9月 13, 2018 18:25 Asia/Tokyo

ランと日本の国交樹立90周年を前に、日本のイスラム学者、井筒俊彦氏の人生や作品、思想を紹介するドキュメンタリー映画「シャルギー・東洋人」が、東京とテヘランで初公開されました。

この映画は、マスウード・ターへリー監督の作品で、今年の春に完成されました。この時間は、この映画と井筒俊彦氏についてお話ししましょう。

 

井筒俊彦氏は、1914年に東京で生まれ、1993年1月に鎌倉で亡くなりました。井筒氏は、言語学者、コーラン研究者、イスラム学者、哲学者として知られ、文学や哲学に関する多くの作品や研究を残しました。

 

井筒氏は、27歳のときにアラブ思想史という書籍を記し、その後、新プラトン主義とギリシャ哲学を支えにした哲学と神秘主義哲学に関する書籍を記しました。井筒氏はコーランにも多くの関心を持っていたため、コーランを日本語に翻訳しました。この作品は1951年から58年にまとめられました。

 

井筒氏は、初めは2年間、その後は6ヶ月に一度、イランに滞在しました。その後、イランへの興味が高まったため、慶応大学とマックギル大学での職を辞し、1975年から79年にイラン王立哲学アカデミーの教授を務めました。

井筒俊彦

 

井筒氏は、自身も語っているように、それまでは英語による著書が多かったものの、1979年に日本に帰国した後は、日本の社会にイスラム文化と自身の哲学的な思想を伝えるため、日本語による本を多く執筆しました。「イスラーム生誕」や「イスラーム文化―その根柢にあるもの」では、イスラムの思想を紹介しようと努めました。

 

井筒氏は、30以上の言語を習得し、アジア、イランをはじめとする中東、インド、ヨーロッパ、北アメリカで数々の研究を行いました。

 

井筒氏が東洋の哲学や神秘主義哲学に精通していたのは、彼が、多くの言語に精通していたため、古い文書を原文で理解することが可能だったことに起因します。井筒氏は、一通りのアラビア語を学んだ後、たった1ヶ月でコーランを原文で読むことができました。

 

井筒氏は、コーランを日本語に訳しただけでなく、コーランの教えの基本的な構造について説明する2冊の本を記しました。

 

井筒俊彦氏の研究や生涯に関するドキュメンタリー映画「シャルギー」の初上映式典は、8月にテヘランで開催されました。この式典では、まず映画が上映され、その後で映画研究者のアクバル・アーラミー氏、映画「シャルギー」のターヘリー監督が講演を行いました。

 

アクバルアーラミー氏は、このように語りました。

 

「ドキュメンタリー映画は思想家のためのものであって、映画を単なる娯楽として捉える人々に向けたものではない。映画の原則の一つは魅力であるが、この映画はそのような種類のものではなく、思想のためのものだ。シャルギーは、研究素材に溢れた映画であり、私たちは皆、この映画の前に頭を垂れずにはいられない」

 

この後、「シャルギー」を監督したターヘリー氏は、次のように語りました。

 

「この映画を製作しようとひらめいたのは20年前、大学の授業の中でだった。その後、その思いがしだいに強くなった。井筒氏は、イランを外から、中立な立場で見つめた研究者のひとりだった」

 

ターヘリー監督は、この映画の制作に4年の歳月をかけ、そのために移動した距離は14万3000キロにのぼります。この映画はペルシャ語版、英語版、日本語版が用意されています。

 

ドキュメンタリー映画「シャルギー」では、世界中の60人以上の研究者が、井筒俊彦氏の生活、研究、著書などについて語っています。その中には、井筒俊彦研究者のバフマン・ザキープール氏、井筒氏と家族ぐるみでつきあいのあったヌーシュアーファリーン・アンサーリー氏、西洋哲学研究者のキャリーム・モジュタヘディ氏、コーラン研究者のアフマド・パーキャトチー氏などがいます。

 

映画「シャルギー」は、イランをはじめ、日本、フランス、スイス、イタリア、トルコ、カナダ、アメリカ、シリア、スペイン、中国など、13カ国で撮影が行われました。すべてのインタビューは、相手の母国語で行われたため、使われている言語は12ヶ国語にのぼります。この映画は、これまでにイラン、日本、カナダで公開されました。

イランでの上映式典

 

井筒俊彦氏のドキュメンタリー映画「シャルギー」のターヘリー監督は次のように語りました。

 

「この映画を製作するにあたっては2つの道しか残されていなかった。映画という側面だけを考えて、井筒氏に関して美しい語りを提供するか、それとも、問題の本質を非常にシンプルに伝え、この偉大な哲学者に対する個人的な思いをまったく盛り込まない、という選択肢だった。決断は非常に難しかったが、結局、2つめの道を選ぶことにした」

 

ターヘリー監督はさらに次のように続けています。

 

「この映画では、自分も、そして映画の構造にも、無意味な政治的、宗教的な問題は一切含まれないようにした。この映画では、さまざまな立場の方々に話を聞いている。また、映画の制作を通して、さまざまな考え方や宗教を持つすべてのイラン人の助けを借りることができた」

 

ドキュメンタリー映画「シャルギー」は、一人の優れた日本人イスラム学者、言語学者の生涯を物語っており、これらの出来事によって、この人物の哲学が形作られました。そしてそれが、世界の人々や思想の世界に紹介されています。

 

井筒氏は、神秘主義、哲学、イスラムや仏教などの東洋の教えに注目し、それらが最終的に集大成となって、東洋哲学として紹介されています。映画「シャルギー」の大部分は、この哲学の基盤の形成について物語ったものになっています。

 

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