8月 19, 2022 16:30 Asia/Tokyo

イランの広大な大地は、多くの自然や観光名所を有し、エコツーリズムの可能性という点で、世界のトップ5に名を連ねています。このシリーズでは、イランの自然の恵みをご紹介して参りましょう。

イランは、多様な地理や気候、そして四季の存在により、多種多様な動植物が見られます。また、珍しい動植物、美しい景色を堪能する場所として、貴重な自然遺産を有する国に名を連ねています。こうした自然遺産をうまく利用すれば、観光客の誘致につなげることもできるでしょう。中でもイランが誇る動植物の宝庫は、テヘラン東部・セムナーン州のシャールード行政区です。シャールード行政区は、面積が550万ヘクタールで、イランにある野生動物保全区の総面積のうち20%を占めています。

 

シャールード行政区には、自然の中に2つの野生動物保全区が存在します。ひとつは、シャールードの南東に位置するトゥーラーン野生動物保全区です。ここは、イランの生物圏保存地域として、ユネスコのMAB(マブ)・「人間と生物圏計画」の対象地域に指定されています。そしてもうひとつは、シャールードの北東に位置する、ホシュイェイラーグ野生動物保全区です。この保全区は、四季がはっきりしており、杉の木やヒルカニと呼ばれる種類の森林が見られます。環境分野の専門家は、シャールードを小さな大陸のような場所だとしています。この地域にある4000メートル級の山シャーサヴァールの頂上は、冬になるとマイナス50度にまで下がります。反対に、この地域で最も気温の高い場所は、アスブコシャーンと呼ばれる砂漠で、この砂漠の夏の気温は50度にも達します。まさにこの気温差が、この地域に様々な種類の動植物が見られる要因となっているのです。それではまず、トゥーラーン野生動物保全区から、詳しくご紹介してまいりましょう。

 

トゥーラーン野生動物保全区は、およそ150万ヘクタールの面積を誇り、イランで最大、また世界でも、タンザニアのセレンゲティ国立公園に次ぐ第2位の野生動物の生息地とされています。この地域の雄大な自然は、多種多様な動物と数多くの植物と共に、見る者を魅了しており、教育、科学、研究、観光、そして遺伝子学の点から、大きな価値を有しています。トゥーラーン野生動物保全区は、野生動物が生息するための環境という点で、大きな可能性を有しており、野生動物保全区のモデルとされ、動物や自然が最良の形で保護されるための努力が行われています。

 

ハールトゥーラーン保全区は、独自の植物が生育していること、標高差が大きいことなどから、辺り一面に様々な種類の植物が生え、多くの昆虫や動物が見られます。この地域は、イランでも優れた野生動物の生息地として知られ、多額の費用をかけて動物の保護に取り組んでいるため、イランの自然の宝庫となっています。さらに、様々な種類の動物が見られますが、中でも最も重要なものは、ヒョウです。どの国も、国家を象徴する動物を有していますが、イランの場合は、一種のヒョウが、国を代表するとされています。ちなみに、インドではベンガルトラ、中国ではパンダと言われています。ヒョウは、イランの生態系において、重要な役割を果たしています。この種が見られるのは、現在、世界でもイランだけであり、国内でも、トゥーラーンをはじめ、中部のごく限られた地域にのみ生息しています。このため、ヒョウの絶滅を防ぐ目的で、イラン環境保護局の協力により、中部のヤズド州、及び、セムナーン州で、国際的なプロジェクトが実施されています。

 

トゥーラーン野生動物保全区で見られる動物としては、オオカミ、ジャッカル、キツネ、ハイエナ、ヒョウ、カモシカ、羊、ロバなどが挙げられます。ここで見られるロバは、背中が、明るい茶色と黄色っぽい灰色が混ざった色をしており、脇と腹の部分は白くなっています。この動物は、草原や砂漠といった標高の低い場所や平原に生息し、トゥーラーンの保全区のみで見られるものです。寿命は平均40年とされていますが、干ばつや狩猟が原因となり、数が減少しています。この地域では のがん、かささぎ、しゃこ、うずら、ワシ、ハト、セキレイ、すずめといった鳥類も見られます。中でもカラス科の鳥であるかささぎは、珍しい貴重な鳥とされています。かささぎの羽は、赤みのあるクリーム色で、尾の部分は黒っぽい色をしており、空を飛びまわることはそれほど多くありません。イランのかささぎは、ほぼ全国に分布しています。とはいえ、トゥーラーン保全区で、かささぎを目にすることのできる確率は、90%となっています。このため、欧米からも野鳥研究家が、かささぎの調査研究を行おうと、トゥーラーン保全区にやって来ています。

 

またこの他、のがんも、トゥーラーン保全区の重要な鳥です。のがんは、外見が七面鳥に似ており、首から尾の部分にかけて、赤褐色をしています。また、渡り鳥の習性もありますが、遠くまでは行かず、トゥーラーン保全区で産卵してひなをかえし、地域内を移動します。さらにトゥーラーン保全区には、ガルバヌムやセメンシナなどの他、世界でも珍しい植物が数多く生えています。

 

地質学的にも、トゥーラーン保全区は、珍しい気候と地質を有し、淡水・塩水の泉や河川など、各種のエコシステムが存在します。トゥーラーン保全区のあるセムナーン州で最も長い川は、カールシュールと呼ばれています。また、この保全区は、高山地帯、丘陵地帯、平原、砂漠など、多種多様な地理を有するため、他に例のない美しい景色が作り出されています。この地域には、山も砂漠も、そして湿地も存在するのです。

 

●セムナーン州のホシュイェイラーグ野生動物保全区

 

前回は、テヘラン東部・セムナーン州のシャールード行政区と、その周辺の自然をご紹介いたしました。シャールード行政区には、南東部のトゥーラーンと、北東部のホシュイェイラーグという、2つの野生動物保全区があります。前回は、トゥーラーン保全区についてご紹介しました。今夜はもうひとつの保全区、ホシュイェイラーグについて、お話いたしましょう。

 

ホシュイェイラーグ野生動物保全区は、世界的にも知られた場所で、少し前には、イランで最も野生動物の数が多い狩猟天国とされていました。この保全区は、面積が13万5000ヘクタールで、この限られた範囲に様々な気候が存在するため、多種多様な動植物が見られます。植物では、カエデやカシの他、砂漠地帯に生えるアカザ科の低木、また、ヤギ、野呂鹿、カモシカ、ロバといった動物が見られます。ホシュイェイラーグ野生動物保全区は、北部のゴレスターン州と、テヘラン東部にあるセムナーン州にまたがっています。ゴレスターン州は森林地帯が多く、セムナーン州は、標高差の激しい場所やステップ地帯が多くなっています。

 

ホシュイェイラーグ保全区は、ステップ気候、あるいは半ステップ気候に位置し、降雨量も、東部や南東部では200ミリを超える程度ですが、北部や北西部の山岳・森林地帯では、500ミリとなっています。また、多くの山や平原があり、標高の最も低い場所は1200メートル、最も高い場所は2933メートルです。

 

ホシュイェイラーグ野生動物保全区には、各地にあわせて41の天然の泉が存在します。さらに、7つの地下水路・カナートがあり、ここから野生動物の飲料水が確保されています。専門家によれば、この保全区にはおよそ30から34種類の哺乳動物が存在すると報告されています。オオカミ、ジャッカル、キツネ、ハイエナ、ウサギ、ハリネズミ、また、こうもりや爬虫類も、この地区で見られます。さらに、この地区で確認された鳥類は、90種以上にのぼり、その中で最も種類が多かったのが、スズメの仲間に属するものでした。また、最も希少価値の高い鳥はのがん、最も数が多い鳥はシャコです。ハゲタカやオジロワシも、この保全区の代表的な狩猟鳥(しゅりょうちょう)です。さらに、およそ10種類のとかげ、10種類のへび、そして3種類の亀、様々な種類のカエルが報告されています。

 

先ほども触れましたが、平原、小高い丘、高い山、木の生い茂った山など、様々な地形があること、そして広い範囲に多種多様な気候が存在すること、これらは、この地域に様々な種類の植物が生育する要因となっています。ホシュイェイラーグ野生動物保全区には、カスピ海沿岸の植物が見られ、低木や灌木などが散在しています。中でも重要なもののひとつは、「オウラスと呼ばれる杉の一種」です。この植物の原生地は中東の北西部とされ、1ヘクタールごとに50本から100本の木が見られます。この木は主に、標高1500メートルから2500メートルの場所に生えています。この他、ヘビノボラズ、西洋なし、かし、かえで、とねりこ、西洋スモモ、びわ、また、せめんしなやレンゲ属の植物も多く見られます。総じて、ホシュイェイラーグ保全区は、非常に美しい景観を有しており、イランの草原地帯に輝く宝石のような存在です。この保全区にあるザルダーベ平原に霧がかかると、輝く海面のような景色が広がり、見ごたえのあるものとなっています。

 

●セムナーン州・シャフミールザード地区

 

セムナーン州の自然の魅力は、これだけではありません。セムナーンの北24キロのところに、シャフミールザードいう名の地区があります。この地区には他では見られない自然が満ちており、セムナーン州の観光名所のひとつとされています。この地区の特徴は、春夏の心地よい気候です。シャフミールザードの豊かな緑、涼しい気候と山に囲まれた環境、これらが要因となり、この地区には、クルミなど、寒冷地域の植物が生育しています。シャフミールザードは、FAO国連食料農業機関から、イランのクルミの主な産地に指定されています。シャフミールザードのクルミ園の面積は、700万平方メートルに及びます。

 

この他、シャフミールザード地区の自然の見所は、メフディシャフルの峡谷にある洞窟です。この洞窟は、シャフミールザードから南に3キロ行った、メフディシャフルの北にあり、この上からは、緑の豊かな峡谷を望むことができます。洞窟の内部は、高さ1メートル35センチ、幅が2メートル75センチとなっています。入り口からは、長い通路が伸びていて、内部の空間は、楕円形のホールのようになっています。この洞窟は、長さ91メートル、幅は最も広い所で36メートル、高さは最も高いところで20メートルにもなります。メフディシャフルの峡谷の洞窟は、イランの洞窟の中でも美しく見ごたえのある洞窟のひとつとされています。

 

セムナーン州のシャールードから北東に50キロメートル行くと、アブルの森が見えてきます。この森は、シャールードから北部ゴレスターン州のアーザードシャフルに向かうルート上にあり、同じ名前の村の中に位置し、イラン北部の緑豊かな森に続いています。この森林は、一年を通して雲に覆われていることから、雲を表すペルシャ語である「アブル」の森と呼ばれています。この森林の特徴は、標高の高い場所にあり、夏の気温がそれほど上がらないこと、泉が多く見られること、そして、様々な種類の木が茂っていることです。アブルの森は、面積3万5000ヘクタール、氷河期に消滅することなく、中生代ジュラ紀から残されているヒルカニという種類の森林です。ヒルカニという森林は、世界でも希少価値が高く、それほど古い時代からあることが、この森林の価値を高めています。

 

アブルの森は、3つの理由から、世界的な価値を有しています。まずひとつめは、この森の一部が、中生代から残るヒルカニの森であり、希少価値の高い薬草が生えていること。ふたつめは、この森が、半砂漠地帯と森林地帯という、2つの異なる地理の境界に位置していること、このため、針葉樹と広葉樹を同時に見ることができ、このことは、生態系にも影響を及ぼしています。そして3つめの理由は、標高の低い地域と高い地域が並立しているという、その地理的な特徴にあります。このため、この地域には雲の海が形成され、世界でも珍しい景観を生み出しているのです。

 

 


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