視点
イランの難病患者、米の政治的意向と制裁の人質
国連人権理事会の下で実態調査や報告に当たる特別報告者アリーナ・ドゥハン氏(ベラルーシ国立大学教授)が、対イラン制裁の影響に関する報告書を正式に発表し、「制裁は、特に難病患者らの医薬品の確保に重大な支障をもたらしている」と語りました。
ドゥハン氏は、今年の4月にイラン司法府人権本部の招待により、様々な分野での制裁の影響に関する報告書作成のためイランを訪問し、これに関する完全な報告書を作成しました。このレポートには多くの側面があり、その中でも特に重要な部分の1つは衛生・医療分野です。
過去数年間、イラン人医療患者、特に難病患者は多くの深刻な問題に直面しており、そのうちの多くが命を落としています。制裁により、イランでは深刻な医薬品不足が発生しました。確かにイランは医薬品の分野で大きな進歩を遂げましたが、一部の医薬品の製造には原材料の輸入が必要であり、制裁により輸入ができなくなっています。したがって、国連特別報告者の報告では、「制裁により、イランでは2011年以降、医療サービスの供給が不安定になっている」と述べられています。
これに加えて制裁の結果、医療患者は経済面で大きく圧迫されることになりました。それは、イランの石油輸出の急激な落ち込みが保健医療部門の予算に影響を与え、特に難病患者をはじめとする医療患者用の医薬品を調達するコストが増加したことが原因です。ドゥハン氏のレポートでは、制裁が「特定の種類のガン、サラセミア貧血症、血友病、魚鱗癬、MS多発性硬化症、EB表皮水疱症、自閉症、特定の種類の糖尿病などの希少疾患」に大きな影響を与えていることも言及されています。
ドゥハン氏の報告書のもう 1 つのポイントは、一部の製薬会社が過度に米国の制裁を遵守しており、これがイラン人患者にも重大な影響をもたらしていることです。この特別報告では「制裁内容は、表面的には人道分野の品目に当たる医薬品と医療機器は影響を受けないとうたっているが、実際にはイランに対するこれらの品目の輸出は、金融、貿易、海運および保険会社、国際的決済・通商への制限、および外国企業に対する制裁の影響により大幅に減少している。また、これらの品目の供給者の過度の制裁遵守は、最高水準の健康の確立というすべてのイラン人の権利にとって重大な障害であると考えられる」とされています。
ドゥハン報告者は、皮膚病の一種であるEBにも言及しており、同氏はテヘラン訪問の際にはEB患者を治療する特別医療センターを視察しています。この病気は、他の多くの合併症に関連するまれな皮膚疾患であり、出生時から耐え難い苦しみを伴い、死亡につながる可能性もあります。この疾病による症状を軽減できるのは、スウェーデンのある企業が製造する湿布を使用するしかないのが現状です。テヘランにあるこの医療センターは、スウェーデンの製造業者が制裁を極度に順守していたため、これらのシリコン創傷被覆材の確保に際して甚大な課題に直面していました。
イランの医療部門と患者に対するアメリカの制裁は、多数の死者を出した新型コロナウイルスの世界的大流行にあっても止まらず、制裁の影響下でのコロナ蔓延により、このウイルスに関連するマスクや医薬品の供給でさえ、イランは深刻な問題に直面しました。
米国の制裁は、イランの難病患者をアメリカの政治的目標と欲望の「人質」にしたと言えます。世界人権宣言の第25条によれば、「すべての人は、自身とその家族の健康と幸福に十分な生活水準、特に食料、衣類、住宅、医療、そして不可欠な社会サービスを受ける権利を享受する」と定められている一方で、イランの医療患者の抱える現状はこの有様です。アメリカ政府は昔も今も、自らが策定した人権関連法や規則を遵守していません。