May 01, 2017 16:35 Asia/Tokyo
  • シュールゲル湿地、ヤーデガールルー湿地、ドルゲサンギー湿地

イラン北西部・西アーザルバーイジャーン州にある湿地は、渡り鳥の主な通過点となっており、このため、世界でも有数の野鳥の生息地となっています。

シュールゲル湿地、ヤーデガールルー湿地、ドルゲサンギー湿地

 

この州にある30の恒常的、あるいは季節的湿地の生態系は、各種の野鳥の生活や自然が織りなす独自のアルバムを生み出しています。今回は、肥沃で緑豊かな西アーザルバーイジャーン州にスポットを当て、この地域の3大湿地であるシュールゲル湿地、ヤーデガールルー湿地、そしてドルゲサンギー湿地についてご紹介することにいたしましょう。

ドルゲサンギー湿地

 

シュールゲル、ヤーデガールルー、ドルゲサンギーの3つの湿地はいずれも、季節的に形成される湿地であり、これらの湿地の総面積はおよそ2500ヘクタールに及びます。これらの3つの湿地を形成しているのは、雨水や地表水、泉や小規模の河川などです。

シュールゲル湿地の水には塩分が含まれており、通常季節的に出現する湿地帯を互いにつないでいます。ヤーデガール湿地は、シュールゲル湿地より小さく、淡水によって冠水しており、多数のアシや水生植物で覆われています。そしてドルゲザンギー湿地は非常に浅く、季節的な降雨の影響を受けやすくなっています。

シュールゲル湿地は、最も深い所でも水深が1メートルしかなく、非常に浅いことから塩分の濃度が高いことで知られています。この湿地は通常、秋と冬に大量の水を吸収します。一方で、シュールゲル湿地よりも小さいヤーデガールルー湿地とドルケサンギー湿地は、いずれも浅い淡水湿地で、これらの湿地の周辺には、鉱物を含む泥炭地が広がっています。

シュールゲル湿地とヤーデガールルー湿地は、カヤツリグサ科の植物やそのほかの雑草で覆われていますが、ドルゲサンギー湿地では水生植物の繁殖は比較的少ないといえます。ドルゲサンギー湿地は沿岸湿地であり、河川の水量の加減から生じる堆積物によってできたもので、通常は河川の流域や河口に形成されます。

ウスユキガモ

 

シュールゲル湿地、ヤデガールルー湿地、そしてドルゲサンギー湿地は、渡り鳥の通過点であることに加え、水鳥などの繁殖地として重視されています。これらの地域に巣をつくる美しい水鳥の一種に、ウスユキガモがいます。この水鳥は、湿地や湖沼、植物が繁茂している沼地などに生息しており、イランでは留鳥、あるいは漂鳥とされています。

ウスユキガモ

 

世界に生息するウスユキガモの個体数全体のうち、3分の1がイランで見られるといわれており、イラン北西部のアーザルバーイジャーン地方は、この種の珍しい鳥類の繁殖地の1つとなっています。

 

 

これらの3つの湿地は、オルミーイェ湖南部の周辺にあります。オルミーイェ湖は、世界で2番目に大きい塩湖ですが、近年は生物群系の変化に遭遇しており、この湖の南側にある湿地もその影響を受けています。これらの3大湿地は、過去には豊かな水量を誇るとともに植物が繁茂しており、多数のフラミンゴやノガン、カオジロオタテガモやウスユキガモが生息、繁殖していました。しかし近年、これらの湿地の状況は大きく変化しています。

ヤーデガールルー湿地

 

そうした大きな環境面での変化として、干ばつや持続不可能な灌漑システムなどが挙げられます。さらに、地表水や運河ではなく地下水を利用することや、多数の井戸の掘削も、これらの3大湿地の生物群系の変化の要因とされています。

また、ラムサール条約において危機にある登録湿地をリストアップする「モントルーレコード」にこれらの3つの湿地が挙がっている理由として、河川の上流水の過剰取水、過剰な放牧、地力以上の過剰な作付け栽培、土地の利用方法の変化などが指摘できます。これらの湿地を再生させ、過去の自然状態に戻すには、これらの湿地帯に踏み込まないこと、水の乱用を阻止する特殊な管理システムを充実させることなどが必要です。

ドルゲサンギー湿地

 

自然環境の専門家の見解では、これらの3つの湿地を復元させる最も適切な方法は、地元社会や環境保護団体にこれらを委ねることとされています。この点において、ドルゲサンギー湿地の復元を目指し、地元の管理運営団体の結成により渡り鳥の生息地の保護を目的とする計画が提出されました。

このプロジェクトで強調されている実施内容には、自然環境に関する教育、湿地の重要性やそれらの保護の必要性に関する地元民の認識を向上させることが挙げられます。民間組織の協力の拡大により、この地域にある合計1500ヘクタールの湿地が、湿地復元プロジェクトの対象にすえられました。

このプロジェクトで行われた活動として、ドルゲサンギー湿地の維持を目的とした、18キロメートルに及ぶ河川の浚渫、湿地への水の再注入、生物の多様性の脅威となる要素の排除などがあります。このプロジェクトの最も重要な目的が野鳥の生息地の保護であることから、長期的な査定評価ができるよう、野鳥の住処のある地点や植物が繁茂する特別な地域については、地図上に正確に印がつけられました。

現在、このプロジェクトが開始されてから10年が経過しましたが、その成果は特に、戦略的なプロジェクトという視点から見て注目に値します。ここ数年におけるこのプロジェクトの成果として、過去に湿地の景観のみならずその生物群系にまで影響を及ぼしていた物的な障害の解消、近年における湿地の水面の高さの維持、地下水源の復元、周辺の山岳地帯にある草地の破壊の阻止、そして最終的に生物の多様性の復活が挙げられ、近隣の地域にもこのプロセスが迅速に広まることが期待されます。