怠け者の男とトゲだらけの木
昔々のこと。あるところに怠け者の男が住んでいました。
昔々のこと。あるところに怠け者の男が住んでいました。
この男は、今日の仕事は明日、明日の仕事はあさってという具合に、いつもやるべきことを先送りにしていました。男の怠け癖は並大抵のものではなく、簡単に済ませられる些細な仕事を先送りにしては、いつも自分にこう言い訳していました。
「今でなくとも時間はたっぷりある。後でやればいいさ!」
ところで、この男の家の傍らには、とげだらけの低木が生えていました。この低木はきれいな花をつけるわけでもなければ、何かが実ることもなく、特徴といえば、たくさんのとげがあって近づく人を傷つけることだけでした。この低木は、人々が往来する場所に生えていたので、毎日、そこを通る多くの人が、この低木に悩まされていました。着ている服をひっかけて破ってしまうこともありました。通行人は毎日、怠け者の男に、この役に立たない低木を抜き捨ててしまうよう忠告していましたが、男はそのたびに、こう答えていました。
「わかりました。明日には必ず、根元から引っこ抜いて、処分するようにいたします」
しかし次の日も、低木はそこに生えたままでした。人々は絶えず、男への忠告を繰り返し、男もまたその度に「明日には引っこ抜きますから」と約束していたのです。
こうして季節が過ぎてゆき、この低木は枝を伸ばし、葉を茂らせ、しっかりと根付いて、さらに固いとげが増えていきました。そして怠け者の男も、ますます怠け者になっていました。そうするうちに、低木はもはや切り倒すにも、根元から引き抜くにも相当の力がいるほどに大きくなり、この男の力の及ばぬところとなりました。
とうとう人々は男に言いました。
「とげのある木を早く始末しなければ、君を訴えるぞ」
そして実際、人々は町の為政者に彼のことを訴えました。為政者は男を呼び出し、問い正しました。
「お前の怠けぶりは町中に知れ渡っている。なぜ人々に迷惑をかけるようなことをするのだ?毎日、服が破れたり、手足に傷を作ったりする人が後を絶たないのをお前も見ているだろう?なぜ、人々の抗議の声に耳を傾けず、あの木を放置しているのだ?」
怠け者の男は答えました。
「私は皆さんに申し上げましたよ。出来るだけ早く、木をどかしますからと」
為政者は言いました。
「いや、お前は随分と前からこのことを頼まれてきたのに、いつも、明日、明日と先送りにしてきたというではないか。それがあまりに長いこと続いたために、かぼそく小さかった低木が、逞しい背の高い木に育ってしまった、との訴えなのだ」
怠け者の男は言いました。
「わかりました。もう同じことは繰り返しません。明日には、あの木を切ってしまいましょう」
それを聞いた為政者はあきれ果てて言いました。
「もういい加減に、怠け癖を直したらどうだ? なぜ明日なのだ?今日のうちにそれを済ませて、人々を安心させたらよいではないか。お前にひとつ忠告しよう。人生の全てにおいて、今日の仕事を明日に先送りにするのはもう止めたまえ。いいか?どんなに些細なことでも、またどんなに大きな問題であろうと、やるべきことを後回しにしてはいけない。さあ、今すぐに、とげのある木を切り倒してこい!」
怠け者の男を訴えるために為政者の許にやってきていた人々は笑いをこらえることができませんでした。ひとりが言いました。
「誓ってもいい。この男の怠け癖は絶対に直らないし、彼が一人であの木を切り倒せるわけがない。我々がみんなで協力したらどうだろう。そしてあの木の根っこを燃やしてしてしまえば、もう安心だ」
怠け者の男はこの言葉に大いに腹を立てました。
「何と言う事だ!私のことをそんな風に考えていたとは。それなら、今すぐに自分ひとりであの木を切り倒してやる!」
怠け者の男はそう言うと、家にとって返し、斧を持ち出すと、とげのある木に向かって勢いよく振りおろしました。しかし、樹の幹はまるで鋼のように固く、何度斧を打ち付けてもなかなか歯が立ちません。怠け者の男の額からは汗が吹き出てきました。男はさらに長い時間をかけて、幹に斧をふるって、ようやくその木を切り倒すことができたのです。
次は、それよりさらに難しい、根っこを引き抜く作業です。男の必死な姿を見るに見かねた近所の人々が、手に手にスコップや鍬を持って手伝いにやって来ました。彼らは言いました。
「あなたは随分とお疲れのようだ。根っこの方は私たちに任せなさい」
こうして近所の人々が力を合わせ、根っこを引き抜いて燃やすことができました。その後、この地区の人々は、安心してこの場所を通行できるようになったということです。