ことわざ:「愚か者との友情はクマとの友情と同じ」
昔々のこと。一人の逞しい若者が荒野を横切っていたときのことでした。
突然、獣の悲鳴が聞こえてきました。若者が声のする方へと駆け付けると、そこには大きな竜につかまってもがいているクマがいたのです。若者はクマがかわいそうになり、剣を抜いて竜の方へと突進し、一突きで竜を倒してしまいました。
竜の手から逃れたクマは、命の恩人である若者に興味を持ち、その力強い若者が行くところへはどこへでもついていきました。そうするうちに少しずつ、クマの愛情深さと忠実さが若者の心を捉え、こうして若者とクマの間に友情が芽生えていったのです。
そんなある日のこと。若者が山道を通り過ぎていた時のことです。クマもまた、いつものように彼の後に付き従っていました。そこへ一人の男が通りかかり彼らのそばを通り過ぎ、若者とクマという組み合わせに驚いて、若者に尋ねました。
「おやおや、これは驚いた。私は今まで、人間とクマが一緒に歩いているのを見たことがなかったが」
若者は微笑みを浮かべ、クマの横に立つと、クマと知り合ったいきさつを男に話し始めました。男はいきさつを聞くと、若者に向かって、クマとの友情なんてやめたほうがいい、友達になるなら人間とにしなさい、と忠告しました。そして若者の耳元でこうささやきました。
「愚か者との友情は、敵との友情だ」
若者は驚いてその男を見つめ、尋ねました。
「どういう意味ですか?クマと仲良くして何が悪いのですか?あなたは私とクマの友情に嫉妬しているんだ」
通りすがりの男がいくら若者に忠告しても無駄なことでした。彼の言葉に、若者は全く聞く耳を持ちません。若者は通りすがりの男の言葉は、嫉妬からきているに違いないと思い、とうとう怒鳴り声を上げました。
「もう行ってくれ。放っておいてくれないか。私とこの優しいクマとの友情が、あなたに何の関係があるっていうんだ? 頼むから、僕たちの友情に水を差さないでくれ」
通りすがりの男は、若者の石のような心には、それ以上何を言っても無駄なことを知りました。そして、近い将来、若者に災難が降りかかるに違いないと心配しながら、そこを立ち去ったのです。一方、若者と忠実なクマは、その後も行動を共にしていました。彼らの友情は先の男の懸念をよそに、日増しに強くなっていったのです。
そんなある日、若者が森で仕事をしていたときのことです。斧で木を切り倒していた彼は、しばらくすると疲れてしまい、眠気に襲われました。若者は地面に横になると、まぶたを閉じて、心地よく深い眠りへと落ちていきました。若者が気持ちよさそうに眠ってしまったのを見たクマは、彼の頭の方に歩み寄り、そばの切り株に腰かけました。
そのとき、若者の額に一匹のハエが止まりました。クマは何度かハエを追い払いましたが、ハエはしつこく、また若者の額に止まります。クマはハエに腹を立て、心の中で言いました。「なんてしつこいハエだ!私の友人を苦しめる気か? お前がそのつもりなら、よし!思い切り殴って、一生飛べないようにしてやる!」
愚かなクマは、立ち上がって、大きな石を持ってきました。ハエがまたしても若者の額に止まっているのを確かめたクマは、その大きな石を、思い切りハエめがけて打ち降ろしたのです。かわいそうに、若者は一声も発することなく死んでしまいました。
そう、それ以来、このことわざが広まるようになりました。
「愚か者との友情は、クマとの友情と同じ」