米国はかくして世界経済を自らの武器へと転換
データやメッセージを伝送する世界の光ファイバーケーブルの大半が米国を通過しており、アメリカ政府はこれらのケーブルが自国に到達すればこれらのケーブル上のやりとりを制御できる状態にあります。
ここで、ペルーの企業がマレーシアの企業と取引を行おうとしている状況を想定してみましょう。企業による相互間ビジネス取引が難しくないことは言うまでもありません。通常、複数国間の通貨交換、さらにはある国から別の国への大量の情報交換は極めて平易です。
しかし、ここには問題があります。企業がそれを知っているかどうかはともかく、企業間の金融・非金融的やりとりはほぼ確実に間接的であり、おそらく米国または米国政府が大幅に管理している機関を経由することになります。取引終了後、米政府は取引を監視する権限があり、また望むなら取引を阻止できるのです。
言い換えれば、ペルーとマレーシアの企業は取引を履行できません。実際、ペルーとマレーシアを国際経済から排除することで、米国は多くのペルーとマレーシアの企業による通商貿易を完全に阻止できることになります。
この力を確固たるものにする要素の一部は明らかです。世界の貿易のほとんどは米ドルで行われます。ドルは、ほぼすべての大手銀行で受け入れられる数少ない通貨の1つであるとともに、最も広く使用されている通貨の 1 つであることは間違いありません。その結果、多くの企業が国際取引に当たってはドルを使用する必要があります。
ペルーの通貨ソールをマレーシアのリンギットに交換できる実際の市場は存在しないため、当然ながら、この兌換を円滑化する地元銀行はソルで米ドルを購入し、次にドルでリンギットを購入します。しかしこの手続きをするには、各銀行はアメリカの金融システムにアクセスし、アメリカが定めた規則に従わなければなりません。
アメリカが問答無用の経済力を持っているのには、それほど明確ではない別の理由があります。データやメッセージを伝送する世界中の光ファイバーケーブルの大半は米国を経由しており、これらのケーブルが米国に到着すると、アメリカはこれらのケーブル上のやり取り・往来を監視できるのです。実際、NSA米国家安全保障局は可視化できるすべてのデータに関する報告書を作成しています。したがって、米国はすべての企業や国の活動を容易に監視し、自らの競合相手がいつ米国の利益を脅かすかを予測し、対抗措置として重大な制裁を課す時期を決定できるのです。
ヘンリー・ファレルとアブラハム・ニューマンの共著『武器化する経済 アメリカはいかにして世界経済を脅しの道具にしたのか』には、米の監視・制裁の力について書かれており、この暴露本は、アメリカがどのようにしてそのような並外れた権力を手に入れ、それをどのように利用するのかを説明しています。
またこの2人の著者は、2001年の米同時多発テロがどのようにして米国にその権力行使を促したのか、そして米国の各構成部門の多くが中国とロシアにどのように圧力をかけたのかを詳述しています。さらに、「他国はこうしたアメリカの関係ネットワークを好まないかもしれないが、かといってそこから逃れるのは至難の業である」とも述べています。
さらに彼らは、米国が安全保障の名の下に多くが悪用されるシステムをどのように構築してきたかを示しており、「アメリカ政府は自国を守るために、繁栄した経済ネットワークを徐々に支配手段に転じさせた」と綴っています。そして、本書で明白に述べられているように、覇権を狙う米の試みは恐ろしい弊害をもたらす可能性があります。
米国は中国に対し、世界経済の大部分との関係断絶を強制することが可能であり、このことにより世界経済の成長が鈍化します。また、アメリカはその権力を利用して、何の罪もない人々や国に対して暴力を振るうかもしれません。したがって、世界の専門家らは完全ではないにせよ、少なくとも最も適切な方法でアメリカ帝国を制限することを考える必要があるのです。