イランにおける自然環境の重要性(最終回)
前回と前々回の2回にわたり、イスラムの視点から見た自然環境の重要性についてお話しました。最終回の今回は、イランにおける自然環境の重要性についてお話することにいたしましょう。
現存する資料や証拠からは、イランが自然環境に関する最も古い法律を有する国であることが分かります。古代のイラン人の教えでは、水、風、土、火といった自然界の要素や自然環境の衛生を維持することは極めて重視されていました。また、古代のイラン人にとって森林や樹木は、新鮮さと美の象徴でもあり、彼らの宗教においてもそれらが強調されていました。
歴史が示しているように、古代のイラン人は特別な祝祭を有しており、それらの祝祭において植樹を行っていました。彼らはそもそも、土や畑に敬意を払っていたのです。イラン南部のアケメネス朝時代の遺跡・ペルセポリスの碑文にも、このことの重要性が示されています。その例として、そこに残されている全ての遺跡には、イトスギの形をした樹木の重要性が見て取れます。古代のイラン人の間では、果物の実る樹木を植え、不毛の地を農業のできる土地にする国民は、幸福な国民であると考えられていました。
イラン人がイスラムを受容してからは、この聖なる宗教の教えによりイランの人々の間で自然環境の重要性が増し、その後様々な時代において自然環境の構成要素の維持に関する特別な法律が制定されました。
1979年にイランでイスラム革命が勝利を収めてからも、社会の存続という最も重要な問題が注目されたことにより、自然環境とその保護というテーマが社会問題の1つとしてクローズアップされました。この問題は、イランイスラム共和国の建国者ホメイニ師や、イスラム革命におけるそのほかの思想家の思想にも反映され、ある意味で彼らの関心事とも言えるものでした。
このような価値観の存在により、イランイスラム共和国憲法においても、自然環境の保護は公の義務の1つとされています。この憲法の第50条の条文によれば、イランでは現代と未来の世代がその社会的名存続を発展させるべきである自然環境の保護は、公の責務となっています。このため、自然環境を汚染したり、修復が不可能になるほどこれを破壊するような経済活動などは禁止されています。
イランでは、憲法に加えてそのほかの法律も環境問題に注目しています。また、イランイスラム革命最高指導者のハーメネイー師も、常に自然環境とその保護を強調してきました。
ハーメネイー師の見解では、自然環境保護は存続にかかわる問題であることから、社会の構成員1人1人がこれに関して宗教的な責務を負っているとされています。ハーメネイー師はまた、これについて個人的、社会的な責務の受容を、特に強調しています。
ハーメネイー師の見解では、自然環境の主な所有者は人々であるとされています。健全な自然環境の恩恵にあずかることは、1つの権利として注目される必要があります。ハーメネイー師は、環境保護を主権的な責務ともみなしており、これに関する主要な責任を担うのは政治家であるとともに、環境問題の解決を国内のみならず、他国の政府や機関との交流において、地域・国際レベルで恒常的に取り組むべき政府の重要な責務の1つと考えています。
こうしたアプローチにより、2015年にはハーメネイー師が総合的な環境政策を、三権の長に伝達しました。この政策には重要な項目が含まれており、それらの例としてイランの開発計画における環境保護の指標の遵守を挙げることができます。
そうした指標として、再生可能な天然資源の保護と再生、そしてその合理的な利用や開発、運営管理と気候の変動における新たな現象の認識、環境を脅かす要素への対処、炭素の排出の少ない産業を強調したグリーン経済の拡大をあげることができます。さらに、ハーメネイー師がイランの環境政策における骨子に掲げている項目として、クリーンなエネルギーの利用、経済や社会の様々な分野における生産モデルの修正と、消費モデルの合理化、環境にかかる費用の考慮、環境分野での投資の奨励と支援、そして環境倫理憲章の制定などがあります。
このような政策について考えると、2つの基本的なテーマとして、政府の重要な責務、そして個人的、社会的な責務が強調されていることが分かります。
環境保護が国境を越えたテーマであることから、イランイスラム革命最高指導者のハーメネイー師は、環境外交にも注目しています。それは、目指す目標への達成には通常、地域・国際的な組織の強化が必要とされるからです。その例として、砂塵や水質汚染への対策の問題が挙げられます。
近年、砂塵の問題は直接、或いは間接的にイランの多くの地域を問題に直面させています。しかし、この問題の国内的な原因はわずか15%に過ぎません。砂塵の原因は、イラクやクウェートといったイランの周辺の環境の環境破壊にあります。この悪しき現象は、人間の健康を直接脅かすのみならず、特にこれらの国に隣接したイラン西部の地域の植物や森林を深刻な危険に直面させています。
環境保護に向けたイランの国際的な取り組みとして、イラン南部ペルシャ湾およびオマーン海という2つの海域、そして北部カスピ海における環境保護の分野での、近隣諸国との協力が挙げられます。それは、イランの国民や自然環境に及ぼすその影響が、極めて重要だからです。
環境保護に向けた地域的な措置に加えて、イランは環境保護関連の国際機関や組織にも、積極的に参加しています。
イランは、気候変動枠組み条約や、国際的な湿地の保護に関するラムサール条約、オゾン層保護のためのウィーン条約、世界遺産条約、砂漠化対処条約、生物の多様性に関する条約、海洋汚染の防止に関する条約など、環境保護に関する条約や議定書の多くに加盟しています。このことは、国際的な環境保護に向けたイランの確固たる決意を示すものです。この点において、イラン環境保護庁はこの分野での国家的な最高権威として、環境保護に関する国際会議の多くに積極的に参加するとともに、これらの国際機関で採択された内容を実施する義務を負っています。
これまでお話してきたことから、イランでは環境を破壊する要因への対処が、常に宗教の教えという枠組みにおいて、しかも経済的な利益或いは政治的な問題には集約できない目標とされてきたことが分かります。
環境保護問題は事実上、人間にとっての死活問題であり、これに関する開発の全てが、人類が健康的で望ましい生活を営むためのものであることは言うまでもありません。自然環境が破壊されれば、全ての存在物が滅びることになります。しかも、この危機は一部の国や世界の一部の地域に限られず、全世界に忍び寄るものなのです。
このため、国際的な協力は1つの抑止力として機能し、各国の国内外の環境面での不安を制御しうるものです。こうした現実は、世界規模での自然環境の重要性を物語っており、地球村における環境の改善に関するイランの取り決めは、イランが平和と友好の要因にもなりうる環境の健全性を特に重視していることを物語っています。