注目の日本映画「ドライブ・マイ・カー」;現代日本での生きづらさを描く
2019年に国際映画祭で数々の賞を受けた韓国映画「パラサイト 半地下の家族」に続いて現在、同じく現代の行きづらさを題材にした濱口竜介監督による日本映画「ドライブ・マイ・カー」が、世界の映画界を席巻しています。
映画「ドライブ・マイ・カー」は、映画賞シーズンに様々な賞をさらっています。今年の第94回アカデミー賞では日本映画で初となる作品賞にノミネートされたほか、第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門では脚本賞、国際映画批評家連盟賞、エキュメニカル審査員賞、AFCAE賞を受賞を受賞しました。現在では、2022年アカデミー賞で4つの賞にノミネートされ、これまで実に66の賞の受賞歴と100回のノミネート歴を誇っています。
この作品は、現代日本の一部の様相を物語っています。主人公の家福 ( かふく )は、演出家・舞台俳優であり、テレビドラマの脚本家である妻の音 ( おと )と裕福で幸福な生活を送っています。
しかし、妻は夜の営みの最中に、憑依状態のように不思議な物語を語り、家福がそれを記憶し、妻がそれをもとに脚本を書く、という共同作業を続けてきました。しかし妻には秘密があり、家福以外の複数の男性たちと寝ていました。それでも家福は、その事実を知りながら、妻を問いただしたり、話し合ったりせずに来ました。そしておそらく今後について、やっと話し合いの場が持たれようとした直前、妻の音は突然、くも膜下出血で死去します。それから2年後、家福は喪失感を抱えたまま、愛車の赤いサーブ900ターボを運転し、広島の演劇祭にチェーホフの『ワーニャ伯父さん』の演出家として参加します。愛車の中には、亡き妻が録音した『ワーニャ伯父さん』の朗読の声だけが響いている、というのがこの映画のストーリーです。
濱口竜介監督は、2014年に発売された村上春樹氏の短編小説集「女のいない男たち」に発表された「ドライブ・マイ・カー」をもとに、大江崇允とともにこの映画の脚本を執筆しています。
なお、この作品の主要なロケーションは韓国・プサンでの実施が予定されていましたが、新型コロナウイルス大流行の影響で広島に変更されました。また、原作では黄色のサーブ900・コンバーチブルとなっていますが、映画では風景に映えるようにと、赤色のターボ 2ドア・サーブ900ターボを使用して撮影されています。
この作品は、ゴールデングローブ賞の非英語映画賞を受賞した後、第94回アカデミー賞では脚色賞、国際長編映画賞、監督賞、そして作品賞の4つの賞にノミネートされています。さらには、メディアの映画評を数値化したサイト「メタクリティック」では100点満点中91点、アメリカの映画評論サイト・ロッテントマトでも98%の支持率を獲得しました。
濱口竜介監督は、英映画雑誌スクリーンデイリーとのインタビューで、「自分がいつの日か、スティーブン・スピルバーグ、ジェーン・カンピオン、ケネス・ブラナー、ポール・トーマス・アンダーソンなど、映画史上の偉大な人物を肩を並べることになるとは想像もしていなかった。彼らは、アカデミー賞獲得のために争わねばならないライバルたちである」と述べています。
同時に、同監督は「ドライブ・マイ・カー」を2時間59分に短縮するプロセスは非常に困難であったが、そのために最終的には美しく一貫した作品となったと語っています。