視点
OPECプラスが減産、米の増産要求退ける
OPEC・石油輸出国機構に非加盟産油国を加えたOPECプラスは、当初の計画よりも日量300万バレル減産しています。その理由は、一部加盟国への制裁や他国への投資減少で、世界のエネルギー危機抑制にむけた加盟各国の能力が弱まっていることにあります。
一方、バイデン米大統領は、ロシア産原油の供給減による混乱を補い、燃料価格の高騰とインフレの抑制のため、OPECプラスに対して増産を希望していました。
アメリカでは現在、9%以上のインフレが進んでおり、その多くがガソリンやガスオイルなどの輸送費の高騰によるものです。今年11月に中間選挙を控えていることから、バイデン大統領は民主党候補の得票を増やすため、戦略的石油備蓄の放出や、増産に向けた産油国への圧力行使などの措置をとらざるを得なくなっています。
エネルギー危機に苦しむアメリカは、最近2000万バレルの石油備蓄を市場に放出すると発表しました。これに先立ち、バイデン大統領の西アジア歴訪の際、ホワイトハウスはOPECプラスによる増産が近く期待できると表明していました。それは、バイデン氏の歴訪後に石油供給が増えれば、燃料価格に明らかな変化が生じるとされていたからです。
しかし、エネルギー価格の高騰で利益を得るサウジアラビアは、バイデン氏の要求とは裏腹に、ホワイトハウスによる増産要求にそれほど前向きな反応は示しませんでした。総体的に、サウジは現在の財政上の問題から、より多くの歳入確保のためさらなる原油の値上がりを追求しています。また、サウジ・ロシア関係が拡大傾向にあることからも、サウジとしてはロシアの怒りを買うようなことはしたくありません。
CSIS・戦略国際問題研究所のベン・ケーヒル氏は、「サウジは自らが中心となるよりも、これまでどおりOPECを通じて石油市場をコントロールしたいと思っている。サウジは自国産原油を輸出に回すため、燃料油であるマズートやガスオイルをロシアから購入している。こうしたことから、専門家の多くは、バイデン氏の西アジア歴訪を失敗と考えている」と語っています。
元駐イスラエル米大使のマーティン・インディク氏も、「サウジは増産能力のある唯一の産油国だ。しかし、今はロシアと協力して輸出量を制限している」としています。
こうしたことから、原油市場は、バイデン氏の成果なき訪問に反応して、現在では2%以上の上昇を見せています。
実際、サウジはバイデン政権が追求している石油価格抑制への努力には関心がなく、エネルギー関連の懸念を解消するような政治的解決策も持ち合わせていません。言い換えれば、西側諸国は、世界のエネルギー市場を再度コントロールするために、ウクライナ戦争や対露石油制裁を利用することはできないのです。なぜなら、ロシアは新たなメカニズムで石油輸出を続けており、アメリカも石油価格のバランス化のために、イランやベネズエラといった制裁対象国に石油輸出の機会を与えることはせず、特にイランに対してはさらに石油制裁を強化しようとしています。
米紙ウォールストリート・ジャーナルは、これについて、「アメリカはイランへの圧力強化をめざして、石油禁輸制裁の検討を進めている」と報じています。