11月 02, 2016 18:16 Asia/Tokyo
  • 砂漠化
    砂漠化

前回の番組では、土壌破壊の結果の1つである砂漠化という現象についてお話しました。今回はその続きとして、この現象が人間社会や環境に及ぼす影響について考えることにいたしましょう。

一般的に、エコシステムにおける乾燥状態や荒地の増大を意味する砂漠化は、人間の活動、あるいは自然的な要因によるものです。この要因には、過剰な放牧や耕作、鉱物資源の採掘、森林破壊、牧草地の消失、そして気候の変動などが含まれます。

 

砂漠化や土壌の疲弊は、世界経済に年間4900億ドル以上の損害をもたらしています。自然環境の専門家は、開発と自然環境、そして貧困の間にはまだ複雑で強い関係があると考えています。これまでに発表されている報告でも、自然環境の破壊に瀕している地域に貧困層の多くが居住しているという現実が明らかになっています。例えば、農牧などに使用できる土地全体のおよそ3分の2が疲弊しているアフリカでは、多くの社会の開発の速度が鈍化しています。こうした中で、世界の貧困層の半分は砂漠化が進み土壌の疲弊した地域に生活しています。

 

現在、世界で169カ国が砂漠化の影響を受けています。アフリカは、世界最大の乾燥地域であり、この大陸の実に3分の2が荒地や乾燥した土地となっており、度重なる激しい干ばつがアフリカ諸国の多くを脅かしています。北アフリカのサハラ砂漠は、1年当たり48平方キロメートルの割合で拡大しています。沿岸地域は、1000キロに及ぶ半乾燥ベルト地帯であり、サハラ砂漠の北側に位置し、この砂漠の南方には平原が広がっています。このベルト地帯に含まれる国のうち、ブルキナファソ、チャド、ジブチ、エリトリア、エチオピア、マリ、モーリタニア、ニジェール、ナイジェリア、セネガル、スーダンが、特に砂漠化の影響を受けています。

 

これらの地域では、生産力のある土地の消滅が貧困の悪化を加速しており、そのために農耕に携わる人々は、生活を維持するためにより肥沃な地域や大都市へ移住せざるを得なくなっています。専門家の集計によれば、こうした傾向は今後20年間続き、アフリカの半乾燥地帯の住民のうち6000万人が、それまでの住居を放棄して北アフリカやヨーロッパへの移住を余儀なくされると予測されています。こうした移住者は、いわば自然環境難民と言われています。

 

この危険は、いまや世界のほかの乾燥地帯に住む人々の多くの生活をも脅かしています。最新の統計によれば、現在ドイツとフランスの総人口の合計に等しい1億3500万人の人々が砂漠化により難民化する危険にさらされています。その例として、メキシコの乾燥地帯では毎年70万人から90万人の人々が、自分の住む村を退去し、隣国のアメリカに移住することにより労働者として就労しています。もっとも、こうした移民は、彼らを受けいれた先の国をも何らかの形で圧迫することになります。最近開催された、IPCC・気候変動に関する政府間パネルでは、2050年までに世界では1億5000万人近くが自然環境難民となる、という予測が提示されました。これらの難民のうち、数百万人には慢性的な栄養不良や貧困状態、病気への罹患や死亡、といった運命が待ち受けているとされています。

 

砂漠化という現象は、全世界における恒常的な発展、生物の多様性や自然環境の安全、貧困の撲滅、経済や社会の安定にとって深刻な結果をもたらす、1つの国際問題となっています。砂漠化や土壌の破壊のプロセスは、様々な問題を引き起こす可能性があります。経済、社会的な問題や政治的な危機は、国土の破壊による影響の一部であり、最終的にその影響により社会が甚大な被害を受けやすくなることも考えられます。政界では、各国における武力紛争の半分以上が、乾燥地帯における天然資源の利用や自然環境的な要因に端を発していると言われています。気候の変動や干ばつの発生、そして砂漠化の進行といった現象は、明らかにこうした問題を抱えている国同士の政治的な争いの大部分の引き金となっています。

 

一方で現在、世界ではおよそ20億人が非常に劣化した土地に依存しています。食糧の安全状況に関する、2014年の国連の報告によりますと、2012年から2014年までの間におよそ8億500万人が栄養不良に陥っており、即ち、世界で8人に1人が食糧不足に瀕していたということです。また、この報告によりますと、飢餓に近い状態にある人々の大半が、農業用地を失った発展途上国に暮らしているということです。このようなプロセスが続けば、将来大きな悲劇が発生することは言うまでもありません。

 

もっとも、専門家の見解では、砂漠化が進んでいる地域の多くは、肥沃な土地を再生する能力を持っています。国連のパン事務総長によりますと、全世界でおよそ200万ヘクタールの土地が生産可能な土地に復元できるということです。これらの地域の復元は、食糧生産の増大につながり、さらに気候の変動による悪影響の拡大を食い止めることになります。国連砂漠化対処条約のモニーク・バルビュー事務局長は、2014年の「砂漠化および干ばつと闘う世界デー」に際してのメッセージにおいて、次のように述べています。

 

「私たちは、小さな4つの行動により、歴史の歩む方向を転換させることができる。まず、多くの地域の破壊を阻止することである。それは、健全なエコシステムが自然災害から私たちを守ってくれるからである。このため、多くの破壊された土地の復元を、最優先事項に据えるべきである。これにより、土壌への悪影響が最小限に食い止められ、そうした土壌の自然回復力が復活する下地が整うことになる。次に、集団的、そして国際規模で土壌の問題を気候の変動に即した世界的な取り組みに据えることである。この重要な事柄は実現可能である。なぜなら、干ばつや土壌の破壊の影響を受けている169カ国の全てが、国連気候変動枠組み条約の締約国でもあるからだ。また、第3にこの願望を実現するために必要な動機付けを与える明確な指標や目的のある、共同での措置を設定することである。そして最後に、将来発生する可能性のある最悪の気候変動に対処するため、被害を受けている社会に能力をつけさせる上で必要な方策を打ち出すことである」

 

砂漠化に対処し、土壌の劣化や荒地の増加という懸念すべき現象に対応するため、1994年に国連砂漠化対処条約が批准されました。この条約は、国際的な合意に関する法的な強制力のあるより所であり、自然環境と発展に関連性を持たせ、土壌の恒常的な管理を行います。この条約の加盟国は、互いに土壌の維持や再利用開発、そして最も被害を受けやすいエコシステムや人々が存在する乾燥地帯や、これに準ずる地域における干ばつの影響の緩和のために活動しなければなりません。

 

もっとも、こうした目標の達成には、長期的な戦略や各国間の協力が必要です。これまでに、イランを含む193カ国が国連砂漠化対処条約に加盟しています。加盟国のうちの富裕国は、1年当たり一定額の支援金を、特にアフリカをはじめとする世界での砂漠化の阻止のため、この条約の基金に支払うことが取り決められています。この点については、これらの国による破壊工作も行われていますが、国際的な取り決めのもと、エコシステムは自然に森林や肥沃な土壌を砂漠化から守ることができるが、それには人間が自然界をその方向に仕向ける必要がある、ということを全ての社会が認識しなければなりません。自然環境の専門家によれば、資源の管理や土壌の包括的な管理と正確な監視により、未来の世代のための自然環境の自然な復元が、よりスムーズに行われるということです。

 

砂漠化によるもう1つの危険な現象は、砂塵や黄砂の発生です。これらの現象は、土壌の劣化により発生し、世界の人々の健康を脅かしています。砂塵や黄砂を食い止められない場合、多数の悪影響が生じますが、その1つは様々な疾病の蔓延です。砂塵や黄砂は、人間や自然環境にとってまた別の危険をもたらします。