2月 23, 2016 18:54 Asia/Tokyo

この番組の1回目と2回目にかけて、イラン音楽の特徴についてお話し、また前回の番組では、イラン音楽の特徴の一部、微分音の仕組みについて実演を交えてお話し、その即興性、フリーリズムが音楽の基本となっている点、そしてイスラム革命の勝利により、イランのいわゆる伝統音楽が、これまでよい形で維持され、西側の音楽の影響を受けずに発展しているという事実についてお伝えしました。

今回はその伝統音楽の旋法体系であるダストガーと、ダストガーを構成するフレーズの集合体、「ラディーフ」についてお話したいと思います。

ダストガーとは、日本語ではよく「旋法」、あるいは「モード」と訳されています。具体的には決まった音階とある決まったフレーズを持ちながら、特定の音を中心に進んでいく音楽の進行のあり方を指します。

イラン音楽の旋法体系・ダストガーは、シュール、マーフール、チャハールガー、セガー、ナヴァー、ホマーユーン、ラーストパンジガーという名前の、基本的な7つが存在し、これに加えてバヤーテ・エスファハーン、ダシュティ、アブーアター、バヤーテトルク、アフシャーリー、バヤーテコルドの6つの派生系、アーヴァーズがあります。このうち、バヤーテ・エスファハーンはホマーユーンからの派生で、それ以外はシュールからの派生系とされています。

ダストガーがどれほど違うのかについて、短いながら実際の音楽をお届けして、どれほど違うのかについて提示したいと思います。メジャー調のダストガー、マーフールの一部をお聞きください。タール演奏のダリウーシュ・タラーイーを中心としたグループの演奏と、次にマイナー調の代表格ともいうべき、バヤーテ・エスファハーンをお届けし、最後に、全音と半音の中間の音、微分音が多く含まれる体系、セガーによる演奏で、フーシャング・ザリーフによるタール、ファラーマルズ・パーイヴァルによるサントゥール、モハンマド・エスマイーリーによるトンバクの演奏をお届けしています。

このように、ダストガーが違うと、曲のかもし出すイメージはまったく異なります。とはいえ、特定のダストガーが特定の感情を表したり、決まった表現をとるということはありません。ただし、各ダストガーにはある種の表現の傾向といったものがあるのも、否定できません。たとえば、結婚式やお祝い事では、チャハールガーというダストガーがよく使用されてきました。

なお、この番組のオープニングテーマとして使われているのは、チャハールガーによる曲です。

ダストガーのそれぞれについては、今後の番組でお話する予定です。その中で、「モード」や「旋法」としての概念について、さらにご理解を深められるかと思います。

前回、イラン音楽がもともと即興の音楽であるという点についてお話しました。その場合、演奏者は、何も下地や規則がないままに、適当に演奏することはありません。イラン音楽の即興にも、取り決めのようなものがあり、それにしたがって演奏するのが、イラン音楽の即興演奏です。

イラン音楽では、即興演奏を行うにあたって、演奏者は、「ラディーフ」という、一連のフレーズを記憶している必要があります。演奏者は記憶の中にある「ラディーフ」のフレーズを組み合わせたり、独自のアレンジを加え、旋法体系に応じて演奏を行います。このラディーフは、「グーシェ」と呼ばれる小さなフレーズによって構成され、この小さなフレーズは、ダストガーごとに分けられています。小さいといっても、グーシェの一部はひとつの曲として独立するほどの長さを持っています。最小のグーシェは20秒もかからないことがありますが、シュールというダストガーの「シャラーシューブ」というグーシェは、すべて演奏すると15分程度の時間を要します。

グーシェは、たいていが拍のないフレーズです。かといってこのフレーズを極端な形で早めたり、遅くすることはなく、暗黙の了解によるリズムや速度の幅が存在します。それは現在も、音楽教育の場で、口頭により師匠から弟子に伝えられています。

グーシェの一例をお届けしたいと思います。ナヴァー旋法による、ネイシャーブーラクという名前を持つグーシェです。

また、基本的にすべての作曲は、特定のダストガーのグーシェにもとづいて行われました。それは歌も同じで、歌も特定のダストガーのグーシェを基本に作曲されていました。