9月 25, 2016 20:10 Asia/Tokyo
  • 原油流出による海洋汚染
    原油流出による海洋汚染

原油の流出による海洋汚染について考えます。

今日、海や海洋を脅かしている最も危険で普遍的な要素の1つは、原油による汚染です。原油による海洋汚染の問題は、1967年3月18日にリベリア船籍のタンカー、トリー・キャニオン号がイギリス南岸で座礁し、未曾有の油濁汚染事故を引き起こした際に初めて国際的な注目を集めました。この事件では、10万トンもの原油が流出し、イギリス空軍が海面での汚染拡大を阻止するため、このタンカーを軍用機で爆破し、船内に残存していた原油を焼却しました。

 

この事件がきっかけとなり、世界各国がこうした潜在的な危険に注目するようになりました。それは、油濁汚染が船舶内で活動中の乗組員や水生生物、そして海洋を脅かすのみならず、それを越えた大惨事となるからです。海面に直射日光が当たることにより、海面に拡散した石油が蒸発して蒸気となり、最終的には雨や霧となって地上に戻ってきて、農作物や人間、そのほかの生物が危険に直面します。

 

幾つかの統計によりますと、世界の海域では年間およそ1万4000件の原油流出事故が発生しているということです。それらの多くは小規模で、拡散した原油は回収されていますが、一部の事故は大惨事に発展しています。1989年には、アメリカ・アラスカ州のプリンスウィリアム湾で原油タンカーのエクソンバルディーズ号が座礁し、4200万リットルの原油が流出しました。また1993年には、イギリス・スコットランドとノルウェーの間にあるシェットランド群島付近で、リベリア船籍の大型タンカー・ブレア号が座礁し、9800万リットルの原油が北海に流出しています。(確認済み)

 

海洋汚染の主な原因が船舶であることは事実ですが、最大の汚染源は油田や油井プラットフォームにあります。2010年4月20日に発生したメキシコ湾での原油流出事故は、自然環境の最大規模の惨事の1つです。イギリスの石油大手BPの石油掘削施設「ディープウォーター・ホライズンでの爆発と火災により、11名以上の作業員が死亡しました。また、400万バレル以上の原油がメキシコ湾に流出し、不慮の原油流出事故としては最大級とされています。

 

メキシコ湾の油濁汚染は、300平方キロメートル以上に及び、この海域に生息する生物の多くを危険に陥れ、その生息地を破壊しました。原油が拡散してから数週間後には、ハタやフエダイを獲るために事故現場付近の海域に出かけた漁師たちが、これまでに見たことのない奇妙な病班や、裂傷のある魚を捕獲しています。この地域で行われた調査の結果、口の開いた傷や寄生虫による腐敗、原因不明の黒い斑点は、この事件から数年が経過してもなお、この地域の海中生物に影響が及んでいることを示していることが明らかになりました。海底深くに生息するサンゴや海草類、イルカやマングローブなどの動植物も、原油の流出による被害を受けています。

 

世界で、常に油濁汚染の危険にさらされている海域の1つは、イラン南部のペルシャ湾です。ペルシャ湾には、25基に上る大型の石油採掘プラットフォームがあり、さらに世界のタンカーの航行の30%を占めています。ペルシャ湾の湾口にあたるホルモズ海峡は、毎年2万隻から3万隻のタンカーの航路となっています。多数のタンカーの往来による数万トンもの石油の流出により、この海域は世界でもっとも汚染された海洋環境の1つとなっています。イラン自然環境保護機関のキャルバースィー海洋環境担当副長官は最近、あるインタビューにおいてこの事実を指摘し、次のように述べています。「2000年から2009年までの期間に、運搬により11万4000トンの原油が流出した。だが、2009年から2015年の間には、9万3000トンから13万5000トンが流出したと見積もられている」

 

タンカーの往来に加えて、ペルシャ湾には現在採掘を行っている800の油田・ガス田を抱える、34の産油地域や天然ガスの生産地域が存在します。特殊な状況における原油の噴出が、大惨事を引き起こす可能性があることは言うまでもありません。これまでに行われた調査からは、このような状況により世界における原油による汚染の3.1%がペルシャ湾のものとされており、これは世界平均の47倍となっています。

 

原油の流出による海洋汚染は、確実に動植物やそれらのエコシステムに破壊的な影響を及ぼします。それは、石油による油膜が酸素の吸収を妨害し、水生生物やそれらが必要とする要素を破壊してしまうからです。一方で、こうした汚染により日光が海底に届かなくなり、水生植物による光合成ができなくなります。

 

海洋に生息する生物の体内に石油が入ると、多くの場合その生物は死滅します。そうした海中生物にはサンゴ、食用或いはそれ以外の魚、二枚貝や巻貝、軟体動物やイソギンチャク、海綿やクラゲ、ウミガメ、イルカ、サメなどが挙げられます。一方で、水中に栄養のある物質が存在しないことから、一部の水生生物は十分に成長できなくなります。海洋に入り込んでくる余剰物質の多くは、分解されないまま何年も海中に残留し、酸素を消費するため、海水に溶けている酸素が減少し、鯨やウミガメ、サメ、イルカ、ペンギンなどの海の生き物の生存に悪影響を及ぼします。

 

海中の汚染物質を摂取した海洋生物は、食物連鎖のプロセスを通して、最終的には人間に到達し、人間の健康に影響します。これらの汚染物質は、人間の体内の組織に取り込まれて分解され、ガンなどの疾病や出生時の異常、さらには長期間にわたり健康に支障をきたすこともあります。

 

海鳥も、油濁汚染による大きな被害を受けています。海鳥の翼に原油が浸透して、翼が互いに癒着することで、空中の飛行が困難、或いは不可能になります。さらに水をはじくという翼の性質が失われ、海水の冷たさをもろに受けて死亡にいたります。メキシコ湾の原油の流出事故では、6000羽以上の海鳥が死滅しました。

 

海面に浮遊する原油はさらに、海中に含まれるミネラルと結合して重量を増し、次第に海底に沈殿して、大型の二枚貝などの底生生物(確認済み)やエビ、そのほかの着生植物にも破壊的な影響を与えます。さらに、このほかの重要な問題として、沿岸部に生息する水生植物への影響もあり、海草などの死滅が報告されています。

 

この数十年において、世界の多くの国々が海洋への原油の流出により自然環境の問題の高まりに神経を尖らせています。このことにより、国際社会は現在の問題を解消するための行動に乗り出しました。1969年には、原油による汚染に関する最も重要な取り決めが採択されました。しかし、この間に国際社会は、油濁汚染に関する地域の取り決めや国際条約を制定したのみで、各国の政府がこれを実行しなかったのでは無意味である、ということを実感しました。このため、この数十年において汚染源の制御、国際海域における各国の権限の範囲が、汚染取締り条約に沿って完全に法的な枠組みに治められるよう努力がなされています。これにより、各国間の干渉が阻止され、それぞれの国の権限が及ぶ範囲が明白に決められています。

 

これ以前にも、法的な取り決めによりタンカーをはじめとする船舶を原因とした汚染に関しては、その船舶の船主が責任を問われ、その賠償金を支払っていました。しかし、タンカーによる大規模な油濁汚染については、船主がその膨大な被害を賠償する能力がなかったため、1971年に油濁汚染による汚染損害についての民事責任に関する国際条約と、油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(確認済み)が定められました。その後は、大規模な事故においては原油の購買者により損害賠償のための予算が確保され、彼らが損害賠償の責任を負っています。

 

1992年には、「1992年民事責任条約」と「1992年基金条約」の2つの条約が採択され、1996年から発効しています。1971年と1992年に採択されたこれらの条約は、被害者の損害を100%補填することはできないものの、一連の対立を解消する体制を生み出しました。これらの年に定められた基金は、その後の海洋汚染による被害者への賠償能力を有していたことから、かなりの割合で国際社会を満足させています。しかし、こうした賠償金の支払いにより、生態系が蒙った被害は完全に解消されたのでしょうか?

 

 

 

 

 

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