イランにおける春の新年ノウルーズ(1)
(last modified Sat, 30 Mar 2019 19:30:00 GMT )
3月 31, 2019 04:30 Asia/Tokyo
  • イランにおけるノウルーズ
    イランにおけるノウルーズ

今回は、イラン人の間に広まっているノウルーズの習慣についてご紹介することにいたしましょう。

今年も、イラン暦の春の新年ノウルーズがめぐってまいりました。イランは、多民族・多文化の混在という点で、世界有数の先進国とされています。イランでは、数千年にわたってペルシャ系、トルコ系民族、クルド人、ロル族、アラブ族、ギーラク族、ターレシー族、トルクメン人、バルーチ族、カシュガーイー族のほか、数十もの部族が平和共存しています。

これらの民族は、それぞれ独自の風俗習慣や伝統を有していますが、ノウルーズを祝いその慣行儀礼を実施する点では共通しています。実際に、ノウルーズは悠久の歴史を通して、イランの諸民族の団結、そして平和のシンボルとされてきたのです。ノウルーズの慣行儀礼の実施方法は、これらの民族や彼らの持つ宗教により多少の違いはあるものの、それらは本質的に同一となっています。

このことから、ノウルーズはイランで最も重要な国民的祝祭の1つとされ、全てのイラン人が自らの所属する民族や宗教の面でのこだわりを捨ててほぼ似通った儀式を行い、これを守り続けています。この古式ゆかしい祝祭は、多種多様な人々の団結のシンボルであるとともに、イランにおける国民精神を強化しているのです。

ノウルーズが近づいてくると、イランの人々は一斉に年末の大掃除を実施し、喜びと情熱を胸に春を迎えます。彼らは、年内の最後の火曜日の夜に、戸外で焚き火をし、年内に起こった悲しみや病気などの忌まわしい出来事を、黄色い炎に託します。そして、自然界が一面に緑色に衣替えするのと同様に、イラン人も真新しい衣服を買いそろえ、自宅内に新しい風を入れるのです。

それでは、ここからはイラン国内に住む様々な民族のノウルーズの慣行儀礼についてお話することにいたしましょう。

 

トルコ系民族のノウルーズのしきたり

 

イラン国内のトルコ語を話す人々の間で実施されるノウルーズの儀式は、独自のしきたりと喜びに満ちた雰囲気を伴っています。トルコ系の諸民族は、イラン国内の各都市や複数の州にまたがって暮らしていますが、これらの民族が特に集中しているのは、イラン北西部のアルデビール州、東西アーザルバーイジャーン州、ザンジャーン州などであり、より統一の取れた形で盛大にノウルーズを祝います。

トルコ系民族の間に見られるノウルーズの主な慣行儀礼には、音楽や詩の朗吟などとともに春の到来を知らせるノウルーズ語りとしての人形劇の上演、年内の最後の火曜日の夜に行う焚き火を飛び越える儀式、新婚の花嫁と花婿に贈り物をする習慣、年が切り替わる瞬間に家族全員で、7つの縁起物を飾った食卓の周りに集まることなどがあります。

トルコ系民族の中でも、西アーザルバージャーン地域の人々は、今なおイラン暦の最後の月に当たるエスファンド月を、祝祭の月と呼んでいます。彼らは、古くからの伝統やしきたりに従い、年内の最後の月の第1週を、冬の寒さを逃がす1週間とし、冬の終わりを祝います。

イラン北西部のアーザルバージャーン地方では昔、その年の最後の月の第2水曜日を「短い水曜日」と呼び、第3水曜日を「メッセージをもたらす水曜日」、もしくは「黒い水曜日」などと呼んでいました。

民俗学的な研究からは、イラン暦の最後の月にめぐってくる4回の水曜日は四元素、すなわち水、土、風、そして火のシンボルとされています。この地域の人々も、これらの4回の水曜日の全てを、独自の慣行儀礼により祝います。

 

アルデビール州内のある村落におけるノウルーズ語りの儀式の様子

 

アーザルバーイジャーン地方の多くの家庭の間に今なお残るノウルーズの習慣の中で、最も重要なしきたりの1つに、結婚した娘の実家から、娘の嫁ぎ先に食事が届けられるというものがあります。また、花嫁の母親からも、嫁いだ娘にノウルーズのお祝いがなされ、これは、新婚当初のみならず、娘の両親が生きている間は通年のしきたりとして実施されます。

また、ノウルーズの20日前から、年内最後の水曜日までのある夜には、嫁いだ娘の家族をはじめ、そのおじや兄弟などの親族が食事を作り、衣服や布地などの贈り物とともに、娘の家に届けます。

さらに、東西アーザルバーイジャーン州、およびアルダビール州の各市町村で行われるノウルーズの儀式には、ノウルーズの縁起物が並べられたソフレと呼ばれる食卓、そしてノウルーズ期間中の来客の接待専用の食卓を整えることがあります。来客の接待のための食卓には、干しぶどうやヒヨコマメ、アーモンドや剥きグルミ、ナツメヤシ、イチジク、ザクロ、リンゴ、そしてそれぞれの家庭の手作りによるお菓子が添えられます。

 

 

それではここからは、イランに住むトルコ系民族の1つである、カシュガーイー族の間に見られるノウルーズのしきたりについてお話することにいたしましょう。

カシュガーイー族は、トルコ系の遊牧民族です。彼らは、秋と冬には自らと家畜を寒さから守るため、イラン南部の熱帯地域に一時的に居住し、冬が過ぎ去ると北方の涼しい地域に向かって移動し、春と夏をそこで過ごします。気候条件や牧草地の状況などから、彼らが熱帯地域で過ごすのは4月上旬ごろまでであり、ノウルーズの祝祭もこの地域で実施します。

カシュガーイー族の間では、ノウルーズの祝祭は彼らの言葉でバイラームと呼ばれ、古くから広まっているとともに、彼らにとって最も重要で記憶に残る、喜びの日とされています。ノウルーズには、自然界が一新されることから、カシュガーイー族の人々にとっても、新たな生活の開始という意味合いを持っています。また、ノウルーズは冬の寒い日々が終わりを告げ、遊牧生活にとっての厳しい寒さが過ぎ去っていくというメッセージがもたらされる日となっています。

冬に十分な雨や雪が降った場合、熱帯地域にあるガシュガーイー族の越冬地には、春が早めに訪れ、あたり一面が牧草や、野生のチューリップをはじめとする植物で覆われます。彼らは、こうした状況を花のノウルーズと呼び、それによりさらなる喜びを味わいます。

カシュガーイー族の人々の家畜にとっても、春は自然界からの贈り物がもたらされる季節、新しい命が宿る季節でもあります。彼らの暮らしは家畜の繁殖に大きく左右されているのです。このため、彼らは新しく生まれ変わった自然に感謝し、喜びの中で儀式を実施します。

 

野生の花々の開花にめぐまれたノウルーズ

 

年が切り替わる日の前日には、カシュガーイー族の人々は小麦粉と油、ナツメヤシを使ってハルワーと呼ばれる独自のお菓子を作り、これを年内最後の日に、亡くなった人々への供え物とします。また、近隣にイスラムの預言者の末裔を祭った巡礼地イマームザーデや墓地がある場合には、そうした場所に出向いてコーランの開端の章を唱え、また墓参を行います。

また、カシュガーイー族の人々は、ノウルーズの前夜に通常より豪華な夕食を作ります。ノウルーズの前夜には、全員が自宅にそろっていなければならず、旅行中の場合はなるべくこの時には帰宅しているようにします。それは、年明けの前夜にかまどの火をつけたままにし、豪華な食事を取ることで、新しい年が繁栄したよい年になり、それが続くと考えられているからです。

遊牧民たちはノウルーズの期間中には、色鮮やかな絨毯や各種の敷物により、自分たちの住むテントを美しく装飾します。また、自分たちが飼育しているヒツジの体をカラフルに色づけします。そしてヘンナと呼ばれるミソハギ科の植物の葉を乾燥させて粉末にし、水で溶いたもので子どもたちの手を染め、新しい衣服を身に着けます。

そして、年が切り替わった日の午前には、親戚内から年始回りが始まります。まずは、一族の中の長老とされる人の自宅を訪問し、一族のほぼ全員が一堂に会します。その後は、より近い親族のテントを訪問し、お祝いの言葉を述べて、相手の手に口付けをし、ホスト側の家族による手作りのパンやお菓子、クルミ、乾燥したナツメヤシ、イチジク、干しぶどうなどによる接待を受け、贈答品の交換も行われます。普通、結婚式や結婚の申し込みに関してはノウルーズの際に話し合われ、話がまとまり、春の数ヶ月の間に行われることが多くなっています。

次回もどうぞ、お楽しみに。

 

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