イランの伝統的な春の新年ノウルーズ
ノウルーズ便り 7つの縁起物の食布の傍らで
イランでは現在、ノウルーズを迎えており、イランの人々は春が到来し世界が新しく生まれ変わる祝祭を実施しています。
今回は、年が切り替わる瞬間に、7つの縁起物を並べた食布の傍らで行われるイラン人の儀式についてご紹介することにいたしましょう。
新年が始まる瞬間が近づいています。家族のメンバーはこの数日間、住まい全体の大掃除の後、ハフトスィーンと呼ばれる7つの縁起物をきれいに並べています。母親は、穀物の新芽・サブゼの載っているお盆を、ベランダから室内に移し、上の娘のマルヤムにこの新芽の束の周りを赤いリボンで結ぶように言いつけます。母親は、ノウルーズの際に家族の喜びと繁栄への希望をこめて、この新芽の束を7つの縁起物の食布に並べるため、およそ2週間前からお盆の上でたくさんの小麦を発芽させていました。現在、家族全員がこの発芽したサブゼの美しさに見とれています。まだ幼い息子のアリーは、真新しい服を身に着けてずっと母親のそばを歩き回り、見たものや母親のすることの全てについて質問を浴びせていました。母親はこれに対し、7つの縁起物のうちの1つについて、辛抱強く答えています。
アリーは、胸を弾ませながら、母親にこの食布は何かと尋ねます。すると、母親は次のように答えました。
「この白い食布をテーブルの上に敷いて、新しい年に変わるときに、ペルシャ語のアルファベットのS)で始まる7つの食べ物を並べましょう。そしてもちろん、コーランや色付けしたゆで卵、金魚の入っている金魚鉢、鏡、コイン、ヒヤシンスの花、お菓子も一緒に並べるのですよ。さあ、食布を早く用意するのを手伝ってちょうだい。まず最初にサブゼを置きましょう。次は、ホソバグミの実の入った器を並べましょう」
アリーはまた尋ねました。「お母さん、どうしてホソバグミを並べるの?」 母親は次のように答えました。「ホソバグミは、ホソバグミの木の実で、とてもにおいのする花が咲くことから、恩恵のシンボルとされているのよ」
すると、アリーは今度はニンニクの入った器を指差して言いました。「ニンニクも食布に並べるのはどうしてなの?」
すると、食布に並べるためのゆで卵に色を塗っていた、アリーのもう1人の姉のレイハーネが、次のように答えました。
「にんにくは、薬草としての特質があるから、これは癒しのシンボルとしてノウルーズの飾りに使うのよ」 そして、アリーの姉のマルヤムも、お酢の入った器を丁寧に並べ、アリーに次のように言いました。「お酢は、年季が入っていることや我慢強さの印なの。さあ、今度は台所に行ってソマーグを持ってきてちょうだい」
そこで、アリーはソマーグの入った器とりんごの入った籠を重そうに持ってきて、嬉しそうに言いました。「僕も、2つの縁起物を持ってきたよ」
すると、母親が言いました。「有難う。りんごも、健康と美しさのシンボルとして、7つの縁起物のハフトスィーンに加えましょう」
このとき、アリーの兄のソフラーブが、子供部屋から大声で尋ねました。「お母さん、僕に買ってくれた新しいシャツはどこ?探しても見つからないよ」
そこで、アリーは、それなら別の服を着ればいいじゃない、と言いました。すると、ソフラーブはこう答えました。「年が変わるときには、皆新しい服を着るんだよ。だから、僕も新しい服が着たいんだ」
アリーの姉のレイハーネは、きれいに色付けした卵を、ハフトスィーンの食布にきちんと並べて言いました。「私たちの家族の8人1人1人のために、卵を色付けしたのよ」
すると、そこへおばあちゃんが口を挟みました。「レイハーネちゃん、有難う。きれいに色を塗ってくれたわね」
このとき、父親が真新しい輝いているコインを並べて言いました。「ソフラーブちゃん、服は見つかったかい?それとも、探すのを手伝ってやろうか?」
すると、ソフラーブは、「お父さん、有難う。見つかったよ」と答えました。そのとき、アリーは父親に対し、どうしてコインをノウルーズの飾りに加えたのかと尋ねました。父親は、慈しみにあふれた声で、次のように答えました。
「コインはね、富や財産のシンボルなんだよ。お父さんも、新しい年には収入が増えてもっと恩恵が得られるようにと思って、コインを並べたんだ」
そこへ、おばあちゃんが麦芽でつくった甘いペースト・サマヌーの入った器を持ってきて、食布の脇に座り、ほかの縁起物のそばにその器を置くと、アリーに向かって次のように話しかけました。
「アリーちゃん、サマヌーを覚えているかな?これはね、先週近所の人に手伝ってもらって一緒に作ったんだよ。これで、7つの縁起物が揃っているかどうか数えてごらん」
アリーは言いました。「わあー。サマヌーはおいしいね。まず、サマヌーをお味見してみる。ハフトスィーンが揃ったかどうかは後にする」 すると、家族全員から大きな笑い声が上がりました。
おばあちゃんは、さらにこう言いました。「アリー、サマヌーを食べたかったら、ほかの器に入っているのが冷蔵庫にあるよ」
そこへ、ソフラーブが新しい服に着替えて入ってきました。すると、おじいさんがソフラーブの新しい服を褒めてから言いました。「ソフラーブちゃん、お前も金魚の入っている金魚鉢を持ってきて、清らかさと生命のしるしとして食布に並べてちょうだい」
すると、父親が言いました。「皆、早く食布のところに集まってね。年が明けるまでそんなに時間がないから」
そして、皆が7つの縁起物を飾った食布の周りに集まりました。中でも、アリーは落ち着かないようで何か言いたそうにしています。彼は、とうとう我慢ができなくなって言いました。「僕のお年玉はどこ?」 すると、おじいさんがコーランを手に笑いながら、食布のそばに座って言いました。
「お前とほかの皆のお年玉はここ、コーランのページの間に挟んでおいたよ。年が切り替わってから、皆にあげるからね」
アリーはすっかり安心して、嬉しそうにおじいさんに言いました。「おじいちゃんには、誰がお年玉をくれるの?」
すると、兄のソフラーブがアリーに視線を向け、笑いながら言いました。「お前も飽きないねえ。まだ聞くの?」
そこで、おじいさんは答えて言いました。「年上の人は、神様からお年玉をもらうんだよ。わしとおばあちゃんにとっての最高のお年玉は、年の変わり目をこうやって大事な子供や孫たちと一緒に迎えられることなんだ」
すると、母親がおじいさんを愛おしそうに見つめ、次のように語りました。「いえいえ、お父さん。とんでもない。是非これからも長生きしてお母さんも一緒に、皆で仲良く暮らせますよう祈るのみです。お父さんとお母さんがいてくださることは、ノウルーズの縁起物に花を添えるものです」
さて、いよいよ年が明けるときが迫ってきました。家族全員がそれぞれ、神に願い事を唱え、新しい年が素晴らしい年になるよう祈っていました。父親は、コーランを手に取り、コーランの節の朗誦を始めました。おじいさんは、年の変わり目の祈祷文を読み、その声は、皆の心に染みとおるとともに、家中に響き渡りました。すると、いつの間にか他のメンバーも一緒に朗誦を始めました。
“人々の眼と心を変化させるお方よ、昼と夜をめぐらせるお方よ、年をめぐらせ万物を流転させるお方よ、我らを最高の状態に至らしめ給え”
ちょうどこのとき、明るい音楽が流れ、テレビ番組の司会者が、「イラン暦1395年、明けましておめでとうございます」と告げました。家中には、家族の喜びに満ちた声が響き渡りました。家族全員が互いに口付けし、喜びながら年明けのお祝いの挨拶を交わしました。おじいさんは、コーランに口付けしてこれを開き、家族1人1人にお年玉を渡しました。さて、これからは親戚や友人知人などへの年始回りの準備をする時間です。
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