イランの自然;ザグロス山脈・オシュトランクーフ
今回は、イラン西部・ザクロス山脈にあるオシュトランクーフをご紹介致しましょう。
標高4250メートルのオシュトランクーフ山脈は、イラン西部・ロレスターン州・アズナー行政区の南、5キロのところに位置し、イランのみならず、世界の価値ある自然の遺跡とされています。この類稀なる山脈は、多様な動植物が見られることから、1960年ごろ、イランの自然保護区に指定され、その後、1970年ごろには、世界の自然環境保護区に指定されています。この美しい山脈は、いくつかの高山が連なって出来ており、その高度と連なりが、あたかも、らくだが並んで歩いているように見えることから、ペルシャ語で、「らくだの山」を意味する、「オシュトランクーフ」と呼ばれています。夏、オシュトランクーフの雪の上から吹きこむ微風が、アズナー行政区に涼しさをもたらします。また、このアズナー行政区は、オシュトランクーフと隣接していることから、冬になると大幅に気温が低下します。オシュトランクーフに生息する動物には、クマ、キツネ、ハイエナ、イノシシ、オオカミ、ヤギなどがいます。また、鷲、シャコ、フクロウ、アヒル、タカなどの鳥類も見られ、これらはすべて、イランの行政の環境保護下におかれています。
この地域の景観は非常に美しいものです。この一帯には、ピスタチオの林が多く、また、オシュトランクーフの緩やかな斜面に広がる平原には、多種多様な植物が見られます。これに加え、自生の草花が、この地域の美しさを倍増させています。概して、オシュトランクーフに生息する動物にとって、この多様な植物は、貴重な食べ物であり、また生殖に適した場所となっているのです。
オシュトランクーフには、イランだけでなく、世界各地から、多くの登山家、観光客、そして地質学者たちが訪れています。オシュトランクーフの山麓には、美しさで知られる多くの村が存在しています。石でできた家、輸出用の花を栽培する畑、はちみつの養蜂場、雪の多い山頂から流れ込む川、これらは、見る者すべてを魅了する光景です。実際、この地域の自然は、創造の壮大さを物語っています。この聳え立つ高山の間には、大ギャハルと小ギャハルという名の2つの淡水湖が存在し、この地域の自然の魅力を倍増させています。
●オシュトランクーフの森の真珠、ギャハル湖
オシュトランクーフの頂上は、一年中、雪に覆われ、その山岳氷河の歴史は、数万年前に遡ります。オシュトランクーフの最高峰、サンボラーンに登ると、南側の山麓に、美しく澄み切った淡水湖が見えますが、この湖は、オシュトランクーフ山脈やクーフサブズという山の雪が解け、谷間に向かって無数に延びる小川から流れ込む水によって出来上がりました。オシュトランクーフの森の真珠とも呼ばれる、この美しい湖は、ギャハル湖と名付けられています。ギャハル湖は、標高2360メートルのところに位置し、1.5キロ東に行ったところに、もうひとつ、「上部の湖」と呼ばれる湖があります。ギャハル湖は、縦およそ1500メートル、横は平均600メートルの大きさで、深さは38メートルに及びます。冬になると、この湖の表面はほとんど凍り付きます。この湖は、1890年、3ヶ月に渡ってこの地域を研究した、イギリス人の女性旅行家、イザベラ・ビショップ氏によって紹介されたのをきっかけに、多くのヨーロッパの旅行家に、イランを代表する湖として知られるようになりました。しかし、歴史資料によれば、ギャハル湖を最初に発見したのは、オーストリアの地質学者で、1888年、ギャハル湖の発見者として、その名を歴史に残しているということです。また、1891年には、フランスの旅行家ドモルガン氏によって、最初の映像が取られました。
●ギャハル湖を訪れるルート
ギャハル湖を訪れるには、いくつかの行き方がありますが、最も多く利用され、簡単なのが、羊飼いたちのルートと、遊牧民「ゴダール」のルートです。ここには、多くの澄んだ泉や流れの速い川があり、よく知られた、適当なルートであるとされています。湖の周囲に生える柳の木、各種の灌木、植物、美しい花々は、まるで自然公園のような様相をかもしだしています。このことから、ギャハル地域は、散策に適した場所とされています。都会の喧噪を離れ、湖の澄み切った水を眺め、山からの涼しいそよ風を浴び、ほそばぐみの木の香りを吸い込むこと、さらには、サンボラーンとゴルゴルの雪を頂いた山頂を目にすることは、自然を愛する人々の心に、安らぎを与えてくれます。オシュトランクーフの魅力は、もちろん、ギャハル湖や、その周辺に見られる動植物に限られたものではありません。この他、この地域の見所として、アズナーの雪のトンネルを挙げることができます。このトンネルは、アズナーの渓谷に通じる美しい村々を抜けたところにあります。
●アズナー渓谷
アズナー渓谷は、オシュトランクーフで最も美しい渓谷であり、様々な植物が生え、各種の動物が生息し、泉が沸き、川が流れています。そしてその周囲には、険しい岩山が垂直に聳えており、時に、昼まで太陽の光が差し込まないこともあります。この渓谷は、非常に硬い岩でできており、オシュトランクーフの高山に向かって、急な斜面ができています。流れの激しい川は、雪解け水によるものです。この渓谷では、硬い岩山の壁から外に突き出し、完全に水平に伸びている木を見ることができます。
●氷河のトンネル
渓谷のジグザグ道を過ぎると、オシュトランクーフの真ん中辺りに、数千年前の氷河である大きな氷の固まりが目に入ります。急流の川はここから始まり、雪のトンネルの出口から外に流れ出ます。この雪のトンネルは、他ではあまり見られないような、非常に美しい光景を作り出しています。山の高い所から流れる雪解け水が、氷河の中に、幅10メートル、高さ2メートルのトンネルを作り出していますが、このトンネルは、長さが800メートルあり、渓谷の傾斜に沿って、上から下まで延びています。観光客は、多くが、春から夏、そして秋の初めにかけて、日常の喧噪から離れ、類い希なる自然を目にするために、わざわざこの地にやってきます。