イランの伝統演劇フェスティバル
テヘランで、8月31日から9月6日まで、伝統演劇フェスティバルが開催されました。
イランの人々は、昔から、伝統を大切にし、それを次の世代に伝え、残そうと努めてきました。そうしたイランの伝統のひとつが、演劇です。演劇は常に、人々の大きな関心を集めていました。この演劇は、宗教的、民族的な英雄たちの人生や戦闘をテーマにしたものであり、観客と出演者が一体となることで、見る者の心に直接、訴えかけるものでした。
イランの演劇のスタイルは、宗教劇、語り手が語る演劇、人形劇、影絵などであり、それらを通して、国の歴史、伝統、文化の重要性への注目を促すことができます。この30年、イランでは、伝統的な特徴を持つ演劇作品を保護し、広めるためのフェスティバルが行われてきました。このフェスティバルは、9月の初めに開催されています。
伝統演劇フェスティバルは、1989年に初めて開催され、10回目からは隔年となり、12回目からは、イラン以外の国も参加するようになりました。
伝統演劇フェスティバルでは、舞台演劇の上演の他、ストリート演劇、喫茶店の語り演劇、国際会議、ワークショップ、専門的な会議、脚本コンテストなどが行われています。
今回の伝統演劇フェスティバルでは、179本の劇が上演されました。そのうち168本はイランのもの、11本は、海外の作品となっています。また、20人の女性監督が作品を発表しました。
これまで開催されてきた伝統演劇フェスティバルでは、この分野の巨匠たちが称えられてきました。今回のフェスティバルでは、この2年の間に亡くなった、伝統演劇や宗教演劇の9人の芸術家の功績が称えられました。これらの芸術家はそれぞれが、伝統演劇のさまざまな分野で活動を行っていました。
今回のフェスティバルでは、新しい部門が加えられました。この部門は、イランの伝統演劇協会などの協力により、イラン演劇のジャンルを広げ、それを若い世代にも伝えていく目的で設置されました。
伝統演劇フェスティバルのファトフアリー・ベイギー事務局長は、今回のフェスティバルの人気について次のように語っています。「このフェスティバルが始まった頃に参加していた団体の数は12だったが、今回は、550の団体が、さまざまな部門に登録した」
演劇の研究者で大学教授のアルデシール・サーレフプール氏は、伝統演劇フェスティバルの開催は、イランの演劇にとっての明るいともしびだとし、「われわれの真のアイデンティティは、世界的な演劇にも矛盾しない、このような演劇によるものだ」と語りました。さらに、伝統演劇は、国の演劇の重要な戦略にすえられるべきであり、芸術家は、この種の演劇において役割を果たす上で遅れをとってはならないとし、「このフェスティバルは、イランの芸術の魅力を具現するものであり、この数年、広く支持されてきた」と強調しました。
伝統演劇に関するセミナーが、2日間に渡り、テヘランのシティー劇場で開催されました。このセミナーでは、イランや海外の研究者による40本の論文が発表され、演劇芸術に関心がある人々や学生に支持されました。
演劇研究者で、脚本家、監督でもあるゴトベッディーン・サーデギー氏は、このセミナーで、「ミールノウルーズィーの社会学的、美学的な側面」と題する論文を提示しました。サーデギー氏は、「ミールノウルーズィーは、イランの古い伝統儀式のひとつで、古代から、イランのお正月にあたるノウルーズの期間に、完全に象徴的な形で上演されてきた。また、数十年前のクルド人居住区での上演に関する報告も存在する」と語りました。サーデギー氏は、この演劇の特徴を紹介するとともに、この伝統儀式の社会学的、美学的な側面についても説明しました。
エチオピア出身のトブラ氏は、次のように語っています。「エチオピアには、86種類を超える伝統演劇がある。この国では、伝統演劇がふさわしい形で注目されていない。イランの人々が、自分たちのアイデンティティを維持し、このようなフェスティバルを開催していることは、非常に価値がある。これは、イラン人が、自分たちの文化的なアイデンティティを保護することを重視していることのあらわれだ」
トブラ氏は、伝統演劇フェスティバルのストリートや舞台の演劇に満足の意を示し、次のように語りました。「文化や伝統を紹介する唯一の方法は、国際レベルでフェスティバルを開催することだ。伝統演劇は、人々の文化の象徴であり、国家の発展は、伝統に基づいて実現される。伝統の保護により、国家は維持される」
トブラ氏は、イラン人の優しさに触れ、このように話しています。「今回のフェスティバルに参加した黒人は私だけだが、他の人と変わらぬ対応を受けている。多くの人から微笑みを投げかけられる。フェスティバルに出席しようと決めたとき、友人からやめたほうがいいと言われたが、私はイランを訪れてみたいといった。今、ここに来て、イラン人の優しさに触れることができて、本当にうれしく思う」
マレーシア出身のザイナル・アブドゥルラティーフ氏は、このように語っています。「マレーシアの伝統演劇は死んでいる状態に近い。この種の演劇の制作には費用がかかりすぎるため、芸術家は、現代的な演劇を好む傾向にある。伝統演劇の第一人者たちも、年齢を理由に積極的な活動を行っておらず、新たな世代が育っているわけでもない」
アブドゥルラティーフ氏は、イランは伝統演劇を重視しており、このようなフェスティバルを実施するための可能性や予算が考慮されていることは、喜ばしいことだとし、「これは、伝統を維持する機会になる」と語り、伝統演劇フェスティバルを肯定的に評価しています。