SNSを支配する西側のダブルスタンダード:テレグラムCEOの逮捕を読み解く
テレグラムのパーヴェル・デュロフCEOがフランスで逮捕されたことは、西側による個人の自由の遵守に関する主張および、社会における自由の必要性という彼らのスローガンがどのようなものかを、よりはっきりに示すこととなりました。
【ParsToday国際】フランス政府はデュロフCEOを、麻薬売買、児童への性的虐待、テロ拡散への加担などといった様々な容疑で逮捕しましたが、これは同国内外の批評家から大きな批判を受けることとなりました。
この件に関しては、フランス政府の行動を支持し、同国をはじめとしたヨーロッパの安全の維持のためのものだと評価する人々は少なくありません。しかし、その一方で、今回の逮捕が個人の自由に対するフランスのダブルスタンダード的行動であり、同国政府や西側世界の自由をめぐるあらゆるスローガンに反したものだとする人々も数多くいます。
ParsTodayは、今回の逮捕の様々な側面および西側世界における自由について、国際関係を研究するイランのラフマーン・ガフレマーンプール博士にインタビューしました。
SNSの独占状態で生み出される制御不能な脅威
ガフレマーンプール博士は、表現の自由が根深い哲学的問題として常に論争の種になってきたとしながら、次のように述べました。
「現実として西側諸国は、自由の問題をめぐり常にダブルスタンダードを用いてきた。そして今回のテレグラムCEOの逮捕でも、このようなダブルスタンダードの別の側面が明らかになった」
一方、フランスが現時点でテレグラムCEOと対立している理由を、次のように説明しました。
「テレグラムや各SNSに対しては、AI・人工知能の導入とより多くのユーザー情報の収集ができるようになったことで、過剰な反応が見られるようになった。これらのプラットフォームの所有者は、実際に誰もが、多くのユーザーを引き付けより多くの広告収入を得ることで財政基盤を強化し、さまざまな分野で独占的な存在になることを目指しているが、これは西側の政治家たちの望みとは真逆なものとなる」
「別の問題として、テレグラムをはじめとした仮想ネットワークに世界中のユーザーが大規模かつ無制限にアクセスできるようになったことで、西側諸国がそのような利用をめぐっても過剰に反応するようになったことがある。ユーザーは現在、セキュリティ面を心配することなく自身の情報を世界中に公開できるが、これは多くの政府にとってレッドラインにかかるものとなっている。実際、これらのプラットフォームがあるために各政府はもはや、さまざまな問題への介入や事態のコントロールを簡単に行えなくなっている」
また、フランスをはじめとした西側の自由をめぐるダブルスタンダードの例について、次のように述べました。
「フランスではまさに、女性のブルカ着用が禁止されている。自由の原則に基づいて人間に何を身に付けるかの自由がないとすれば、それは自由の侵害にあたるのではないだろうか? 別の例として、シャルリー・エブド紙もある。同紙に関わる事件では、フランスの人口の多くを占めるイスラム教徒が神聖視するものが侮辱されたが、それに対しての措置は取られず、フランス政府は言論の自由という枠組みでこれを正当化した。西側諸国のこうしたダブルスタンダード的行動は実際、さまざまな面で常に存在してきた」
そして、表現の自由をめぐり世界に存在する相反した考えと、それらの考えが西側各政府の行動にどのように反映されているかについて、次のように述べました。
「西側諸国は表現の自由に関連して、常にふたつの主要な考えを持ってきた。ひとつ目の考えは、彼らから見て有害なコンテンツを含んでいるあらゆる種類のプラットフォームを追跡・対処できるという意味での集団的利益を優先すべきというものである。彼らにとってこの考えは、集団的利益が提示されることから、民主主義とは矛盾していない。このような考えは、今回のテレグラムCEOの逮捕でも強調されていた。一方、それに相対する考えとなるのが、自分たちは自由な世界に住んでおり、需要に応じて供給が行われることから、いかなる制限も自由の侵害になるというものである。この考えを支持する人々が現在、フランスの措置を個人の自由への侵害として受け止めているのである」
自身の利益に沿って自由の境界線を決める西側諸国
ガフレマーンプール博士は、次のように述べました。
「現在の世界の政治家たちは、自身の政策の正当化および自身の利益の両方において(仮想ネットワークの)旨味を求めているように見える。フェイスブックが2016年、ユーザーに無断で彼らの情報の一部を、当時米大統領選に参戦していたトランプ氏の陣営に提供し、同氏の勝利に大きく寄与したのは、そのような例だ。しかし今回、テレグラムはテロや麻薬などの関連で悪用されたことで、デュロフCEO逮捕の口実を作ってしまった」
言論の自由は理想論
ガフレマーンプール博士は、権力が個人および社会の自由という名のもとに行ってきた事柄について、次のように述べました。
「言論の自由とは理想論であり、それは実際、常に権力の従属物であった。シオニスト政権イスラエルが取るパレスチナ人への行動をめぐる西側のメディア政策は、まさにその例だ。西側メディアは長年にわたり、イスラエルおよびパレスチナの子どもたちについて取り上げず、イスラエルのパレスチナ人に対する非人道的措置に関してほとんど報じていない。残念なことに、このような苦々しい問題が存在する」
「言い換えれば、現実の世界にあっては、常に経済的・政治的力を持つ国々がメディアの主体となってきた。世界のさまざまな国の危機や諸問題についての英BBCや米CNNの報道は、それを証明しうる。また、西側諸国の各メディアが、イスラエル政権によるパレスチナでの犯罪、コーランの焼却などのイスラム教徒の宗教的基盤に対する不躾な行為、黒人への暴力的対応などに注意を向けず、正しく報道しないことも、その例に挙げられる」
一方、特に社会的・政治的危機にある西側諸国が、イランに対しメディアを通じて圧力を加えている、あるいは自由の侵害をめぐりイランを非難している一方で、自身の利益となるよう自由をめぐりダブルスタンダード、さらにはマルチスタンダードと呼べる場を取っていることに触れ、次のように指摘しました。
「イランの政治体制と西側諸国とが対立し、イランが西側諸国の政策や要望に従わないことから、西側諸国は同国に対して常に敵対的立場を取ってきた。彼らはさらにこの数年、イランがプラットフォームの使用を制限して個人の自由を侵害しているとして非難を続けているが、その一方で現在、彼ら自身がこれまでになく、プラットフォームの制限およびコントロールの必要性を口にしている」
ガフレマーンプール博士はまた、近年の国際危機における西側メディアの関与について、次のように述べました。
「西側諸国の各メディアは、自由を主張しながら常に政府の政治的手先として動き、西側世界の各政府およびその政策に奉仕してきた。実際、さまざまな問題をめぐるメディア戦は常時起きていたが、西側メディアは西側政府の経済的支援を受けながら、その政策に沿った権力バランスのために役割を果たそうとしてきた」
そして、現在の世界における新たなプラットフォームに注目したメディアの未来について、次のように述べました。
「世界の政治的な変化につれて、世界的政策における各メディアの力も変化しているように見える。例えば、中国の強大化に伴い、国際的な場における同国メディアの力も強まっており、現在TikTokや新華社通信は、競争力のある重要なメディアとなっている」
ガフレマーンプール博士は、仮想ネットワーク上で行われている検閲や、複数のメディアでとられている矛盾した政策について、テロ組織ISISとの戦いで活躍したイランの故ソレイマーニー司令官の例を挙げながら、次のように説明しました。
「現在の世界では、メディアが行動の見本とされ、その結果、さまざまな概念をめぐり相反する認識が生み出されている。例えば9.11以降、西側世界により一部諸国の国民的英雄がテロリストとして扱われたり、逆に犯罪者を無実であるように見せることが横行している。つまり、独占状態になった時、独占者の力次第ですべての物事が定義されることになるため、多くの概念が変えられ、さらには新しい概念も持ち出されることになるのだ。そのような中、メディア自体が憎悪を広め、殺戮を引き起こしたケースも多くあった。フェイスブックで仏教の僧侶が不適切な投稿を行いイスラム教に対する憎悪が広まったことから起きた、イスラム教徒のロヒンギャ族虐殺は、そのような例に挙げられる」
対策としてのインフラおよび専門知識の強化・展開
ガフレマーンプール博士は最後に、「イランのような国は、現在の仮想ネットワークおよび新たなネットメディアでどのような対応を取っていくべきか」という質問に対し、次のように答えました。
「我々はこの分野において、適切なインフラを構築し、AIの活用を拡大し、新たなテクノロジーを用いていく必要がある。我々が必要なインフラや専門知識を獲得した時、新たなプラットフォームや新しく作成されたメディア空間で戦うことが可能となる。これは、イスラム革命最高指導者も最近の演説で強調していた事柄だ」