30年間給料が上がらない日本の労働者、企業への賃上げ圧力高まる
現在およそ50代の世代の日本の労働者は、その職業人生を通じほとんど賃上げの経験がなく、さらに今や数十年に及ぶデフレの後の物価上昇を受け、世界3位の経済大国は生活水準の低下という重大な問題の考察を余儀なくされています。
その一方で、企業もまた賃上げへの強い政治的圧力に直面しています。
こうした中、岸田文雄首相は企業に対し、従業員を支援して生活費の高騰についていけるよう強く求めており、先月にも企業にインフレの水準を超える賃上げを要請しました。これに対し一部企業は、既にこうした呼びかけに耳を傾けています。
世界の他地域と同様、日本でもインフレは主要な頭痛の種となっており、昨年12月の消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比で4%上昇しました。確かに、欧米に比べると依然として低いものの、日本国内では41年ぶりの高水準となります。
先月発表された昨年11月の賃金は、インフレの影響を考慮した実質で、過去10年近くでの最大の下落幅を記録しました。
また、OECD経済協力開発機構によると、2021年の日本の平均年収は3万9711ドルで、1991年の3万7866ドルから5%弱しか増えていません。一方でフランスやドイツといった他の主要7カ国(G7)は同時期で34%の賃金上昇を記録しています。
専門家らによれば、日本における賃金の停滞には一連の理由があり、その一つは物価の下落です。90年代半ばに始まったデフレは、輸入コストを押し下げる円高と国内の資産バブルの崩壊が原因となっています。
東京大学の山口慎太郎教授(経済学)は、「インフレの高まりを受け、人々は給料が上がらないことに対する強い不満を口にし始める公算が大きい」との予測を示しています。
また、専門家らは日本の賃金が伸び悩む他の指標として生産性を挙げています。
労働者が1時間当たりどれだけの成果を国内総生産(GDP)にもたらすかで計算される労働生産性は、日本の場合OECDの平均を下回っており、山口氏によれば、おそらくはこれが賃金の上がらない最大の理由だとされています。
さらに、OECDで日本担当エコノミストを務めるミュゲ・アダレット・マクガワン氏は「一般的に、賃金と労働生産性は共に上昇していく。生産性が上がれば企業の業績は伸びる。そうなったときに企業はより高い賃金を提示できる」と説明しました。
同氏によれば、労働人口の高齢化が、生産性及び賃金の低下とイコールになる傾向があり、加えて人々の働き方にも変化が生じていることを挙げています。
マクガワン氏によると2021年、日本の労働人口全体の4割近くがパートタイムや非正規雇用者であり、この比率は約2割だった1990年から上昇しています。マクガワン氏は、「こうした非正規雇用の割合が増えれば、当然平均賃金も低いままになる。彼らの給与は正規雇用より少ないからだ」としています。
さらに、エコノミストらは、日本独特の労働文化が賃金の低迷につながっている、と見ています。
格付け会社ムーディーズ・アナリティクスの東京在勤シニアエコノミスト、ステファン・アングリック氏は、日本では多くの人々が伝統的な「終身雇用」制度の下で働いている」とし、またマグガワン氏は「成果よりも役職や勤続年数に基づいて賃金が決まる日本の年功序列型の給与システムは、職を変える意欲を低下させる。他の国の場合、転職は賃金の押し上げに寄与する」と分析しています。
先月、岸田首相は経済が危機に瀕(ひん)していると警告するとともに、年3%以上の賃上げ中心的な目標に掲げ、さらには一歩踏み込み、より形式化されたシステムの創設を計画しています。
岸田首相も指摘しているとおり、このまま賃上げが物価上昇に追いつかない状況が続けば、日本は(景気後退と物価高が同時に進む)スタグフレーションに陥る恐れがあります。
今後日本政府が「新しい包括的な経済対策の一環としての、労働生産性の向上と一体化した賃上げ」をどう実現するのか、その手腕が問われることになります。