世界秩序の変化と欧州の対中観
中国の習近平国家主席は5年ぶりの欧州訪問として今月初旬にフランスを訪れました。
習氏の訪仏は西側メディアで「外交的核爆発」と形容され、中国の外交姿勢に対する世論の関心を喚起しました。
今回と似た展開が1972年のニクソン米大統領による訪中の際にも見られました。同時のド・ゴール仏大統領は、ニクソン訪中をうけ「フランスは中国の声を直接聞く」「いまは静観している国々もフランスに続くだろう」としました。
西側の専門家らは、多極化に向かう世界秩序の変化が中国を自国の利益保護にむけた行動に駆り立てていると見ています。
米中対立が避けられないものとなり、中露関係が深化する中、欧州は来る多極化世界でどの国がウェートを占めるか見極めようとしています。
こうしたことから、中国は欧州との経済関係を維持しようとしており、外交活動を活発化させています。
習氏は今回、中国と比較的良好な関係を持つフランス、ハンガリー、セルビアの3カ国を訪問先に選びました。
最初の訪問国であるフランスは、ウクライナ戦争後も中国と穀物貿易を続けています。
これまでの見方では、EU諸国で最も中国に好意的なのはドイツでした。しかし、ウクライナ戦争後は、連立政権に参加している緑の党が中国に批判的なため、関係は冷え込みました。
もっともこうした動きは、ドイツ財界の抵抗を招きました。その一方で、米国寄りのシンクタンクなどは、対中批判の報告書を数多く出すことで中独関係の弱体化を図っています。
習氏の2番目の訪問国はセルビアでした。セルビアはEU加盟国ではなく、1990年代にNATOによる空爆を受けたことから、現在も西側諸国とは溝があります。また、EU加盟圧力や隣国コソボ共和国の主権をめぐる問題を抱えており、中露のような新興大国と関係を強化することで自らの影響力を確保しようとしています。
そして3番目の訪問国であるハンガリーは、EUでも屈指の親中国として知られます。同国のオルバン首相は、中露との関係拡大を外交政策に据えてきました。ハンガリーは中国の対欧州投資の窓口として振舞っており、中国にとってきわめて重要な国となっています。
ハンガリーは地理的にも重要な位置を占めています。中国が提唱する一帯一路構想にハンガリーはEU加盟国として唯一参加しており、同国ブダペストとセルビアの首都ベオグラードを結ぶ高速鉄道建設が中国の協力により進められています。この路線はギリシャのアテネまで延線されることが決まっており、中国が使用権を獲得したピレウス港と合わせて、ギリシャからハンガリーに至るルートが完成することになります。