7月 02, 2018 22:31 Asia/Tokyo
  • 預言者ムーサーとフィルアウンの物語
    預言者ムーサーとフィルアウンの物語

今回は預言者ムーサーとフィルアウンの物語をお届けしましょう。

イスラエルの民の偉大なる預言者、ムーサーの真実の物語は、コーランの複数の箇所で、興味深く驚くべき形で述べられています。この物語は何よりも、全てのことを知る、英知ある神の力と意志を示すものです。

 

エジプトの暴君フィルアウンは、宮殿のテラスを歩きながら、大きな声を上げていました。

 

「学者と夢占い師たちをここに連れてくるのだ」

 

 数人がすぐさま、フィルアウンのもとにやって来ました。そして彼の前にひざまずき、頭を垂れました。

 

「王様よ、何なりとお申し付けください」 

 

フィルアウンは言いました。

 

「夢の中で、ベイトルモガッダスの町が炎に包まれるのを見た。その炎はエジプト全体に広がり、その炎の中で、我々の仲間たちは皆、燃え尽きてしまった。だが、イスラエルの民には何の被害もなかった。いったい、この夢は何を意味するのだろうか?」

 

 

夢占い師たちは顔を見合わせながら、恐ろしさに声も出なくなりました。フィルアウンは尋ねました。

 

「一体どうしたのだ?なぜ何も言わないのだ?」

 

占い師たちは言いました。

 

「その夢の意味をお話しましょう。もうすぐ、イスラエルの民の間に男の子が生まれます。その子は、あなたの王座を消滅させるでしょう」

 

 フィルアウンは傷を負った蛇のように怒り狂って歩き回り、言いました。

 

「男の子が生まれたら、一人たりとも生かしておいてはならない。イスラエルの民の女性たちを監視するのだ。彼女たちに男の子が生まれたら、その子を殺すのだ。娘であれば、殺す必要はない」

 

イスラエルの民の間には、深い悲しみが広がっていました。男の子が生まれると、すぐに容赦なく殺されてしまうという圧制がはびこっていたのです。その頃、町の中心から離れた場所で家族が集まっていました。ムーサーの母親は子供を胸に抱きながら、その子の誕生が誰にも知られないように、彼女が妊娠していることを知らなかった人たちにさえ、知られないようにと神に祈りました。彼女の娘は心配そうに言いました。

 

「フィルアウンの役人たちが、一軒ずつ家々を回り、男の子を見つけたら殺しているそうです。ムーサーをどうしたらよいでしょう?」 

 

預言者ムーサーとフィルアウンの物語

 

母親は、不安な様子を全く見せずに、落ち着いて娘の方を向いて、言いました。

 

「いい考えがあります。彼を木の箱の中に入れ、神の力を信じて、それをナイル川に流すのです」

 

 娘は言いました。

 

「でも、彼は水の中で溺れてしまうかもしれません」

 

 母は言いました。

 

「あなたは箱を追いかけ、彼がどこにたどり着くのかを見届けるのです」

 

心地よい風が吹き、アースィーヤは夫のフィルアウンと共に王座に腰をかけ、水の流れを眺めていました。するとそのとき、何かが水に浮かんでいるのが見えました。アースィーヤは言いました。

 

「水に浮かんでいるあの箱を見てください。どうやら何かが入っているようです」

 

 フィルアウンは役人たちに近くに来るように合図しました。そして彼の命令で、その箱がフィルアウンと妻のもとに運ばれて来ました。アースィーヤがその箱を開けると、彼女の表情は喜びに溢れました。

 

「何て美しい子供でしょう。この子はなぜ、こんなところにいるのでしょう?」

 

 フィルアウンはすぐに言いました。

 

「ひょっとしたらこの子は、あの占い師たちがもうすぐ生まれ、私を消滅させると言っていた、イスラエルの民の子ではないだろうか」

 

アースィーヤは懇願しながら言いました。

 

「でも、この子は私とあなたの喜びの源です。この子を殺さないでください。きっと私たちに利益を与えてくれるでしょう。さあ、この子を養子にしましょう」

 

その子供のかわいさに魅かれていたフィルアウンは、妻の要求に応じ、それを受け入れることにしました。

 

その子はフィルアウンの妻の胸の中でばたばたと暴れていました。おなかがすいているようでしたが、女性たちの誰の母乳も受けつけません。そのとき、離れた場所から状況をうかがっていたムーサーの姉が、アースィーヤのそばにやって来て言いました。

 

「もしよければ、この子を預かり、大切に育ててくれるような家族を紹介しましょうか? 私の母は、最近、子供を失ったばかりで、大量の母乳がでます」 

 

アースィーヤは、それ以上、子供の泣き声を聞くのに耐えられなかったため、言いました。

 

「すぐに彼女をここに連れてきなさい」

 

こうして、ムーサーの実の母親は宮殿にやって来ました。彼女は道の途中で、神はどのように、その英知を働かせるのかと考えていました。母親は、宮殿に入るや否や、フィルアウンに殺されるのを恐れてナイル川に流した息子に再会し、目に喜びの光をたたえ、神に感謝しました。そしてその子もまた、母親の匂いをかぎつけたかのように、その胸の中でおとなしくなり、母乳を飲み始めました。

 

聖典コーランは、第28章アル・ゲサス章物語り、第13節で次のように語っています。

 

「そこで我々は彼を母親のもとに返し、その女性が喜び、悲しまないようにした。覚えておくがよい。神の約束は真理である。だが彼らの多くは知らないのだ」

 

ムーサーは、母親の愛情に満たされながら、神の意志により、フィルアウンの宮殿で、彼によって育てられました。そして、その目で、フィルアウンが行っていた圧制や不公正を目のあたりにしながら育ったのです。(了)

 

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