8月 17, 2016 14:47 Asia/Tokyo

イラン古典音楽の体系のひとつ、ラーストパンジガー旋法についてお話しすることにしましょう。

ラーストパンジガー旋法は、以前お話したナヴァー旋法と同じく、あまりこれまで演奏されてこなかった体系です。

ラーストパンジガー旋法は、一見すると明るい雰囲気を持つ体系と思われ、一見すると以前お話したマーフール旋法によく似ている印象をもたれます。

ラーストパンジガーという旋法には、マーフール旋法、シュール旋法、ホマーユーン旋法などと共通する曲が含まれているため、この旋法体系の導入部の明るいダルアーマドから、パンジガーやオッシャーグなどの曲に入ると、暗転したり、また元に戻ったりする構造を持っています。

ちなみにラースト、という旋法の名前は、アラブやトルコのイラン以外の中東の音楽でもみられる体系です。とはいえ、これがラーストパンジガー旋法と同じかというと、そうではありません。また、パンジガーという名称はペルシャ語由来で、他の中東諸国の音楽体系としてはあまりみられないようです。とはいえ、アゼルバイジャン共和国に伝えられているラースト旋法は、ラーストパンジガー旋法の序の部分と同様、非常に明るい雰囲気を持ちます、

ラーストパンジガー旋法の序曲、ダルアーマドの音階の構成は、以前の番組でお伝えしたマーフール旋法とおなじです。元ハーバード大学教授のホルモズ・ファルハート氏によりますと、フォルードという、高い音から低い音に移行するフレーズが演奏されない場合、ラーストパンジガー旋法として特定するのは難しいとしています。

序曲から進行し、パンジガーという曲に入ると、音階が別の体系であるシュール旋法の基本的な音階と同じになります。このため、それまでの明るい曲調から、変化します。このパンジガーは、ラーストパンジガー旋法の名前の由来となっています。

また、この体系に含まれるナヒーブやアラークといった曲は、以前お話したマーフール旋法と共通する曲です。さらに、アボルチャップ、タルズ、レイリオマジュヌーンといった曲は、先週お話したホマーユーン旋法と共通の曲です。これらで、特徴的なのは、フォルードという音が低くなっていくフレーズが最後に入っていることで、ラーストパンジガー旋法と認識できる点です。

このように、ラーストパンジガー旋法は、ほかの旋法体系と共通する要素を含んでいるものの、音が下降するフレーズにより、元の明るい雰囲気を取り戻します。イラン古典音楽最大の規範曲ミールザー・アブドッラーのラディーフには、ファラングという曲がありますが、この中でもとの明るい曲調にもどることが指摘されています。

このように、ラーストパンジガー旋法は、複合的な音楽体系といえます。