イラン北部ギーラーン州、アンザリー沼
イランの広大な大地は、多くの自然や観光名所を有し、エコツーリズムの可能性という点で、世界のトップ5に名を連ねています。このシリーズでは、イランの自然の恵みをご紹介して参りましょう。
アンザリー沼は、イラン北部のカスピ海沿岸、ギーラーン州にあります。緑の多いギーラーン州は、雨と森、米と絹糸で知られ、さくらそう、すみれ、ハスが咲き誇り、白鳥、カモ、ガンが羽を休める場所となっています。また、平原、海、山が隣り合わせに広がり、夜も昼も、波の音が、その砂丘や沿岸にさざめきます。この生命の活力がみなぎる場所は、神秘的な自然の存在により、安らぎを与えてくれるとともに、創造力を増すところとなっています。
アンザリー沼は、カスピ海南西の沿岸、ギーラーン州のバンダル・アンザリー南部にあり、セフィードルード川につながっています。この沼の面積は、およそ193平方キロメートルで、農業用水、河川、小川の水などが、この沼に流れ込んでいます。アンザリー沼には葦原、水深の浅い場所、水草の生える場所がありますが、これらは特定の季節になると、水の中に沈みます。
アンザリー沼には、スィヤーケシーム自然保護区、ソルハーンキャル野生動物保護区、セルケ野生動物保護区の3つの保護区が存在します。この地域では、狩猟、魚釣り、樹木の伐採など、環境破壊につながる多くの活動が禁じられています。アンザリー沼の東側と、スィヤーケシーム自然保護区の大部分には一面に葦が生えていますが、西側と中央部は湿原となっています。
アンザリー沼は、特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約・ラームサル条約で、国際的に重要な湿地のリストに登録されています。この条約は、世界各国に、互いに協力しあいながら、それぞれの国の貴重な湿地を保全していくことを義務付けています。
湖沼、湿地は様々な恩恵をもたらし、生態系や経済の観点から、地域、引いては世界的な問題にまで影響を及ぼすものです。イランのアンザリー沼も、例外ではありません。国内だけでなく、世界レベルでの生態系や環境問題から、地域の政治、文化、経済、社会生物学、地理に至るまで影響を与えるほど、大きな価値を有しています。例えば、これまでのアンザリー沼の文化、歴史を見れば、この沼が周辺の人間社会の形成において、どれほど大きな役割を果たしたかがわかるでしょう。また、地域の経済や人々の生活にも、昔から大きな影響を及ぼしてきました。アンザリー沼ではかなり昔から、様々な種類の魚の養殖や漁が行われ、また、この地域に成育する植物は、家畜のえさとして利用されてきました。さらに、周辺の自然の美しい眺めは、都会の喧騒から逃れようとやって来た観光客や、自然愛好家の心を慰めています。
この他、アンザリー沼は、生物学、植物学、生態学の点でも、大きな重要性を有し、研究者らは、この沼を、様々な分野における天然の実験室として利用しています。沼の水質、生物、海とのつながりは、様々な魚の産卵に適した環境を作り出しています。これらの魚は、地元住民の重要な食材であることはもちろん、地域経済にも、大きく貢献しています。アンザリー沼の持つ特質により、この沼でしか見られない魚や、ぼら、かわますなど、特定の期間に、海からやって来る魚も存在します。こうした魚は、産卵のために沼にやってきますが、それが終わると、再び海に帰っていきます。これに対し、こいやかわかますなどの魚は、常に沼に留まります。
アンザリー沼は、魚だけでなく、様々な渡り鳥にとっても、適した生息地となっており、毎年冬になると、数十種類もの渡り鳥が、越冬のためにやってきます。こうした鳥の代表的なものは、がちょう、白鳥、かも、さぎなどです。アンザリー沼周辺では、これらの鳥の狩猟、及び、売買が行われ、住民の生活を支える収入源となっています。また、アンザリー沼とそこに浮かぶ島々は、非常に美しい光景を作り出しています。
アンザリー沼で見られる植物は、水中に生えるもの、水面に浮いているもの、根が水中に張っているもの、そして土に生えるものと、全部で4つのグループに分けることができます。この沼で見られる植物の代表的なものは、はすです。これは水に浮かぶ植物に属し、非常に美しい花を咲かせます。沼をボートで移動すると、ハスの葉が水面を覆い、その所々に、ピンク色の美しい花が見られます。その上を、渡り鳥が羽ばたくという光景は、まさに自然の優美を物語るものです。この沼を訪れる観光客は、釣りをしたり、アンザリー沼の葦原の間を、ボートで移動したりして楽しんでいます。