、バラ科に属します。世界のダマスクローズの栽培面積の70%がイランにあり、イランはおよそ3万トンのダマスクローズの生産により、世界最大の生産国となっています。
イランは、世界最大のバラ水の生産国のひとつです。年間およそ2万2000トンのバラ水がイランで生産されており、そのうちの40%が国内で消費され、残りの60%は海外に輸出されています。イランのバラ水は、適した気候条件のもとで生産されているため、世界的にも質の高いものとなっています。イランのバラ水の主な消費市場は、ペルシャ湾岸諸国の他、レバノン、ブルガリア、ドイツ、イタリア、アメリカです。
著名な植物学者たちは、ダマスクローズの価値を高く評価しており、ダマスクローズのエキスが、耳や消化器官の不快感、皮膚や骨の治療に効果があることを認めていました。ダマスクローズは、睡眠を促し、神経を和らげる効果があり、医学的にも、ホルモンのバランスを整えるものとして利用されています。バラ水でうがいをすることは、口の中や歯茎の炎症に効果があります。
ここからは、薬用植物としてのダマスクローズについて詳しく見ていきます。
ダマスクローズは、水をほとんど必要としない植物のひとつです。そのため、イランの気候や山岳地帯が、この植物の栽培に適しています。このことにより、イラン各地に花畑が広がり、バラ水を生産する工場が存在します。
現在、ファールス、ケルマーン、イスファハーン、チャハールマハールバフティヤーリー、ハメダーン、セムナーン、ヤズドなど、イランの20の州の1万4000ヘクタール以上で、ダマスクローズの栽培がおこなわれています。イランには18種類のダマスクローズが存在し、それぞれがバラ水の質の点で異なるものとなっています。
イランのバラ水の中でも、カーシャーンのバラ水は、純度が高いため、世界的な名声を有しており、メッカのカアバ神殿をはじめとするイスラム教徒の聖地は、カーシャーン・ガムサルのバラ水で清められています。カーシャーンには、ダマスクローズの加工を行う工場が20か所あります。カーシャーンの花畑では、1ヘクタール平均して4000キロのダマスクローズが収穫され、年間の量は6000トンになります。カーシャーンのダマスクローズの栽培、収穫の時期には、22万人の労働力が活動を行います。
ガムサルやニヤーサルなどのイラン各地の花摘みの儀式は、これらの町の魅力のひとつとなっています。毎年、5月の初めから6月の半ばにかけて、イラン国内外から、数千年の歴史を持つこの儀式を見るために、多くの観光客がやって来ます。ダマスクローズの花畑を歩き、バラ水の生産工場を見学することで、思い出に残る旅を経験することができます。
もっと見る;