ハージェアブドッラー・アンサーリー(3)
今回も前回に引き続き、イランが誇る11世紀の神秘主義者で、コーラン解釈者、伝承学者、文学者でもあったハージェアブドッラー・アンサーリーについてお話しましょう。
前回お話しました通り、ハージェアブドッラー・アンサーリーは1005年、イラン北東部の町トゥースにてこの世に生を受けました。また、彼がこの地方を起源とするホラーサーン派の神秘主義に対し、最も重要な貢献として神秘主義者の階級位を新たに編成しなおしたことについても説明しました。アンサーリーによる神秘主義者の階級付けには、修行者の道徳面や生活習慣も加味されており、神秘主義的な修行を行う人が、実生活とのつながりを維持した上で、精神性を保ち、修行の方法に宗教的な戒律を伴わせることが求められています。さらに、アンサーリーがペルシャ語の1種であるダリー語による押韻を生み出した初の人物であることにも触れました。
ペルシャ文学史においては、多くの作品がアンサーリーの作品として挙げられていますが、そのうちの一部はアンサーリーに関係のある作品であり、作品の特徴や執筆形式を研究すると、実際のアンサーリーの作品とは区別されます。
『祈祷の書』について
現在残っているアンサーリーの全ての作品のうち、より知名度が高く人気があるのは『祈祷の書』です。アンサーリーによる祈祷文は非常に人気があり、多くのイラン人は熱情のあふれるこの祈祷文の作者が誰なのかも知らないままに、その一部を記憶しており、自分が神に祈る際にアンサーリーの祈祷文を引用している例がよく見られます。
“他に何一つ並ぶものなき、全知全能の唯一なる神よ、あなたは完全無欠で無謬なるお方、また、全ての癒しの源であり、人類の心の希望の光であられる。さらに、この上ない慈しみの輝きの極致にあり、時間と空間のいずれも必要とされない。しかも、あなたは誰にも似ておらず、また誰もあなたには似ていない。明らかに、あなたは命の中にあり、まさに生きている命であられる。おお、神よ。あなたとともにある日々は何と美しきものか。あなたにまみえることを望む人の取引は美しきかな。あなたを探し求める人の言葉のやりとりは素晴らしきかな。あなたと関わりを持つ人の日々は何と偉大なるものか”
アンサリーの『祈祷の書』は、神への呼びかけで始まることから、『神への呼びかけの書』としても知られており、ペルシャ語による神秘主義文学の著作となっています。この作品はまた、アンサーリーの神秘主義哲学的な祈祷や訓話の一部でもあり、多数の手書きの写本が現在も残っています。そのうち、最も重要なものはトルコのアヤソフィア図書館に収蔵されており、1451年にナスフ体という書体により手書きで筆録されたものです。『祈祷の書』は、これまでに何度もペルシャ語で出版され、英語にも翻訳、出版されています。
『祈祷の書』、あるいは『神への呼びかけの書』は、イランの神秘主義文学の中でも最も古く重要なものとされています。この作品においては、祈祷のほか、恋に落ちた人の人間的、神秘主義的で、情感にあふれた話などが、韻律や押韻のある散文形式で書かれています。このため、この作品も神秘主義や文学の点で非常に価値あるものといえます。アンサーリーは、神秘主義的な深い意味概念を押韻のある散文形式で執筆した初の作家であり、この作品に見られる彼の作風は、格言的で詩文に近いものとなっています。アンサーリーは、祈祷に関する作品において最も多く押韻を取り入れており、(次の一文省略)これらの祈祷書においては響きのよい音韻と、神秘主義的、宗教的に奥深い意味概念が混ざり合っています。
アンサーリーの作風の特徴
アンサーリーが、自らの祈祷書の多くにおいて、読者に訴えかける効果の大きさを理由に採用した方法は、卓越した点の1つであり、実際に彼の作風の特徴とされています。彼はまず、意味概念を平易で流暢な散文形式により、しかも決まった韻律のある形で表現しており、その次に意味内容を心に染みる詩文の形式で表現し、ある意味で強調しています。彼は、言葉同士の間に切れ目が生じないようにした他、技術的、意味的な関係の維持に言葉の心に染みる美しさを高めています。アンサーリーのこうした作風は、その後の神秘主義文学者にも非常に大きな影響を与えました。
アンサーリーの記した『神への呼びかけの書』は、その文学的な側面もさることながら、神秘主義的な意味概念を表現するための手段としても重要であり、注目に値します。これについて、アンサーリーの作品の修正に当たったモウラーイー博士は、次のように述べています。
「神秘主義者の格言においては、最もよく知られた古い方法により、押韻が使われている。これらの格言の多くは、押韻されているとともに、間接敵に暗示する形で表現されている。神秘主義的な事柄を直接的に示さず暗示する上で最もよい方法の1つは、押韻の中で短文を用い、意味を凝縮することである。このため、神秘主義者は自らの教えや経験、思想を語るために、この方法をうまく活用している」
『神への呼びかけの書』は、確かに神秘主義的な内容の作品ですが、これは神秘主義の分野の研究者の見解のみならず、教育的、哲学的な視点から見ても注目に値します。アンサーリーの作品の研究者や修正者は、彼の格言に含まれる内容を神秘主義的、哲学的、教育的な内容の3つに分けています。
『祈祷の書』は、アンサーリーの様々な作品を精選したものであることから、その神秘主義的な論点も多岐にわたっており、全体的には神秘主義の原理や行動様式のあり方、宗教的で禁欲的な掟や戒律が含まれています。
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