May 08, 2018 20:45 Asia/Tokyo
  • ISISの女性
    ISISの女性

今回は、西側諸国の女性に見られる、テロ組織ISISへの加入の傾向についてお話することにいたしましょう。

 

イギリス・ロンドンのシンクタンク・国際戦略研究所は2015年、ある研究調査をもとに次のような結果を発表しました。それは、ISISに勧誘された女性の数は550人にのぼり、彼女たちの多くが西側諸国の国籍を有しているということです。2015年にフランス・パリで起きた人質事件の実行犯、アメディ・クリバリ容疑者の妻ハヤト・ブメディエンヌ容疑者に始まり、欧米諸国から中東に渡航した西側諸国の女性は、数十人から数百人にもおよび、彼女たちは様々な理由でISISに勧誘されていました。

現代におけるこのような傾向から、多くの政治家や社会学者の間では、西洋式の教育を受け、西洋の文化圏に育った少女たちが、イスラム恐怖症が浸透している西側社会において、一体何故、そしてどのようにしてISISに勧誘され、家族に背を向けて見知らぬ国へと向かうことになるのか、そしてこれらの女性たちがどのような報償を約束されて、ISISに加入するのか、という疑問が提起されています。

 

ハヤト・ブメディエンヌ容疑者

 

ISISは、タクフィール派の思想を基盤とする過激派テロ組織であり、この数年間にイラクとシリアにおいて、数々の残忍な犯罪に手を染めてきました。この組織は、イラクとシリアの政府に対する戦争を開始しました。しかし、最終的にイラクとシリアではISISは掃討され、この組織は、完全に崩壊しつつあります。

地域的、国際的な報告からは、ISISが人材不足を補うために、女性も起用していることがわかっています。現在、ISISのメンバー全体のおよそ3分の1を女性が占めており、テロ活動への参加を目的に軍事訓練を受けています。昨年4月27日付けのイギリス・ロンドン発行のアラビア語の新聞シャルクルアウサトでは、次のように記されています。

「ISISのメンバー全体に占める女性の割合は、55%にのぼり、注目すべきなのは、彼女たちの多くが西側諸国から参加しているということだ」

 

ユーロポール・欧州警察機構の情報によれば、ISISに加入しているヨーロッパ人女性の40%以上がオランダから、そして20%はドイツとフィンランドから来ています。この報告はまた、ISISの女性メンバーの3分の1がフランス人であり、しかもISISに加入したヨーロッパ人女性の数が激増している、としました。

警察は、武装組織に加入しようとしていたこれらの多数の女性を特定し、取り調べた結果、彼女たちが特にフランスをはじめとする全世界で、爆弾テロ事件を実施する完全な用意がある事を明らかにしました。逮捕・拘束されたこれらの女性の中には、16歳以下の未成年の女子も多く見られます。

 

ISISに加入したヨーロッパ人の女子、サムレ・キャスィノビッチ(16)と、サビナ・サリモビッチ(15)

 

ヨーロッパ人女性がISISに加わるという傾向を見せていることから、世界の多くの人々は次のような疑問を抱いています。それは、これらの女性たちがなぜ、どのような理由で、女性を侮辱する過激で狂信的な組織に自発的に加わっているのか、また、心優しく家庭の基盤を守る一家の母親が、本当にISISに加入できるのか、さらに、ISISに加わるヨーロッパ人女性たちは何を求めているのか、平等で民主的な法律の恩恵にあずかっていた女性たちが、どのようなルートで女性を抑圧する組織に加わるのか、ということです。

イランの女性問題の研究者であるアーホンダーン博士は、次のように語っています。

「アイデンティティの喪失、虚無感、女性としての役割が薄れていることは、女性を過激派組織へとひきつける原因になると思われる。女性は、女性として恥ずかしくないよう、また自らの進歩や成功に、男性的な行動や男性として役割の履行の必要がなくなるよう教育されれば、決して安易に誤った思想に屈することはないはずである」

「女性は、その存在や、イスラムの原則的な教えでも特に強調されている、妻や母親としての女性の役割を価値あるものと見なす事で、個人的、社会的、家庭的な生活に満足感を持つようになり、決して容易に過激な思想に走らず、人格を確固たるものにするために、過激派組織に加入し、人として許されない行動にいたる必要はなくなるはずである」

 

専門家の見解では、女性がISISに加わる背景には、複数の理由があるとされており、これについてドイツのある心理学者は、次のように述べています。

「ISISにおける女性の勧誘は、彼らのロマンチックな空想の産物であり、それは前例のないロマンチックな人生を追求することが目的である」

イギリス王立統合軍防衛研究所の上級研究員で、過激派に詳しいラファエロ・パンツッチ氏は、影響力ある存在になれるとの妄想を抱く女性が、タクフィール派のテロ組織に加わる目的について、次のように述べています。

「彼女たちは、自分を社会運動家の一人と見なしており、こうした組織に自己献身し、実際にそうした組織の目的や理想を信じている」

 

ある研究者は、12人の女性の証言や生活に関する調査を行いました。これらの女性たちの国籍の内訳はイギリスが6人、オランダが2人、カナダが1人、オーストリアが2人となっています。この研究者はまた、これらの女性たちの動機が、ヨーロッパ諸国からISISに加わった2500人の男性たちの動機と違いがない、という結論を得ています。さらに、ISISの思想の被害者全員が持っていた動機のうち、最も重要なものは、身の安全や保護、そしてアイデンティティの獲得に向けて努力する事だった、としています。

残念ながら、西側諸国には系統だった人類科学が存在しないため、西側世界では女性の人格も哲学と同様に紆余曲折を経ており、西洋社会はこれまで、女性の本当の地位を取り戻せないままとなっています。西洋社会は、社会サービスや 多くの商品を人々に供給できているにもかかわらず、イスラム教徒やそれ以外の人々を含めた自国民の生活に、意味を与えることができていないのです。

ヨーロッパのイスラム教徒の若者世代は、イギリス・マンチェスターやフランスのマルセイユ、スウェーデンのマルメといった都市での、比較的楽だった暮らしを捨て、イラクやシリアでの戦闘に参加しています。それは、ヨーロッパには生死に関わる価値観が欠如しているからであり、こうしたアイデンティティの喪失により多くの若者がISISに加わっているのが現実なのです。

 

 

アメリカの週刊誌ニューズウィークにおいて、アメリカ人の専門家のリチャードソン氏は、次のように述べています。

「私はこれまで多大な時間をかけて、ISISを支持する英語圏のヨーロッパ人女性のSNSでの活動を調査してきた。その結果、女性たちの多くが自発的にISISに加入したことを知った。それは、彼女たちが暮らしている世俗的でリベラルな民主主義とは逆に、ISISは彼らの倫理面や政治的な信条を反映しているからである。彼らは、様々な理由から西側諸国での生活を希望しておらず、また西側世界の自由やフェミニズムを好んでいないのである」

注目すべき点は、これらの若者たちが西洋社会においてアイデンティティを見失っている一方で、彼らの多くが宗教信仰に対し歪曲した捉え方に陥っていることです。

アメリカの外交専門誌フォーリンポリシーは最近、報告の中でヨーロッパ人の少女たちの一部がISISに傾倒する原因について、次のように報じています。

「ISISへの加入の理由に注目すると、イランのような国による啓蒙活動がこれらの人々を、ISISとは逆にすべての面において正当なイスラムへと促すことができることがわかる。もし、イスラムに関するこれらの少女たちの知識が十分なものであったなら、または、彼女たちをイスラムやイスラム教徒から遠ざけていなかったなら、彼女たちはより開かれた視点から現実的に考え、イスラムとタクフィール派の思想の違いに気づき、一方的にテロリストに引かれることはなかったはずである」

女性がISISの占領地に渡り、それに加わりたいと考えていることは、これらの女性たちの祖国の将来に対する重大な警告となりえます。それは、次の世代に対する教育に女性が重要な役割を握っていることから、この現象が広がることで、次世代に過激派思想が広がることになるからです。このため、こうした危険にさらされている国は、過激派組織が女性を勧誘し、派遣するのを阻止する上で、本格的な措置を講じる必要があります。

次回もどうぞ、お楽しみに。

タグ