ことわざ : 「ラクダに蹄鉄を打ちたかったのに、カエルが足を上げた」
昔々のある日のこと。大勢の人だかりができていました。
そこを通りかかった人が、そのたびに何事かと寄って来たため、群集はどんどん膨れ上がっていきました。どうやら、ラクダ追いが、自分のラクダに蹄鉄を打とうとしているようでした。ラクダ追いの言い分はこうでした。
「このラクダで人々のために荷物を運び、それで稼いだ金で生活する。歩きすぎてラクダが足を痛めないように、ラクダの足に蹄鉄を打つことに決めた。そうすれば何も心配することはない」
すると見物していた一人が言いました。
「ラクダは馬やロバとは違うんだ。ラクダの足に蹄鉄を打つなんて!」
別の男が言いました。
「そうだ。ラクダの足に蹄鉄を打つなんて、これまで聞いたことがないぞ」
すると、また別の男がこう言いました。
「いや、そんなことはないだろう。ラクダにだって、馬やロバと同じようにひづめがある。蹄鉄がなければ、足を痛めるよ」
今度はこんな声が聞こえてきました。
「ラクダのひづめは柔らかいんだ。馬やロバのひづめとは違うよ。痛くない頭に包帯を巻くようなものだ。ラクダは蹄鉄なんてなくても荷物を運べるんだから、そんなもの付ける必要はあるまい」
こうして誰もが口々に言いたいことを言っていました。しかし第一の問題は、ラクダが足に釘を打たれ、蹄鉄をはめられるのを嫌がっていることでした。ラクダは、誰にも足を持ち上げさせるものか、と言わんばかりに大きな体で地面に足を踏ん張っていました。そこへ、この辺りに住んでいるカエルが、人々の騒ぎを聞きつけて顔を出しました。そして、人々の足の間を縫って、ラクダの足元までやって来たのです。しばらく、人々の話に耳を傾けていたカエルでしたが、突然、ピョンと高く飛び跳ねると、ラクダのこぶの上にちょこんと座りました。
人々は突然現れたカエルを見て、一瞬呆気にとられ、そして笑い出しました。カエルは言いました。
「気の毒に、このラクダは蹄鉄をはめるのは痛いものだと思い込んでいる。それで足を地面から離そうとしないんだ。それなら僕が足を上げようじゃないか。試しに僕の足に蹄鉄をはめたらいい。そうすればラクダも、それが痛いものじゃないって分かるだろう」
それを聞いた人々は、カエルのおろかさに笑い転げました。自分も笑いものにされたことを知ったラクダは、カエルをこぶの上から振り落としました。そして、これ以上笑い物になるのはたくさんだとばかりに、一跳ねすると後も見ずにその場から逃げ出してしまいました。
このときから、知識や経験のある人が拒んでいるのに、物を知らない人間が、その大変さを知らずに簡単に引き受けてしまうことを、こんな風に言うようになりました。
「ラクダに蹄鉄を打ちたかったのに、カエルが足を上げた」