7月 27, 2016 19:47 Asia/Tokyo
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今回は、自然環境における海や海洋の重要性について考えることにいたしましょう。

海や海洋は、塩分を含む水の巨大な集合体であり、地球の水資源の一部であるとともに、大陸などの陸地と海洋との境界である海岸線を形成しています。海や海洋という言葉は、時には同一の用語として使用されますが、海といえば通常は世界の海洋の一部で陸地に近い部分を指すことが多くなっています。およそ3億6100平方キロメートルある地球の表面積のうち、71%ほどは塩分を含む海水が占めており、いくつかの大洋と数多くの海に分類されます。

 

海洋は普通、4つまたは5つの大洋に分類されますが、海は数多く存在します。世界の大きな海といえば、地中海、ベーリング海、カリブ海、オホーツク海などです。大洋の平均的な深さは3.7キロであり、およそ13億4000万立方キロメートルの海水を有しています。このうち、1年間に330万立方キロメートルが蒸発し、雨や雪として地上に降っています。この結果、大陸の地下におよそ825万立方キロメートル、そして河川や湖沼にはおよそ125万立方キロメートルの水が淡水として備蓄されることになります。

 

汚染されていない大洋や海は、大気中の二酸化炭素を吸収するため気候のバランスが維持されます。例えば、過去200年で自然環境において人間が生み出した二酸化炭素のおよそ50%が、大洋や海により吸収されています。

 

海や海洋はまた、地上の気候を温暖に保ちます。おそらく、海や海洋の果たす最も重要な機能は、地球の大気や気温に与える影響と言えるでしょう。海洋が存在せず、乾いた陸だらけであり、地上に届くエネルギーである太陽エネルギーを吸収していたら、地表面の温度は摂氏67℃という計算になります。海洋は常に流動的であることから、太陽エネルギーを地球全体に拡散し、これにより陸地や大気が冬の間も温暖に、また夏の間は冷涼になるのです。言い換えれば、海洋が陸地の温度を適切な温度に維持しているということになります。

 

さらに、海や海洋は水や窒素の循環にも重要な役割を果たしています。深海における海流は、海水の温度や塩分の濃度の違いにより起こります。これに対し、海の表面近くの海流は、風や潮の満ち干の影響により発生した波の摩擦から起こります。また、海水面の高さの変化は、太陽と月の引力によるものです。こうした現象の方向性は全て、海洋の表面近く、あるいは海中から決まりますが、これらは地球の自転による結果です。さらに、海水の密度の違いにより海水に動きが生じ、これが大洋における海流を生み出すのです。

 

海中には、いくつもの海流が存在します。海流が生じる原因は複数存在しますが、最も重要な要因は、主に風とされています。2つの海流が互いに分離する箇所では、深海部の海水が海の表面に上昇してきます。例えば、地中海では蒸発する海水の量が、河川や降雨により流入する水の量を上回っています。このため、地中海の海水の不足を補うために、大西洋の海面近くの水が地中海に向かって流れるようになり、1つの海流を生み出しているのです。こうした海流が存在しなければ、動植物の生命にも影響を及ぼすことになります。

 

海洋、特に海底に対する人間の認識は、近年までは他の惑星に対する認識とほぼ同程度とでした。しかし、今日では月面に関する天文学者の知識は、深海に関する地質学者の知識を上回っています。恐らく信じがたいことかも知れませんが、これまでに12人の人物が月面上に降り立っていますが、海洋の最も深い部分である海溝に到達し、無事に生還したのはわずか2名の潜水夫に過ぎません。

 

現在、ユネスコ政府間海洋学委員会が海洋学やこれに関する研究を拡大することに努めて50年が経過しています。しかし、今なお海洋の(海底の)一部が発見されないままになっており、これは否定できない事実です。もっとも、研究者らは深海の海底にも生物が存在していることを発見しています。今から100年ほど前までは、海洋生物の生息範囲は海水面に近いところだけと考えられていました。

 

イギリスの自然学者エドワード・フォーブスは1840年、水深2100メートルの海底から生きたヒトデを発見しました。1860年にも、地中海の水深1600メートルの海底にあった海底ケーブルが、珊瑚などの生物に覆われていた事実が発見されています。近年においても、水中聴音器などにより、大洋の海底に生息する生物が発する様々な音が記録されており、それらは陸上における最も騒がしい場所よりももっと大きな音量を発しています。

 

研究者の間では、生物の存続にとって海や大洋が特に重要であるという点で、見解が一致しています。地球上における生命の痕跡が、まず海洋に出現したことはほぼ明らかであり、また生物の多くが今なお海洋に生息しています。これまでに行われた調査から、現在海洋にはおよそ23万種類の生物が生息していることが知られています。もっとも、深海にはまだ人類に知られていない部分が多いことから、海洋にはこの数字よりはるかに多い種類の生物が存在すると推測されています。

 

このため、海や大洋はまさに生命の源であり、地球上の70億人の人々が生きていく上で重要な役割を果たしています。何百万人という人々の食料の確保や移動、労働は、直接海洋に関係しています。世界の人々の4人に1人は、必要なたんぱく質を海で取れた食物により確保しています。また、世界の総人口のおよそ半分は、沿岸地域あるいは、海岸線から50キロ圏内に居住しています。さらに、世界の貿易のおよそ90%は、船舶により行われています。工業技術の進歩により、沿岸部のみならず深海での経済活動も常に増加しています。

 

人間の活動は、世界の海や大洋に数多くのマイナスの影響をもたらしています。例えば、さんご礁などに生息する生物や漁業は、行過ぎた違法な漁獲方法により、大きな被害を受けています。海や大洋を脅かしている要因の1つは、魚介類の乱獲です。世界では、年間数億トンもの水産物が水揚げされますが、それらの一部は水揚げの許容量を上回っています。こうした乱獲が2050年まで続いた場合には、一部の種類の魚介類が絶滅してしまうことが予想されいます。

 

過去には、海や大洋は限りなく大きいため、これに弊害を及ぼすことはできないと考えられていました。しかし、残念ながら今日、化石燃料の消費といった人間の活動が活発化したことにより、森林や農業が破壊され、大気中の二酸化炭素の量が日を追うごとに増加しています。海洋が二酸化炭素のガスの多くを吸収することから、海洋ではこうしたガスが飽和状態に達しています。その結果、海水の温度が上昇し、酸性化が進んでいます。このような海水の温度の変化や化学物質の流入は今日、多くの海中生物の存続を危険にさらしています。

 

例えば、体の一部が酸化カルシウムでできている貝などの生物は、酸性化した海水の影響でもろくなり、中には海水に完全に溶けてしまっていることもあります。さらに、ナガスクジラなどの哺乳類は、海水の酸性化によりエサの不足に瀕しています。また、地球の温暖化により、極地帯の氷の層が薄くなり、もはやホッキョクグマなどの重量のある動物の重さに耐え切れなくなっているのです。また、サケなどの魚の生息する海域が、過去に比べて激減していますが、これはこうした部類の魚が水温の低い海域に生息しており、海水の温度の上昇に伴って、より水温の低い海域に移動したことによります。

 

動物のみならず、人間も海や海洋の汚染に苦しんでいます。地温の上昇と氷山の溶解により、一部の海域では海水面が上昇しており、これにより沿岸地域の住民が予想を超える暴風や嵐に見舞われています。さらに現在、海や海洋は産業廃棄物の投棄場所と化しています。例えば、イギリスの面した北海の汚染の45%は、北海に注ぐライン川流域にあるヨーロッパ諸国が原因です。こうした状況が重なって、海域の生物の生息地や沿岸地域、島嶼部、そしてそれらの地域の経済が最大の被害を受けているのです。