現代世界の自然環境における水の重要性
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水
今回は、現代世界の自然環境を構成する最も重要な要素の1つとしての、水の重要性について考えることにいたしましょう。
地球は宇宙空間から眺めた場合、豊かな水をたたえた青い惑星の一つに見えます。地球全体に存在する水の総量は、およそ13億6000万立方キロメートルと推測され、地球の表面積全体のおよそ71%が水に覆われています。このうち、およそ97.5%を海洋や塩水湖が占めており、残りのわずか2.5%が淡水となっています。このため、水資源が限られていることに注目すると、水は生物に必要な要素のうち、空気に次いで重要であると言えます。
水は、人間の健康や生活、そして人口の増減において色々な形で役割を果たしています。この重要な資源は、経済、社会、政治の分野での発展を遂げる上で、世界の国々や人々に貢献しているのです。国連のパン事務総長は、2015年6月上旬にタジキスタンの首都ドゥシャンベで開催された、「命のための水・国際行動の10年」計画・国際ハイレベル会合の開会式において、人間の生活における水の重要性を明白に説明し、次のように述べています。
「水は生命であり、健康であるとともに、人間としての尊厳や威信、そして人権でもある。私たちの存在にとって、水より重要なものは他に存在しない」
実際、水は地球上の生物が存続する上で欠かせない要素の1つです。国連の発表によりますと、人間1人当たり、飲料や調理、清掃などに使用する上で1日に20リットルから50リットルの清潔な水を必要としています。しかし、現在の世界では10億人、即ち7人のうち1人は、常に清潔な水が得られない状態にあります。さらに、1日当たりおよそ5000人に上る5歳以下の子供が、汚染された水の利用や好ましくない衛生状態を理由に命を落としています。
汚染の問題に加えて、国際的な警告からは、総人口にして27億人以上を抱える46カ国が現在、水不足の危機に瀕しており、その原因は気候の変動だということです。世界の一部の国における水不足は、非常に深刻であり、これらの地域の人々の日々の最優先事項は、飲料水となるきれいな水を探すこととなっています。専門家の予測によりますと、気候の変動は水不足の問題に最も拍車をかけ、世界では年毎に農業や工業のための水の需要が高まっていると見られています。国連事務総長の談話によりますと、これから10年後には、世界で18億人が、水の備蓄量の限られた地域で生活し、またこれらの人々の3分の2が深刻な水不足に直面するだろうということです。
水資源の減少により、世界各地で食糧やエネルギーの生産が減り、世界各国の政府が多くの問題に直面する可能性があります。水の問題の世界的な専門家、アレクサンドラ・コストー氏は、アメリカ・ラスベガスに本拠地を置くウェブサイト、ウォーター・ポリティクスにおいてこの事実を指摘し、次のように述べています。
「水不足は、将来世界経済の発展に影響を与え、多くの問題や政情不安の元凶となるだろう。気候の変動とあいまって、水不足の問題とその影響は年毎に増大すると思われる。この重要な液体は、非常に値打ちのあるもので、石油に取って代わることも可能である。2025年までに、世界の総人口の半分以上が、また2050年までには世界の75%以上の人々が水不足に遭遇することになるだろう。現在すでに、一部の人々は水を21世紀の石油とみなしている。これは必ずしも正確な言い方ではないにせよ、将来は水の獲得が世界の経済発展や各国政府の政策となるであろうことは一目瞭然である」
これ以前にも、アメリカの外交専門誌フォーリン・ポリシー所属のアナリスト、シェーン・ハリス氏は、「諸国民の危機」と題した気候変動と水の問題に関する記事において、次のように述べています。
「テロ組織ISISの問題は忘れることにしよう。次にやって来る危機は水不足であり、これは各国を窮地に陥れる。現在、一連の問題が存在しており、それらは様々な方法で各国の間の争いや衝突を引き起こしている。だが、近い将来、各国の政府間の緊張を増す原因となるのは水不足であり、これは新たな戦争の火種となる可能性がある」
シェーン・ハリス氏はまた、東アフリカにおける水不足の危機についても触れ、この地域での旱魃が、水を求めるソマリアの各部族間の間での致命的な争いを引き起こしたと述べています。
数多くの調査から、現在既に水の問題をめぐる緊張や対立の兆候が存在することが分かっています。その例として、2年前にはエジプトとエチオピアで、ナイル川の水をめぐる対立が生じ、この両国を軍事衝突の寸前にまで追い込みました。また、現在水不足に悩んでいるヨルダンの政府関係者は、水をめぐる争いはアラブの春と呼ばれた民主化運動よりも多くの犠牲者を出す可能性があると警告しています。さらに、複数の報告からは、シオニスト政権イスラエルがパレスチナ人の3倍以上の水資源を利用しており、これが原因で水の利用方法は常にパレスチナ自治政府とシオニスト政権の間の対立の焦点の1つになっていることが分かっています。また、もう1つの実例には、水資源をめぐるトルコ、シリア、そしてイラクの対立が挙げられます。ハイドロポリティクスの専門家の多くは、トルコがシリアの反体制派やシリアの現政権の崩壊を支持する理由のひとつは、チグリス・ユーフラテス河をめぐるトルコとシリアの衝突だと考えています。シリアも、これまでに繰り返し、水の問題でトルコに圧力を行使するために、いくつもの政治的な手段を活用してきました。
さらに、南アジアではインドとパキスタンがインダス川の利権をめぐって対立しています。また、ヒマラヤ山脈を水源とする複数の河川を自国のものにするため、中国、ネパール、インド、バングラデシュが激しく対立しており、およそ5億人の水の需要を満たすこれらの河川の利権を少しでも多く獲得しようとしています。
中央アジアでも、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタンの間にはアムーダルヤー河とシールダルヤー河、そしてアラル海を水源とする複数の河川をめぐる緊張が存在します。また、南アメリカではアルゼンチンとウルグアイが、両国の国境を流れるラプラタ川をめぐる争いを、オランダ・ハーグの国際司法裁判所(確認済み)に提訴しました。一方で、アメリカとメキシコも、リオグランデ川とコロラド川のより多くの利権を主張しており、この対立は今なお続いています。アフリカでも、ボツワナ、モザンビーク、ザンビア、ジンバブエの間で、これらの国々を流れるザンベジ川の利権をめぐり緊張が起こっています。さらに、モーリタニアとセネガルも、両国で共有する水源の管理をめぐり対立していました。
イランのローハーニー大統領は2014年に、アメリカ・ニューヨークでの国連気候変動サミットにおいて、基本的に、人間にとって必要であり希少なものは全て、対立や紛争、戦争の原因となると述べています。そして、この事実は決して否定できません。
これまでお話してきたことから、未来の世界は水の世界であるといえます。それはまさに、水の重要性が理由であり、各企業がこの分野に投資する兆候が広がっています。例えば、水不足に瀕しているイギリスはスコットランドの水をイングランドに移送する排水パイプラインの敷設を検討しています。トルコも、これと似たような計画により、中央アジアやキプロス、ギリシャ、エジプト、マルタ島に水を輸出することになっています。このため、こうした国際的な取引において、独立した水源を持つ国のほうがそうでない国よりも有利な立場に立つことになります。
今後数十年間に水を貿易商品として利用できる国は、神から与えられたこの資源により巨額の利益を得られるものと考えられます。もっとも、こうしたプロセスの拡大は人権活動家による大きな反発を受けています。彼らは、水は空気と似たようなものであり、水のために代金が支払われるべきではないと考えています。多くの国の政府も、水は人権の1つであり、水の権利を断念することは生存権を断念することに等しいという理由で、水を不動産と同様に扱うべきではない、と強調しています。