ことわざ:「自分の座っている枝を切る人」
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王様と二人の大臣
イランに残る数々の民話は、昔から世界中の人々の心をひきつけてきました。これらの民話はどれも、人生の教訓でありながら、同時にイランの歴史ある豊かな文化を物語るものでもあります。 イランの思想家や先人たちは、筆を執り、自らの知識を、散文や韻文といった形で未来の人々に残してきました。
ある日のこと。泥棒が果樹園に忍び込みました。果樹園が広くて誰もいないのをいいことに、木によじ登り、次々と果物をもぎ取り始めました。そうしているうちに、果樹園の持ち主がやってきて、泥棒が木の上で果物を盗んでいるのを見つけました。果樹園の持ち主は木の下にやって来て叫びました。
「おーい、いったいここで何をしているんだ!」
泥棒は彼が果樹園の持ち主だとはつゆ知らず、言い返しました。
「見たら分かるだろう?仕事をしているんだ。ここは俺の果樹園で、木に登っているだけだ」
果樹園の持ち主は、この言葉を聞くと、足元にあった棒を取り上げ、木の枝からぶらさがっていた泥棒の足を叩きながらこう言いました。
「なんだと!いつからこの果樹園がお前のものになったんだ!」
このとき、泥棒の心にふと不安がよぎりました。
「もしかしたら、この男が果樹園の持ち主なのか?いや、それとも隣の果樹園の持ち主だろうか?」
泥棒は木の棒でぶたれないように足を持ち上げました。そして、懐から小刀を取り出し、自分の座っていた枝を切り始めたのです。そして、下に向かって偉そうにこう言いました。
「仕事の邪魔をしないでくれ。この果樹園の持ち主から、余分な枝を切り取るように言われているんだ」
果樹園の持ち主は、この泥棒の言葉に笑いをこらえきれず、彼に向かって言いました。「全く恥ずかしげもなく、そんな嘘をつくものではない。この果樹園の持ち主は私だ。私がいつ、お前に金を渡して余分な枝を切れと頼んだのだ?」
どうにも逃げられなくなった憐れな泥棒は、さらに嘘をつこうとしました。しかし果樹園の持ち主は言いました。
「さあ、降りてきなさい。まったく分別というものがない。お前は自分が座っているほうの枝を切ろうとしていたんだぞ?もう少しで枝が折れて、真っ逆さまに落ちてしまうところだった。もしお前が本当に枝を切る仕事を生業にしていたら、余分な枝をどうやって切ったらいいかを、よく知っていたはずだ」
自分の過ちに気づいて、恥ずかしさにいたたまれなくなった泥棒は、すごすごと木から下りてきました。そして果樹園の持ち主の罰を待ちました。しかし、泥棒のやることにあきれ果てた持ち主はそれ以上、何も言わず泥棒を解放してやりました。泥棒は恥ずかしさにうつむきながら、とぼとぼと果樹園を後にしたのです。
こののち、自分に損になるようなことをする人のことを指して、こう言うようになりました。
『自分の座っている枝を切る人』