3月 13, 2016 19:15 Asia/Tokyo
  • イランと日本の協力 ~アフガニスタン稲作振興支援プロジェクト~

3月初旬、ラジオ日本語は、イラン北部カスピ海沿岸のアーモルにあるハラーズ農業技術者養成センターを訪れました。

ここでは現在、イランと日本が協力して、アフガニスタン人に稲作の技術を教えています。イランは近年、内戦が続くアフガニスタンの復興を促すため、日本と協力して様々なプロジェクトを実施しています。今回はこの協力のひとつで、イランと日本が共同で行っているアフガニスタン稲作振興支援プロジェクトをご紹介してまいりましょう。


イランの東の隣国アフガニスタンは、30年以上に及ぶ紛争で経済・社会インフラを失い、治安も悪化しています。イランはこうした状況が続くアフガニスタンの復興に力を注いでおり、様々なプロジェクトを実施しています。この復興支援のひとつに、日本との協力があります。この協力は20095月、当時のイランのモッタキー、日本の中曽根両外務大臣が合意した「アフガニスタン支援に関するイランと日本の協力」に基づいて開始されました。

日本のJICA・国際協力機構は、もともとアフガニスタンで様々な支援プロジェクトを実施していました。しかし次第にアフガニスタンの治安が悪化し、専門家や関係者の安全を確保することが難しくなりました。そこで、アフガニスタンの隣国で治安が安定し、また言語や文化が近いイランで、プロジェクトを実施することにしたのです。

JICAテヘラン事務所の江藤美樹代表は、イランでアフガニスタン向けの支援を行う理由として、第一に治安の問題を挙げ、「アフガニスタンはここ数年治安が悪くなってきて、国外で研修を行う必要が出てきた」とし、「イランは言葉や文化の面でもアフガニスタンに近く、アクセスもしやすい」と利点を挙げています。

アフガニスタン支援に関するイランと日本の協力のひとつとして現在行われているのが、稲作振興支援プロジェクトです。

アフガニスタンは、小麦を第一の主要穀物とし、ナンを主食としている一方で、米も第二の主食として消費されています。ところが乾燥した厳しい気候条件にある上、長年の紛争で灌漑などの農業インフラが破壊され、国内で主要穀物の消費需要を満たすことができていません。第二の主要穀物である米も、インドなど周辺国からの輸入に頼っています。このため、穀物の生産量を増加し自給率を上げ、またその品質を向上させるために、他国の技術支援を必要としています。

日本は米を主食とし、最先端の稲作技術を持つ国です。そして同じく米を主食のひとつとするイランは、主に北部のカスピ海沿岸の3つの州、マーザーンダラーン、ギーラーン、ゴレスターンで稲作が盛んに行われています。カスピ海沿岸は温暖湿潤気候で、日本とよく似た湿度の高い気候を有しており、豊富な水を必要とする稲作に適した地域となっています。

稲作の高い技術を持つ日本、カスピ海沿岸で米作りが盛んなイラン。この二つの国が協力して、アフガニスタンの稲作を支援していくことになりました。

2014年、イランの農業省、日本のJICA、そしてアフガニスタンの農業灌漑牧畜省の間で、合意が結ばれました。この合意は、「RIPA(リパ)・アフガニスタン稲作振興支援プロジェクト」と呼ばれ、アフガニスタンのコメ自給率を高めるため、稲作の技術と知識を移転し、普及させようというものです。これまでにアフガニスタンの農業灌漑牧畜省の研究員や普及員196人が、イラン北部カスピ海沿岸にあるハラーズ農業技術者養成センターに派遣され、研修に参加しました。彼らはそこでイラン人と日本人の専門家から得た稲作の知識や技術を持ち帰り、自国に普及させています。

ハラーズセンターのカールギャラーン農業技術部長は、このように述べています。

「ハラーズセンターは1984年からJICAと協力を開始しました。様々なプロジェクトを実施し、プロジェクトが終了した後も、人材育成において協力を続けてきました。その一つが現在行われている稲作研修です。現在イランは、第三国の立場から日本のアフガニスタン向けの稲作研修に協力しています」

研修は1年で3回あり、それぞれの研修期間はおよそ3週間となっています。毎年2月後半に始まる第1研修では田起こし、種もみまき、田植え、第2研修では成長期の栽培管理と作業の分析、第3研修では収穫と収穫後の処理技術を学びます。

先にも述べたように、イランのカスピ海沿岸は日本とよく似た温暖湿潤気候、一方のアフガニスタンは乾燥した気候となっています。気候が異なる地域の稲作の技術がアフガニスタンで通用するのでしょうか。プロジェクトに参加している日本人稲研究専門家の大原克之さんは、米の作り方は基本的にどこでも変わらないとし、「湿度の高い地域よりも乾燥しているアフガニスタンのほうが害虫がつきにくく、病気にもなりにくい。日射量も高いので、技術を普及すれば米の収量も高くなる可能性がある」と述べています。

実際、これまでプロジェクトを実施した結果、アフガニスタンでの米の収量はおよそ二倍に増加したということです。

ハラーズセンターのカールギャラーン農業技術部長によれば、イランは今後、アフガニスタンだけでなく、タジキスタンでも同じような稲作支援を行っていきたいと考えているということです。タジキスタンもアフガニスタン同様、ペルシャ語圏の国であり、イランはこうした「共通の言語」という利点をいかし、地域支援を行っていく上で効果的な役割を果たすことができるでしょう。

イランと日本のアフガニスタン支援は、稲作に限られません。灌漑、税関、保健の分野でも協力が行われています。アフガニスタンの治安の安定は、イランの治安の維持につながります。情勢不安が続く地域において、治安が安定し、経験豊かなイランが高い技術力を持つ日本と協力し、地域の発展のために今後さらに大きな役割を果たしていくことが期待されています。