7月 18, 2018 19:56 Asia/Tokyo

現在、タブリーズを中心とする東アーザルバーイジャーン州には、20世帯以上が居住する村落が1950も存在します。これらの村の多くにおいては、大自然や歴史の奇跡が間近に見て取れます。今回は、この地域にある観光名所の見本として、そのうちの3つの村をご紹介してまいりましょう。

まずは、東アーザルバーイジャーン州の中心都市タブリーズから60キロ離れた村の1つである、マジャールシーン村をご紹介する事にいたしましょう。この村は、緑に覆われた山岳地帯とともに、まだ開発の手が及んでいない自然が広がり、悠久の歴史を誇っています。ここには、多種多様な観光名所や史跡が集中しています。マジャールシーン村のシンボルはジャガイモで、この村の土地の多くには、クルミやヤナギの一種などの樹木が植えられています。

マジャールシーン村の基幹産業は畑作、造園、牧畜、じゅうたん製造です。この村では、広大な面積の牧草地が存在することから、周辺の村よりも大規模な牧畜が行われています。このため、大量の乳製品が生産され、これらは村の住民の家庭経済の大きな助けとなっています。

マジャールシーン村に初めて住み着いた人々の住居は、岩をくり抜いた洞穴でした。これらの洞穴には、食物の保管場所とするため、壁にいくつもの小さなくぼみがあり、外の様子を伺う見張りのための除き窓となる穴がいくつもあけられています。これらの家々の入り口は非常に通り抜けにくい構造になっていますが、これは住居の安全上の理由によるものです。

マジャールシーン村は、岩山の多い地域に位置していることから、家屋の建設がきわめて困難であり、またそれには膨大な費用がかかります。この村の家屋の多くは、岩山をくり抜いて作られていますが、過去には石材や日干し煉瓦で壁が、さらに木材で天井が造られていました。家屋の建築に必要な資材は普通、周辺の自然環境から調達され、それらを泥やわらなどとともに、家屋の建築に使用していました。

マジャールシーン村の家屋に使われる土は、非常に粘着力のある性質を持っています。この村の人々は、木製の型枠を使って日干し煉瓦の壁を造り、この作業が終了してから壁の表面に藁を混ぜた泥を塗っていました。また、住居の内部にも上薬として藁を混ぜた泥を塗っていましたが、この作業は多くの場合、イランの春の新年ノウルーズを間近に控えての、年末の大掃除の時期に行われていました。

 

 

さて、タブリーズの町の南東部にある、サハンド山の裾野には、リーグヴァーンの谷という非常にさわやかな雰囲気の渓谷があり、ここはタブリーズ周辺で最もよく知られた観光名所の1つとされています。この渓谷は、山岳地帯に特有のひんやりしたさわやかな気候や、著名な温泉、そして原生林や花々の咲き乱れる平原、人為の及んでいない自然が存在することから、天国の谷と呼ばれています。

東アーザルバーイジャーン州にある数多くの村の中で、最も人口が多い村の1つがリーグヴァーン村であり、総人口はおよそ8000人とされています。この村で生産された、羊の乳汁で作られるチーズは、世界でも名声を博しています。複数の歴史家や研究者が残した記録によれば、この村の歴史はイスラム以前にまでさかのぼるとされています。

リーグヴァーン村の温泉は火山性の温泉で、サハンド山の地下で起こる変動により生じており、全部で数本の河川を形成しています。また、これらの河川の付近では、地中からおいしい水が湧き出ていますが、これは気候風土面での理由から、イランで最も高品質のミネラルウォーターとなっています。この河川の水源は、サハンド山系を形成する複数の山であり、これらの山の名声は数あるイランの山々の中でもひときわ輝いています。

 リグヴァーン渓谷は、この村の名所の1つであり、河川や泉、樹林、原生林が存在することから、テブリーズ周辺の最もよく知られた行楽地であるとともに、東アーザルバーイジャーン州の最も重要な観光スポットとされています。この渓谷は、セフィーデフヴァーン村の東に位置しており、リグヴァーンチャーイ川がこの渓谷の間を流れていることから、ここでは美しい行楽地ができているとともに、中東地域で最も高品質のチーズが生産されています。

 

セフィーデフヴァーン村には、人為的な開発の及んでいない山々などの大自然、ピラミッド型や円錐形の岩山のほか、人間の手作業により掘削された地下のトンネルが数多く存在します。この地域の岩山や、石造りの住居の下に掘削されたトンネルや洞穴、通路は、リーグヴァーンの昔かたぎの男性たちにより造られたもので、その用途は多岐にわたります。その昔、人々は反逆者や盗賊への恐れから、これらの場所を隠れ場所として使っていました。しかし、現在ではその一部はチーズの保管場所、あるいは羊の飼育場所に利用されています。石でできたこれらの洞穴や通路は、夏には涼しく、冬には温かいという好都合の場所となっています。

 

 

 

それではここからは、イラン北西部・東アーザルバーイジャーン州にあるもう1つの美しい村、キャンドヴァーン村をご紹介してまいりましょう。

イランで最も驚異的で摩訶不思議な村を見たいとお考えでしたら、東アーザルバージャーン州の中心都市タブリーズの南西62キロの地点にあるキャンドヴァーン村がお勧めです。この村には、今なお山腹の岩肌に掘られた洞穴式の住居に人々が暮らしています。

キャンドヴァーンとは、ペルシャ語で「ハチの巣のような」という意味を表しており、この村はまさにその名が示すとおり、大きな岩の中央をくり抜いてできた住居が蜂の巣のように見えることから、この名前で知られています。この村は、トルコのカッパドキアなどと並んで、世界3大岩石遺跡群とされています、もっとも、キャンドヴァーン村がそのほかの岩石遺跡群と異なる点は、今なおその岩穴に120世帯もの人々が実際に生活していることです。これらの人々は農業、牧畜、手工芸の生産に従事しています。

キャンドヴァーン村は、サハンド山やその他の山々の火山活動の恩恵により、数千年にわたり東アーザルバージャーン州でも特に気候条件のよさに恵まれてきました。火山活動により生じた物質は、外部に噴出して長年にわたり蓄積しています。なお、キャンドヴァーン村に見られる岩穴式の住居の建築には、この地域独特の方式が用いられています。

この村の住居の岩盤を利用した建築は、人間と自然の闘い、そして人間が自然界の岩山を利用していることを物語っています。通常の建築方式では、石膏や石灰、日干し煉瓦などの資材を利用して、建物の基本となる枠組みを造りますが、キャンドヴァーン村に見られる岩穴式の住居ではそうした資材を使うことなく、すでに存在する岩山や岩盤を掘削して、室内空間を造る仕組みになっています。実際に、この建築様式は、自然界の岩山の征服を目指して人間が自然と闘った事を示す実例といえます。

キャンドヴァーン村に見られる、岩山をくり抜いた住居は、その外見的なイメージとは異なり、内部にはごく普通の家屋のようにリビングルームや物置、台所などさまざまな用途の部屋が存在し、水道の配管システムや電気もあります。このように興味深い構造となっているこれらの住居は、直径がおよそ2メートルほどであることから、内部は冬には天然の暖房がきいて暖かく保たれ、また夏は涼しく快適に過ごせます。

 

キャンドヴァーン村

 

キャンドヴァーン村の歴史に関しては、次のような言い伝えがあります。それは、キャンドヴァーン村から西に2キロほど離れたヒーレヴァルという名の村の住民らが、今から800年ほど前にモンゴル軍の襲撃から逃れるために、現在のキャンドヴァーンの向かい側にある平原に移住し、次第に自らの隠れ場所を確保するために、この地域の岩山の内部に穴を掘っていった、ということです。もっとも、一部の考古学者の間では、この村の歴史はイスラム以前の時代にまでさかのぼると考えられています。

 

 

長い歴史を誇るキャンドヴァーン村のもう1つの魅力は、ミネラルウォーターの湧き出る泉がいくつも存在することです。ここで湧き出る水は、カルシウムとマグネシウムがあまり含まれていない軟水であることから、腎臓病の治療に非常に効果があります。このことは、この地域に年間を通して30万人もの観光客がやってくることからもうなずけます。このため、キャンドヴァーン村の位置づけに注目し、東アーザルバーイジャーン州を訪れる観光客にとっての目玉の1つとなるよう、観光施設の拡大を目的とした、ラーレ・キャンドヴァーンホテルが建設されました。

 

ラーレ・キャンドヴァーンホテルのスイートルーム

 

タブリーズが、2018年のイスラム圏の観光都市に選ばれたことは、外国人観光客にこの町の魅力をアピールするための絶好のチャンスとなっています。特にタブリーズをはじめとする東アーザルバーイジャーン州とその周辺が、冷涼な高山気候地帯にあることから、この州にある村落を訪れるシーズンとしては、3月から9月にかけての、春と夏のシーズンをお勧めしたいと思います。

次回もどうぞ、お楽しみに。

 

 

 

 

 

 

 

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